第6話 お風呂
焼肉を堪能したリンネとレイネは、叔父であるゲンタに家まで送ってもらった。
「明日には今日の検査の結果は出るだろうから昼前に迎えに行く、だからリンネは家で待ってろ、それとレイネは明日は学校いけよ」
「えぇー私もお兄ちゃんと一緒に行ったほうが良いと思うんだけど」
「ちゃんと学校にいけ、リンネが動揺でもしてるなら付き添ってもらったほうが助かるが、そんなことも無さそうだからな一人で大丈夫だろ」
「おーいレイネなんか荷物がいっぱい届いてるぞ、半分持ってくれ」
先に車から降りて宅配ボックスの中身を見ていたリンネが中身を取り出しながら玄関を開けて入っていく。
「はーい仕方ないね、おじさんお兄ちゃんのことお願いね、それじゃあおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
レイネが車を降りて扉が閉まるのを確認してゲンタは車を走らせる。レイネは去って行く車に手を振った後宅配ボックスに残っている荷物を持って家に入る。リビングではリンネがソファーにぐでーと寝転がっていて眠そうにしている。
「お兄ちゃんお風呂沸かすから先に入る?」
「風呂……か、入らないと駄目だよな」
「ちゃんと入って髪洗わないと焼肉の匂いがね」
リンネが髪を一房手に持ちクンクンと匂いを嗅いでみるがよくわからないようで、首を傾げている。
「着替えどうするかな、買うのすっかり忘れてたな」
「そこは任せてよ、ちゃんと買ってあるから」
「え? いつの間に」
「これだよこれ」
そう言ってレイネが先程宅配ボックスから回収した荷物をポンポンと叩く。
「お兄ちゃんさっき約束したよね」
「ん? 約束? なんだっけ?」
「私が選んだ服を着てくれるってやつだよ」
「えっと、もしかしてそれって」
「そうだよー、だからちゃんと着てよね」
「おま、それは反則じゃね」
「約束は約束だよ、もしかしてお兄ちゃん嘘、だったの?」
ソファーから起き上がったリンネに対して上目遣いで訴えるように覗き込んでいる。瞳をさり気なく潤ませるパフォーマンス付きだ。
「うっ……、わかった、わかったけど一着だけだからな」
「仕方ないなー、じゃあ一日一着ね、せっかく買ったんだし全部着てほしいな」
「わかった一日一着な、おっと風呂が沸いたみたいだぞ、レイネが先に入るか?」
「あーお兄ちゃん先に入ってて、これ先に片付けるから」
レイネはもう一度荷物をポンポンと叩いて見せる。
「そうか、それじゃあ先に風呂入らせてもらう、あー着替えどうするかな」
「着替えは用意するから大丈夫だよ、ここのどれかに入ってるから」
「はあ、変なのじゃないことを願っているよ」
リンネはそのまま脱衣所へ向かった。リンネを見送った後、レイネは荷物を一通り開けて整理を始める。その中からまずは下着をワンセット用意して、着てもらう衣装も一緒にまとめる。
「本当は一回洗濯したいんだけど流石に時間かかるよね、仕方がないから寝巻きはお兄ちゃんの今まで使ってたのを着てもらったら良いかな」
レイネは特に潔癖症という訳では無いが、購入した衣服などはできれば一回洗濯をしてから使いたい派閥に所属している。今回は仕方ないと諦めて一度自分の部屋へ向かい着替え一式を手に持ち、先程用意した衣服を回収して脱衣所へ向かう。
脱衣所からは、お風呂場のすりガラスごしにリンネがシャワーを浴びている姿が見えた。それを見てレイネは小悪魔のような笑顔を浮かべている。
◆
ほんの少しだけ時は戻り、リンネは脱衣所へ向かって歩く。すでに春は過ぎて梅雨に差し掛かろうとしているのに少し肌寒い。
リンネは衣服を脱ぎ洗濯かごへ放り込む。鏡で一度自らの姿を見てみる。鏡の中には銀色に輝く髪を持つ美少女の裸の上半身が映っている。小玉のメロンほどの大きさのある胸を見ても相変わらずそれには何も感じない。男なら欲情を感じざるを得ないほどの整った体のはずなのにリンネは欲情どころか、何の感情も浮かんでこない。
「どういうことだろうな、わからん」
首をひねりそれだけ呟いてお風呂場へ入っていく。まずはかけ湯をして体を洗う。続いて髪を洗う。元々短髪だったからか長い髪を洗うのに四苦八苦してしまう。なんとはなしにいつも通りシャンプーとリンスで適当に洗い終える。
髪についた泡を洗い流すためにシャワーをだして頭からお湯をながす。その時レイネがおもむろにお風呂場に入ってくる。シャワーの音で気が付かなかったのかリンネに反応はない。
「お兄ちゃん」
リンネの背後に忍び寄りレイネは唐突にリンネの胸を鷲掴みして揉みしだく。
「おわっ、えっ、なんで入ってきてるんだよ、後揉むな」
シャワーを止めて胸を掴んだままのレイネの腕を振りほどく。
「てへっ、来ちゃった」
「来ちゃ駄目だろ」
「別に女の子どうしだし良いでしょ」
「いや俺男だから」
「そんな見た目で男って言われてもねー」
「うっ」
「そんなことよりちゃんと髪洗えた? こっちのシャンプーとか使っていいからね」
レイネは自分が普段使っているシャンプーやトリートメントが置いてある棚を指し示す。
「一応洗えたぞ、それにしても長いとめんどくさい、切っても良いのかな、明日おじさんに聞いてみるかな」
「切るなんてとんでもない、そんなことお母さんは許しませんからね」
「誰が母親だ、まあいい風呂に浸かるから体洗え」
「はいはーい、あっその前に頭はバスタオル巻いてね髪はお湯につけないのがマナーだからね、うちじゃあ良いけど他の所で入るときは気をつけてね」
「お、おう、家以外じゃ入ることはないと思うが覚えておく」
レイネは体を洗い終わるとリンネの横に並んでお湯に浸かる。浴槽は個人宅にしては大きめで、もう一人くらいなら余裕で入れそうなくらいの大きさがある。
「こうやって一緒に入るのっていつぶりかな?」
「あー最後に入ったのっていつだったかな、確か小学校の……」
そこで言葉を止めたリンネは思い出していた。最後に一緒に入ったのは両親がダンジョンで行方不明になってからしばらくたってからだ。リンネが小学4年生の10歳、レイネが小学2年の8歳の時だった。
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