第2話 転生してもギャンブラーだった件

 

 俺は、異世界感あふれる街並みを堪能しつつ、助言に従って冒険者組合ギルドへと向かった。

 そして、そこに向かう間に、渡された贈物ギフトを確認する。


「謎の刻印が入った短剣一つ、金貨だと思われるものが数十枚…」


 これ等が凄いものなのか、はたまた産業廃棄物ただのごみなのかは、この世界の常識も物を見る目も持って無い俺にはわからないし…


 色々と考えていると、冒険者組合ギルドと思われる建物を見つけた。

 俺はその建物に入り、そこの受付に向かう。


「いらっしゃいませ!受付カウンターです。なんのご用件でしょうか?」


 受付の女性が、要件を訪ねてくる。


―ふと思ったが、俺は何故、この国の言語がわかるんだ?

 看板に書かれている字は日本語ではないのに、意味だけはわかる。これも贈物ギフトの一種か?


「ぼ、冒険者になりたいんですが…」


「冒険者登録ですか。でしたら、試験を受ける必要がございます。

 まずは、この水晶球に手をかざしてみて下さい。あなたの才能ステータスを計測します。」


 俺は指示通りに水晶球に手をかざす。

 すると、謎めいた数字や文字列が水晶に浮かび上がった。

 受付嬢は水晶に一枚の紙をかざし、水晶に浮かんだ文字を紙に写し取った。


「これには、あなたの持つ才能ステータスが記述されています。どうぞお受け取りください。

 それと、五之刻に実技試験を行います。そこまでに、万全の準備を行っておいてください。」


 彼女はそう言い、一枚の紙を俺に渡した。

 興味本位でそれに目を通すと、こんな事が書かれていた。


荒木陽翔ヒナト・アラキ 28歳 男   職業ジョブ【勇者】

固有技能ユニークスキル

博打者ギャンブラー

一般技能ジェネリックスキル

【剣術iii】【言語解読】【炎魔法ii】【雷魔法ii】【風魔法i】

耐性

【痛み減少】【物理攻撃耐性】【状態異常耐性】


 小学生の時、剣道を習っていたので、剣術の技能スキルを貰ったのはわかる。だがしかし…


「【博打者ギャンブラー】って何だよ!こっちまで来ても運ゲーかよ!」


 俺の嘆きが、ギルド内に響いた。




…終わってる俺のステータスに絶望し嘆いていると、あっという間に試験テストの時間がやってきた。


「今からテストを始める。受験者!覚悟は出来ているか?」


 試験官の問いかけに、受験者達は頷いた。

…いや、俺は一切覚悟出来てないんだけど。


「それでは初めに一番!上がってこい!」


 呼びかけに答え、一番の受験者がステージに登壇する。ちなみに、俺は三番だ。


「これから、Hランクテストを始める。

 俺の呼びかけに答え現れよ!【狩猟犬ハウンドドッグ】!」


 試験官のおっさんはそう唱え、一匹のドック―じゃなくウルフに酷似した獣を呼び出した。


 一応、テストのルールは調べてきた。

 まず、冒険者としてふさわしい実力を兼ね備えているか、試験管が呼び出した召喚獣と戦い、実力を測るらしい。

 もし、その試合に勝ったら、冒険者ランクを決めるために、続けて魔物との連戦を行う。

 俺、まず一戦目が勝てるのか?


 話をステージの上に戻そう。

 狼が受験者に向かって走り、噛みつこうとする。

 しかし、受験者は、持っていた大剣で攻撃を弾き、狼にカウンターを入れようとした。

 だが、狼も華麗な身のこなしでカウンターを避ける。

 お互いの技が当たらない、持久戦が始まった。



…五分程たった。受験者、狼の両方とも疲れが蓄積されている。

 しかし、大剣を持ち、重装備を身につけている受験者の方が、溜まる疲れは多い。受験者は狼よりも先に倒れてしまった。


「お前はここまでのようだな。…次!」


 2番の受験者がステージの上に登る。服装を見るに、今度は魔法使いっぽさそうだ。


「お前はGランク冒険者だな。では、Eランク試験から始めよう。」


 どうやら、彼はもう冒険者らしい。ランク昇格試験から始まった。


「来い!【巨大蟻ジャイアント・アント】!」


 おっさんはそう唱え、巨大な蟻を呼び出した。

 今度は蟻か。もし、俺が試験で戦う相手が同じ奴なら、あいつの行動パターンも覚えておかないとな。


 蟻は標的を見つけると、尻に付いている毒針から、男に向けて毒液を発射してきた。絵面が物凄く汚い。


 そんな毒を、魔法使いは魔法弾で相殺し、すぐさま火球を数個出現させる。

 複数の火球が蟻向けて飛んでいき、辺りを巻き込んで爆裂した。衝撃で土煙が上がる。


「やったか?」


 魔法使いが小さく呟く。あーあ、そんな死亡フラグ言わなければ良かったのに。

 先の攻撃を耐えた蟻が土煙の中から飛び出し、勝ったと油断していた魔法使いに襲いかかった。


「そこまでだ!」


 試験官の掛け声と同時に蟻が消える。


「敵の生死を確認するまで油断はするな!

…次、三番!来い!」


 あっ!もう俺の出番!?ヤバいんですけど!?。これ勝てるのか?

 怖じ気づきながら、俺はステージに上がる。


「では、試験を開始する。

 我が呼びかけに答え、来い!【狩猟犬ハウンドドッグ】!」


 試験官は、先の試験で戦っていた奴と同じ種族の召喚獣を呼び出した。

 行動パターンも見てたしこれなら勝てる。俺はそう思い、一つの技能スキルを使った。


 現役の冒険者に聞き込みし、試合開始までの待ち時間で練習したお陰で、技能スキルを使用するコツが掴めた。

 技能スキルには、無意識に自動で発動しているものと、発動と停止を切り替えれるものの二種類がある。

 技能スキルは大抵、使用者の身体能力を強化してくれるので、これをいくつ持っているかが冒険者の強さに直結するらしい。


 俺は【博打者ギャンブラー】に含まれているスキル、【鑑定眼】を使った。

 これは物の価値がわかるようになる…だけでなく、動体視力が良くなったり、相手の弱点なども分かるようになる技能スキルだ。

 さらに、俺は【博打者ギャンブラー】に含まれている【思考加速】―名の通り、頭の回転が良くなる技能スキルも併用して使う。


 二つのスキルの補正で、狼の動きがかなりスローに見えるようになる。

 襲いかかってくる狼の攻撃を避け、俺は手に持つ短剣で狼に一撃を入れた。

 カウンターが完全に決まり、狼は倒れ、煙となって消えていく。


「ほう、今回の試験にも、少しは出来る奴がいたようだな。

 お前さん、昇格試験も受けてみるか?」


 試合結果を見て、試験官がそう尋ねてくる。俺は頷き、その提案に承諾した。


「では、お前の実力を見せてみろ。

 来い!【巨大蟻ジャイアント・アント】!」


 試験官は先程の試験で召喚した蟻を、もう一度呼び出した。


 俺は早速【鑑定眼】を使い、蟻の身体的特徴を読み取る。

 うっわ、硬った。外骨格が予想以上に硬い。流石はあの火球を耐えただけあるな。


 しかし、生物である以上、絶対脆い部分はあるんだよ。

 俺は狙いを済まして、脆い部位―足の節―を斬った。足を無くした蟻は、バランスを保てず動きを止める。


「これで勝ちって事でいいですか?」


 トドメを刺せって言われても、俺の武器じゃあこの外骨格を貫く方法がないんだけど。


「ああ、それで合格だ。

 それで、次の試験も受けるのか?」


「はい、このまま次の試験もお願いします。」


 体力も魔力もまだまだ残っているし、出来るところまでは行っておきたい。


「健闘を祈る。

 俺の呼びかけに答えよ!【動鎧リビングアーマー】!」


 試験官は呪文を詠唱し、一つの甲冑を呼び出した。

 俺は、召喚獣の特徴を【鑑定眼】を使って見抜こうとする。

 へえ、あいつは不死者アンデッド―物理攻撃が効かない、魂だけの存在なのか。


 それなら短剣を仕舞い、違う手段を用いて討伐…としたいところだが、即席で戦う準備をした俺が、技能スキルでの補正が入った、短剣での剣術以外、戦闘方法を持つはずもない。

…使いたくなかった、この方法を除いては。


「運命回し、さいを決めろ!

 【賭博魔法ギャンブルマジック天裁ジャッジメント】!」


 俺は詠唱をし、【博打者ギャンブラー】のみが使える魔法、【博打魔法ギャンブルマジック】を発動させた。


 何が起きるか、誰に当たるか、魔法を唱えたものにすらわからない究極の天任せ魔法、【博打魔法ギャンブルマジック】。


 その中の【天裁ジャッジメント】は、世界に点在する魔法の中から一つ、ランダムに使われるというものだ。。

 逆転の一手を引くときもあれば、自爆魔法なんかも使われる可能性がある。最強最悪の運ゲーだ。


 今回選ばれたのは、氷の魔法だと思われるものだった。

 氷で出来た槍が、俺の頭上に数本現れ、鎧向けて飛んでいき、奴を貫く。

 氷槍が貫通し、鎧は動きを止め、煙となって消えていく。


「ほう、奴に勝ったか。

 それでお前、次の試験も受けるか?」


 試験官がそう言った。

 次の試験では、今のより強いのが来るのか。そう考えると…


「いや、ギブで」


 冒険者にはなれたし、目標達成だからな。


「そうか、では、冒険者組合ギルドに戻って待っていろ。準備が出来たら呼び出しが掛かる。

…次、4番!」


 試験官はそう言う。俺は試験官の指示通り、冒険者組合ギルドに戻った。





…俺は冒険者になった。これが、ギャンブル勇者として世界を救う第一歩なのだろうか?

…それはまだ誰にもわからない。


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