第7話 メイド服
「お兄ちゃん、今日から私一人でお風呂にはいるから」
そんなレイネを生暖かい目で見つめ、リンネはもうそんなお年頃かと頷きながら了承する。すでに10歳のリンネにとって、妹とはいえ8歳の女の子と一緒にお風呂に入るのはどうだろうと思っていた。
「一人で頭洗えるのか?」
「だ、大丈夫、ちゃんと目をつぶって洗うから」
「それじゃ頑張れ」
「うん頑張る」
そう言ってレイネはお風呂場に駆けていく。両親がダンジョンで行方不明になってから、叔父である霧影ゲンタの家に引き取られてそろそろ一年になる。ゲンタはめったに家に帰ってこないので二人暮らしの状態だ。
リンネの暮らす第一ダンジョン都市と呼ばれるこの街は、元々はダンジョンから溢れた魔物を閉じ込めると共に討伐するために作られた。それと同時に覚醒者を一箇所に集めるための隔離都市ともいわれていた。
それも何年か経ち覚醒者の数も必然的に増え、人類の半数が覚醒者となった頃にはダンジョンから様々な資源を獲得する最前線となっている。ダンジョン、それは西暦の終わりに世界中に突如現れた。そしてそのダンジョンから溢れたモンスターが人類の約半数を滅ぼしたと言われている。
この国ではダンジョンが現れる前後に覚醒者と呼ばれる者たちが現れだした。その覚醒者が溢れた魔物を、現代兵器などを駆使し倒すことに成功した。覚醒者の活躍によりこの国では人の生存圏をある程度守ることが出来た。そして最終的には魔物をダンジョンにまで押し込むことに成功する。
この国は他国に比べると比較的被害が少なかった。理由としては覚醒者の数が多かったこともあるが、古来より超常のモノとの関わりがある人々がいたことも理由の一つだろう。その後紆余曲折あり、この国に最初に現れた九つの始原ダンジョンと呼ばれるようになるダンジョンを囲い込むように都市が作られ今となる。
この国では、覚醒者及び覚醒因子を持つものは必然的に九つの都市で生活をし、ダンジョンへ潜り魔物を倒し、様々な資源を持ち出すことを生業とするようになっている。そしてダンジョンから集められた魔石と呼ばれる宝石や、新しく発見された鉱石などが使われた技術の最前線はこの九つの都市に集約されている。
◆
さて話を少し戻すとしよう、リンネとレイナの両親は、母の弟である叔父の霧影ゲンタと同じで覚醒者協会の職員をしていた。仕事は都市の外に現れた小型ダンジョンの破壊である。
小型ダンジョンとは都市から一定範囲に突然現れるダンジョンのことだ。小型とはいえダンジョンなのでちゃんと資源は取れるのだが、都市の外という事で破壊するのが常である。放置して置くと魔物の氾濫にも繋がり、覚醒因子を持たない人々の生活圏がその分狭まることになる。
ダンジョンの破壊の方法は簡単だ、最奥にあるダンジョンコアと呼ばれる魔石を壊せば良いだけだ。その時も20人ほどのチームで、都市外の小型ダンジョンの破壊を目的として出動していたのだが、結果はダンジョンの破壊には成功したものの、そのまま20人は帰ってこなかった。
その20人の中にリンネ達の両親もいたわけだが、扱いとしては行方不明となっている。理由としては破壊されたダンジョンが崩壊する前に脱出できなかった人が数年後、崩壊した小型ダンジョンの近くに存在する始原ダンジョンから生還した例があるからだ。そのことにより小型ダンジョンは始原ダンジョンがその勢力圏を広げるために生み出しているといった説が出始めることになる。
そしてその情報を知ったリンネは、その時から覚醒者となり両親を探すことを目指すようになった。結果としてはコクーンでの覚醒の失敗を得て、このたび覚醒の水晶を使い覚醒者となったわけである。
すでに両親が行方不明になってから7年経ったわけだが、わざわざ思い出させることもないと思い言葉を止めたわけだ。
「確かお父さんとお母さんが行方不明になって、この家に引っ越してきてしばらく経った後だったかな」
レイネにとっては両親がいないことが普通で特に気負うことなど無いといった感じに見える。元々仕事の関係で家を不在がちだった両親よりも、兄であるリンネに世話をされて来た結果兄に対して特別な感情を持ってしまうのは自然な流れなのかもしれない。
「そうだったな、あの後すぐ目に泡が入って痛いって呼び出されたけどな」
「あはは、そうだったかなよく覚えてないや、そうだお兄ちゃん久しぶりに頭洗ってよ」
「それは色々まずいだろ」
「お兄ちゃん私の頭洗うの嫌?」
そう言ってレイネは上目遣いで悲しそうな表情を浮かべている。実にあざとい。そしてリンネはこの妹に弱いが良いお兄ちゃんなのである。
「はぁ、わかった、久しぶりに洗ってやる」
「やったー」
レイネは早速湯船から飛び出し椅子に座る。リンネは仕方ないなと言いながらもどこか嬉しそうではある。
「それでどれをどうやって使ったら良いんだ?」
「これがシャンプーね、その次がこっちトリートメントで、こっちがコンディショナーね、お兄ちゃんも使っていいからね」
「わかった、今度から使わせてもらう」
リンネはシャンプーを手にとり泡立てた後レイネの髪につけ、レイネの指導のもと洗髪を進めていく。シャンプーの泡を洗い流しトリートメントをつけ一度洗い流し最後はコンディショナーを使う。洗い流した後はタオルで髪を巻き直して再び二人して湯船にはいる。
「思ったより髪が長いと大変だな」
「そうでしょ、お兄ちゃんも気をつけてね、せっかくきれいな髪なんだからさ」
「あー、無性にバッサリ切りたくなってきた」
「ダメだからね、せっかくきれいな髪なんだから」
「わかったって、ドサクサに紛れて胸掴もうとするな、髪と関係ないだろ」
「だってー、お兄ちゃんずるい、それ私に頂戴」
「そんなこと言われても知らんし、あげれるものでもないだろ。さてと先に上がるからな」
リンネは湯船からあがり脱衣所へ向かう。それを追うようにレイネもお風呂から上がり蓋を閉める。
「あっ待って私も上がるよ、髪の乾かし方も教えるから。お兄ちゃんいつもドライヤー使わないで自然乾燥でしょ」
「いや、ずっと短かったし」
「それはだめだよ、いつもみたいにバサバサ拭こうとしたでしょ、ちゃんと丁寧に押さえるように水気を切るんだよ」
「こ、こうか?」
「そうそうそんな感じ、後はこれが着替えね」
レイネは普段通りに素早く着替えを済ませ髪をドライヤーで乾かし始めている。一方リンネはレイネが用意した服に着替え始める。なれない手つきでブラを付け、用意されていた衣服をまとう。
「着替え終わったね、髪の毛乾かすからしばらくじっとしててね」
レイネがドライヤーでリンネの髪を乾かし始める。
「うわーなにこれ、すっごいサラサラー」
レイネにドライヤーで髪を乾かされながらリンネは鏡の中に映る自分の姿を見ている。そこに映る姿は、どこからどう見てもメイドの格好をした銀髪の美少女だった。レイネが用意していた衣装とはフレンチメイド服という、やたら胸が強調されるような作りのメイド服だった。
「意外とかわいい、のか?」
「お兄ちゃんバッチリだね、すっごく似合ってるよ」
リビングに移動したリンネとレイネだが、レイネは
「いいよー、いい感じだよお兄ちゃん、そうそうそんな感じで目線をこっちに」
レイネの言葉に従い、意外とノリノリで色々なポーズを決め始めるリンネ、そのリンネの姿をμαを使い保存しまくるレイネ。こういう所が似たもの兄妹である。
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