第三話.肉が嫌いな魔法使いと肉食のキツネ
「炭酸水で……」
「はいよ!」
とりあえずの注文を通したあと、ルシアは手近なテーブルに腰掛けて店の様子を伺う事にした。さすがに片っ端から声をかけて、さっきみたいな絡まれ方をするのはごめんだ。冷えた炭酸水を飲みながら、ゆっくりと状況を確認する。
近所のお爺さん、労働者の打ち上げ。ワニと蛇の同窓会。色々あるが、冒険者風のチームも何組かあるようだった。
「どこから声をかけようか。黄金郷の探検に行きそうなチーム。どれかな」
しばらく物色していると、一人だけ人間の女の子がいることに気がついた。フードを深く被っているが、隙間から見える姿は間違いなく人間の女性だ。同じテーブルにはふわっとした毛皮のキツネが座っている。荒くれ男や獣人のチームよりは話ができそうだ。ルシアは意を決して立ち上がった
「あのー……ちょっと良いですか?」
「……」
ルシアが声をかけるが、深緑のフードを被った女は、目も合わさない。
「こいつ人見知りだから」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ」
ニッと口の端を歪めながら、キツネが応えた。背丈はルシアよりも少し小さい。
「座っても?」
「どうぞ、人間のお嬢さん」
「お仲間さんも人間じゃないですか」
そう言って人見知りだと言う女の子の方を見るも、なんだか妙な雰囲気だ。フードの奥の瞳は人間とは違う輝きだった。
「あ……エルフ!いやハーフエルフ?すみません!」
「いい」
そう言ってフードを被り直して横を向いてしまった。出会って早々に嫌われてしまったかもしれない。隣に座るキツネを見ると、肩をすくめて笑った。
「それで?俺たちに何か用かい」
「実は私、新聞社の者なんです。黄金郷エルドラアドを探検する冒険者を探していて」
「へぇ」
キツネはテーブルの上の干し肉を一つ齧った。
「当然、俺たちも行くよ。今日ここに集まったやつらはほとんど皆行くんじゃないか?黄金郷伝説、一世紀ぶりに目撃者が帰って来たんだ。これで心が踊らないやつは冒険者じゃないな」
キツネは同意を求めるように、未だフードを脱がないハーフエルフの方を見る。
「別に」
「おいおい、黄金の都だぜ。もっとテンション上げていけよ。ほらほら」
「これだから肉食は」
「何食おうがヒトの勝手だろ?」
「ばーかきつね」
ハーフエルフは、ナッツをキツネの顔目掛けて指で弾いた。彼は飛んできたそれをパクッと食べてしまった。
「黄金郷の探検に行くんですね。私も連れていってください!」
「は?」
「取材をさせてください、お願いします!迷惑はかけませんから」
「ついてくるって、素人にゃ危ないよ。前人未到の樹海の中に入って行くんだ。蛇も出るし、魔物も出るぜ?守ってやれる保証は無いぞ」
「ご迷惑はかけません、自分の身は自分で守りますから」
どうか、とルシアはキツネに頭を下げる。キツネはそれを横目で見ながら、もう一つ干し肉をがぶり。
「へぇ。あんた剣か魔法の心得はあるのか?」
「あー、カメラとペンの心得なら……」
「冗談だろ、死ぬぞ」
「それでもなんとか!」
やれやれといった面持ちで、キツネはハーフエルフの方を見る。彼女は眠そうな眼で応えた。
「死ぬのはキツネからだから。キツネは守って死ぬのが仕事」
「いやいや」
いつもの事なのだろうか、辛辣な言葉をかけられても彼は嫌な顔一つせずに受け流す。
「まぁいいや、ついてきてもいいよ。でも死んでも自己責任だぜ?」
「はい!私は新聞社のルシアって言います!今日からよろしくお願いします」
「俺はソロ。戦士のソロだ」
「魔法使いのマヤ」
二人と一匹のチームがここに生まれた。
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