第四話.まずは乾杯から

「それじゃあ改めまして!かんぱーい!」

「乾杯!」

「かんぱい」


一匹と二人は各々のグラスを打ち合わせた。

しゅわっとシャンパンの泡が音を立てる。兎にも角にも話がまとまったという事で、乾杯から始めるのだ。冒険者というのはとにかく酒盛りが好きだ。何かあれば理由をつけて宴会をしたがる。そういうものだ。


「よし、今日は飲んで良い日にしよう」


キツネのその声に、マヤがピクッと反応する。一瞬、猫が獲物を狙うような目になった。


「いいの」

「良いよ今日は特別だ。俺も取材が来るほど偉くなったんだし、今日の飲み代は任せな」

「やった」


クッと一息でシャンパンを飲み干すと、じゃあとばかりにマヤが手を挙げて女将を呼んだ。


「おばけウニのクリームチーズ和えと、トマトガニのブルスケッタ。あと赤ワイン」

「はいよ!」


ルシアはまだシャンパンも空いていないが、みるみるうちにマヤは赤ワインを飲んでしまった。ずいぶん上機嫌のようで、先ほどまでとうってかわって唇の端が緩んでいる。


「ひとくち芋のウニ乗せ焼きと、帝都のお刺身、お酒を〜ひやで」


ペース早くない?そう思ってキツネの方を見るも、キツネは我関せずといった顔で何やら肉を齧っている。


「ルシアちゃんは飲まないの?」

「いや頂いてます!」

「次は焼酎行く?」

「行かないです」

「飲みなよ〜」


マヤがどんどんルシアに絡んでくる。だる絡みだ。人見知りと聞いていたが、人見知りとは一体?人見知りの概念が崩れ去ったところで、再びマヤが手を挙げる。


「あー地獄マツタケとの網焼きと、ニンニンニクのホイル焼き。焼酎、お湯割り」


いつのまにかフードも取り去って、ニコニコ笑顔のマヤ。黒い髪に翠の瞳。ハーフエルフだからだろうか、整っているが幼くも見えるその容姿からは信じられないほど良く食い良く呑む。焼酎を飲み終えると、すぐに挙手して女将を呼んだ。


「ナッツと、とにかく度数の強い酒」

「ええ……」


思わず声が出てしまう。こいつはうわばみだ、ハーフエルフだと思ったが。じつのところ蛇だったんだ。謎の度数の高い酒を飲みながら、マヤが話しかけてくる。


「ねぇルシア?」

「はい?な、なんですかマヤさん」

「新聞のお仕事大変だよね〜朝早くからさ」

「いや、私は配達する人じゃなくて、記事を書く人なんです」

「ダメだよ!早起きしなきゃ」

「あ、はい」

「私もお母さんによく言われたの、早起きしなさいって。もう三世紀も前の事だけどね!」

「はぁ」


助けてくれとキツネを見るが、キツネは半分眠っているようでテーブルに突っ伏していた。


「ほら今の笑うところ、三世紀も前なわけないじゃん。エルフじゃないんだからさ〜」


やばいところに取材を申し込んでしまったのかもしれない。そんな彼女とくだらない話に興じていると、ヌッと大きな影がテーブルに落ちた。


「なぁ、お姉ちゃんたち。いい感じに楽しそうじゃん。俺らと飲もうぜ」

「うわ、また出た」

「あ?」


やばい、心の声が口から出てしまった。さっきとは違うリザードマンのグループだ。瞳の色が少し黄色がかっている。


「また出たってなんだよ、おい」


怒らせちゃったかも。言い訳をフルスピードで考えていると、マヤが追撃を入れる。


「蛇くんうるさいよ、自分の机に戻りなさい」


マヤの言葉に激昂したリザードマンがどかんと大きな音を立てて、テーブルを叩いた。思わず耳を塞ぐ。細かな牙の生えた大きな口を僅かに開けたかと思うと、腰から何か刃物を抜き放った。片刃の大きなナタのようなナイフだ。


「刃物なんか出してくんな、ばーか」


一つも恐れる事なく、マヤはリザードマンに喧嘩を売った。

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