第8話 碧眼の少女
水分補給と歯磨きなどを終えた後、リンネはレイネにオールインワンがどうとか言われ、顔にジェルを塗られている。
「風呂での髪もそうだが女って大変だな。これ毎日するんだろ?」
「そうだよー、お兄ちゃんも自分でできるようになってね」
「めんどくさい」
「あはは、私もたまにそう思うけどね、それでも好きな人にはきれいな姿を見てもらいたいからね」
「好きな、人、だと? おいレイネそれはどこのどいつだ、俺がしっかり見極めてやる」
「何言ってるの」
そこまで言って一度言葉を止めたレイネは、わざわざリンネのそばまで移動して耳元で「お兄ちゃんのことだよ」とささやく。
「ぐっ、おま、そういう冗談はやめれ」
「やーいだまされてやんのー」
「こんにゃろ」
リンネはレイネを捕まえようとするがするりとかわされる。
「捕まんないよー」
しばらくリビングで追いかけっこをしていたが、リンネは一向にレイネに追いつくことは出来なかった。
「あーもう寝るぞ」
「お兄ちゃんは先に寝ていいよ、私はこの服と洗濯乾燥してから寝るから」
「わかった、リンネおやすみ」
「はーい、お兄ちゃんおやすみ」
リビングを出て階段を上がって部屋に戻ったリンネは普段着ていた寝間着に着替えを済ませた。少し胸元が苦しいようで前のボタンは真ん中より下だけにかけられている。ちなみにシャツは窮屈なので結局着ておらず、胸元からは黒色のナイトブラが見えており白い肌との対比が扇情的である。
「はぁ、凄く久しぶりに外にも出たからか今日はなんだか疲れたな」
リンネはため息をつきつつベッドに上向きに倒れ込む。そこで傍らには電源が入ったままの
(もう一度レイネに覚醒の水晶のことお礼言わないとな)
差し出された覚醒の水晶、それを手渡す碧眼の少女……、そこでリンネはずっと感じていた違和感に気がついた。
(碧い眼? 見間違いか? レイネの目の色は濃褐色だ。見間違えたか、いやそんなことはない)
急いで
「あった」
HMDが外され視界がぼやけているところから自動記憶は開始されている。そのまま映像を再生し始める。
「どういうことだ……」
自動記録されていた映像を最初から確認したリンネだがそこには誰も映っていなかった、ただ映像に映っていたのは宙に浮いた覚醒の水晶だけだった。
「これってどういうことだ? 水晶を持ってきたのは誰だ? レイネではない? 俺が女になったのもあれが原因か?」
いくら考えてもわからないので、自動記録されていた映像が消える前に保存しておこうとした。だだリンネが考え事をしている間に映像自体が消えていた。
「おいおいどういうことだよ、こんなにすぐ消えるものでもないだろ」
わかんねーとため息をついてベッドに倒れ込む。
「もうわけがわからん、寝るか」
リンネは考えることを放棄して布団に潜り込み目を閉じる。何はともあれレイネに似た謎の少女がもたらした覚醒の水晶により、望んでいた覚醒ができた。ユニーククラスを得ることで女性になるという結果にはなったがこれでやっと一歩前に進むことができる。
そう考えた所でリンネは眠りに落ちた。動くものがないことをセンサーが感知してひとりでに室内の電気は消え、部屋にはリンネの静かな呼吸音だけが聞こえるだけになった。
◆
タイマーアラームが鳴る前、いつもの時間に目を覚ましたリンネは布団から抜け出し伸びをする。ついでに自分の両手を見て胸元に手をやり男に戻っていないことを再確認する。
「一晩たったら戻るかもと思ったが駄目だったか」
一つため息をついて階下へ向かう。いつも通り朝食を作りダイニングテーブルに並べた所でレイネがリビングに現れる。
「おはよう、ちょうど朝ごはんが出来たところだから食うぞ」
「
レイネは盛大にあくびをしてから席につく。
「「いただきます」」
二人は特に会話もなく朝食を平らげる。朝に弱いレイネの頭はまだ半分寝ているのでだいたい朝食時に会話はない。食事を終えてコーヒーを一口飲んだ辺りでいつも目を覚ます感じだ。
「ごちそうさま」
「食器はそのままでいいから、着替えて学校行きな」
「はーい、お兄ちゃんいつもありがとう」
そう言ってレイネは自分の部屋へ向かう。リンネはレイネの使っていた食器を自分の分と一緒に洗い水切りに並べる。μαに表示されている時刻を確認して叔父の霧影ゲンタが来るまでにはまだ時間があるなと考えながらテレビの電源を入れる。
テレビでは、どこどこに小型ダンジョンが現れたやら、第一ダンジョンの踏破階層の記録が更新されたなどのダンジョン関係の番組が流れている。
「それじゃあ行ってくるね」
「おう、いってらっしゃい気をつけてな」
「はーい、お兄ちゃんも気をつけてね」
レイネを見送ったリンネは洗濯済みの昨日買ったジーンズ一式に着替えてから、リビングに戻りテレビを再び見始める。昨日までならすぐに自分の部屋で引きこもりゲームをやっていたのだが今はそんな気分ではなかった。
昨日の映像をもう一度探してみたが消えているようで結局見つけることは出来なかった。リンネはテレビを消して伸びをしながらソファーに寝転び目を閉じる。
◆
「おいリンネ起きろ協会に行くぞ」
「あー、おじさん、ごめん寝てたわ、すぐ行くから先に行ってて」
キッチンに駆け込み水を一杯飲み家を出る。助手席に乗り込むと車は動き出した。
「レイネはちゃんと学校に行ったようだな関心関心」
「昨日は俺の付き添いだったからな。それよりおじさん、少し聞いてほしいことがあるのだけど」
「なんだかしこまって」
「俺の覚醒なんだけど……」
リンネは昨日の映像が消えていったことや、覚醒の水晶をもたらしたのが実はレイネではないかも知れない、といったことを包み隠さず全て話し終える。
「そんな事があったのか、それで自動録画されていた映像も消えていると、夢を見ていたって可能性はあるがどうだろうな」
「夢じゃないと思うけど、今となってはよくわからない。コクーンに入ってるときや覚醒の繭に入ってると夢を見ることがあるってのは聞いたことがあるけど、そのたぐいでも無さそうだし」
リンネとゲンタは二人してあーでもないこーでもないと話しているうちに覚醒者協会に到着した。覚醒者協会に入り込むと、昨日と同じ地下へ移動して部屋に入る。そこには白衣を着た一人の女性が待っていた。
「やっと来たね」
「すまんまたせたか」
「いま来たところだから気にするな。それと君が姫咲リンネくんだな。はじめまして霧影の同僚の
「あっ、はい、はじめまして、姫咲リンネです、よろしくお願いします」
「ほう、お前とは違い礼儀正しい子じゃないか」
「うるせーよ、40前のおっさんなんてこれで良いんだよ」
「とりあえずふたりとも座ってくれ、検査結果を話す」
リオンはそう言って、ファイルから何枚かの紙を机の上に並べた。
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