第5話 検査

 リンネとレイネは叔父である霧影きりかげゲンタが運転する車で覚醒者協会へ辿り着いた。


 この時代の車というのはエンジンのかわりに魔石が使われており静音に優れている、そしてその進行はタイヤを利用せず地面から少し浮く形になっていて、磁気を利用した物となっている。なにかの不具合があったときのためにタイヤはちゃんとついているが普段は収納されている。


 二人はゲンタに付いていき地下の研究施設に案内される。そこでデータベースを調べた結果、戦乙女というクラスの情報は見つからず、この時点で世界でたった一つだけのユニーククラスをリンネが獲得したことがわかった。


 その後は、健康診断から始まりμαに保存されていた男性だった時のデータと、現在のデータの比較などもされた。その結果、女になった理由はユニーククラスによる影響だろうという結論になった。実際ユニーククラスにより身体が変化したという事例は小さい物でも会わせるとかなりの数が確認されている。


 病院の患者が着る服に着替えたリンネと、付き添う形で一緒にいるレイネは次の検査が準備できるまでの間ゲンタと話をしている。


「お前らはドラゴンクラッシュって知ってるよな」


「確かアメリカの一線級探索者パーティーだよね」


「そうそうそれだ、それのリーダーのアルベルト・ドランも竜騎士というユニーククラスの持ち主なのは有名だな」


「詳しくは知らないけどドラゴンに変身できるとかってなんかで見た気がする」


「まあそっちのほうが目立つわな、それ以外にもだなアルベルトは人の姿の時でも体の所々にドラゴンのウロコがあるんだわ」


「それって」


「リンネと似たような事例だな、元々は普通の人の姿だったのが、ユニーククラスを得たことにより身体が変化したってわけだ」


「そうなんだ、俺の体もこの後変わったりするのかな」


「さあな、俺もそこまで姿形が変わった例ってのは……知らない訳では無いがあれは特殊だからなんとも言えんな」


「えっ、俺みたいに性別が変わった人って他にもいるってこと?」


「いるっちゃいるが、あれは血統によるものだからな、リンネとはまた違うケースだな」


「詳しく知りたいんだけど」


「まあいいが、おっと準備ができたようだ、移動するぞ」


 ゲンタのμαミーアに連絡が来たのか、会話を打ち切り部屋を移動する。移動した先にはカプセル型の大きなスキャン装置が置かれている部屋だった。


「あーお腹へってきた」


 リンネはお腹を擦りながらスキャン装置に寝転ぶ。


「すまんな今日はこの検査で終わりだ、終わったら好きなもの食わせてやるから我慢してくれ」


「やった、お肉、焼肉が食べたい」


「おう、わかったお前が検査してる間に店予約しておくわ」


「さっきからずっと黙ったままだけどレイネも焼肉でいいか?」


「えっと、はい焼肉好きですよ」


 なにか考え事をしていたのかレイネは上の空のまま返答する。


「それじゃあ俺たちは外で待ってるから、ほら行くぞレイネ」


「うん、それじゃあお兄ちゃんまた後でね」


 二人が部屋を出ていくとカプセルが閉まる。リンネは目をつぶり体の力を抜くと数秒で眠りに落ちた。



「検査が終わるまで一時間はかかるがこのまま待っておくか?」


「うん、ここでお兄ちゃんを待っとく」


「わかったそれじゃあ少し席を外す、何かあれば呼んでくれ」


「わかった」


 ゲンタが去っていくのを見送ってからレイネはμαを起動し先程から密かに行っていた作業に戻る。先程から上の空気味だったレイネが何をしていたのか、それは着せ替えシミュレーションである。


 先程盗み見た兄の身体データを入力して、色々な衣装を取っ替え引っ替えしていたのだ。下着から始まり、ネグリジェやパジャマ、変わり種はジャージやレイネが通っている女子校の制服だったりだ。


(これも可愛いし、ありよりのありよね。他にもこれもいいわね。今のお兄ちゃんは素材が良いからこれもいいわね)


 次々と複数の下着と衣装を選んで購入していく。確かに着替えが一つというのは今後困るだろうし、買うのは間違ってない。だが購入された物がレイネの趣味全開だったりする。


 中にはすこーし、いやかなーり際どい物が混じっている。何がどう際どいのかはご想像におまかせするとしよう。レイネは満足げに何度か頷く。今の時間なら夜には宅配ボックスに届くだろう。


 買い物に夢中になっていたために気が付かなかったが、いつの間にか叔父であるゲンタが戻ってきていた。


「レイネ戻ってきたか」


「あっごめん、お兄ちゃんの着替えとか買い物してて」


「確かに必要だな、男物を着るわけにもいかんだろうしな。それは良いのだがリンネの意見とか聞かなくてよかったのか?」


「いいよいいよ、お金は私が出すしお兄ちゃんにちゃんと女の子の服とか選べないと思うから」


「リンネも災難だな」


「なにか言いました?」


「いや何も言ってない、そろそろリンネが戻ってくるだろう、リンネの着替えが終わったら飯食いにいいくぞ」


 検査室の扉が開き中からリンネが伸びをしながら出てくる。自然と胸元が強調されてついついレイネとゲンタの目がその膨らんだ胸元に吸い寄せられるのは無理もないのかもしれない。


「レイネもおじさんもお待たせ」


「おうお疲れ、今日の検査はこれで終わりだ、着替えが終わったら飯にいくぞ」


「よっしゃ、やっきにっくやっきにっく、ほらレイネも行くぞ」


 リンネのテンションはアゲアゲであった。



 リンネが着替えを終えると、駐車場へ向かいゲンタの車に乗り込む三人。まずは焼肉屋ではなくて服屋へ向かうことになった。リンネの着ている純白のワンピース姿では焼肉には向かないと思い立った結果である。ハネた油がその純白のワンピースを汚してしまうなんてもったいないといった理由だ。


 μαを通して服などは注文で買うのが一般的になっている現在だが、実際に試着をしたい層のために対面販売をする店も意外と多い。大衆向けのチェーン店に辿り着いた三人は早速服を選び始める。三者三様のコーディネートを試した後、最終的にジーンズとジャケットで落ち着いた。


「これなら多少汚しても洗濯で済むしバッチリだな」


「うぅ、もっとかわいい服が良かったのになー」


 レイネはうらめしそうにリンネを見つつブツブツと呟いている。


「似合ってるじゃないか」


「おじさん買ってくれてありがとう」


「良いってことよ、それよりさっさと行くぞ」


「そうだったレイネ、落ち込んでないで行くぞ、今度また一緒に買いに来たら良いわけだからな」


「私が選んだ服を着てくれる?」


「ああ良いぞ、着てやるから今は急ぐぞ」


「やった、言質とったからね、着てもらうからね」


 この時のやり取りをリンネは後ほど後悔することになる。帰宅すると、そこにはレイネが購入した衣装が大量に届けられていたからだ。そんな未来が待っているとは今のリンネには想像さえ出来なかった。

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