ギャンブル勇者の下克上

ゆずれもん

第1話 死、そして転生


 俺の名前は荒木あらき陽翔ひなと

 今、生きるか死ぬかの瀬戸際にいる男だ。




 俺は子供の頃から「学ぶ」ことが出来ず、毎回毎回テストは赤点。高校は中退。

 22歳になった今も、しっかりとした職に就かないで、毎日アルバイトすることで食い繋いでいた。


 文句を言いつつも、何だかんだ今の暮らしには満足していたが、三ヶ月前に俺の人生は変わってしまった。

 女に騙されて彼女の連帯保証人になってしまい、一億もの借金を背負ってしまったのだ。


 そんな窮地に現れたのが、株式会社ホイール・ホエールズ・カンパニーの社員だった。

 彼女は俺に「カジノのオープン記念のゲームに参加しませんか?」と提案をしてきた。諭吉さんの束を抱えて…


「あなたの借金については知っています。

 ここに100万ありますが、ゲームで勝ったらここにある金額の1万倍を差し上げましょう。」


 社員さんからの甘い誘惑。当然、俺は断れず、今、そのゲームを行っているところだ。


 ゲームの名前は「真実の口」。

 内容は、沢山ある変な彫刻の口の一つに、自分の首を突っ込んで、噛み千切られなければ勝ちらしい。生きるか死ぬか、運命の二択。

…よし、これだ!俺は思いきり、人生の分岐点となる決断をする。


「みなさ〜ん、覚悟は出来ましたか?いきますよ〜、3、2、1」


…ブシュ。


 んえっ、もしかして俺死んだ?

…しっかし、人間って首千切れても、少しの間は頭が回るって本当なんだな。

 俺は薄れゆく意識の中で、そんなどうでもいいことを考えていた。





…ついさっき死んだはずなのに、目が覚めた。ここは天国…いや、地獄か?


「あ、起きましたか、ヒナトさん。」


 突然、神秘的な美しさを持つ、銀髪の女性が俺のことを呼んだ。


「…ここは…どこですか?」


 思わず、疑問に思った事が口から出てしまい、まるでテンプレみたいなセリフを放った。


「ここは死後の世界、そして、迷える魂が次の転生先を見つける場所です。」


 そして、まるでテンプレのような返答を返される。次の転生先―つまり、俺がラノベや漫画みたいな異世界転生を出来るのか?


「はい。違う種族になったり、同じ世界に移ったりしますが、基本はそのようなものです。

…これが転生先候補を書類として纏めたものの一部ですので、目を通してください。」


 彼女がどこからか山積みの資料を持ってきて、俺の前に出した。


「ここの空間では時の流れがないので、じっくり選んでください。」


 彼女はそう言って、別の資料を出し、違う仕事を始めた。

 俺も、資料の一つを手に取り、転生先の模索を始める…





…猫、猫、カエル、猪…

…て、転生先が多すぎる…人間以外の選択肢が大半を占めているせいで、理想の「人」生が決めれねぇ。

 俺は自分で探すことを諦め、彼女に助言を求めた。


「敢えて挙げるなら、【転生勇者パック】とかがお勧めですかね。」


…て、【転生勇者パック】?何ですかそれは?


「様々な理由で困窮している世界へ、救世主として別世界の人間を送り込む。最近締結された新プロジェクトの総称です。

 これを選ぶメリットは、神による贈物(ギフト)を得た上で第二の人生を謳歌出来る。

 デメリットは、次の生では目的を達成するまで、神の監視がつくことですかね。」


…俺TUEEE!転生か、案外それがいいかも…


「決めました。俺はそれを転生先にします。」


 人生思い立ったが吉日、決断は早いのが重要。後、他の転生先資料を見るのが面倒くさい。


「…承知しました。では、勇者としての使命を全うしてきてください。

 助言を一つ。転生初日には冒険者組合ギルドに向かった方がいいですよ。」


 彼女の言葉を最後に、急に目の前が真っ暗になった…





…目が覚めた。俺は状況を確認するために、周囲を見渡す。


…人通りも多いし、ここは街の広場らしき場所かな?

 レンガ造りの建物や、馬車が走る姿とかを見るに、時代背景や文化は中世ヨーロッパ位か?

 さらに目立つものとして、剣を持った者や魔法使いっぽい者がうろうろしている。


「い、異世界転生スゲー!!」





…この時の俺は異世界の恐ろしさ、そして理不尽さを知らなかった。

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