第5話 嘲笑と刀
時刻――午前十時十五分。
広大なグラウンドに、数百人もの新入生が待機していた。
おそらく全員が〈魔導特科〉だろう。その証拠と言わんばかりに、待機している生徒は皆それぞれの〈神武〉を背負っている。どれもが攻撃性のありそうな代物だ。
「ふぅ、やっぱりこっちの方が落ち着くな」
そんな中。男に戻った綾乃は、なじみのある体に安堵の息を吐いた。
この身体だと刀も丁度よく収まる。臀部に帯刀している綾乃は、軽く辺りを見渡した。
やはりというか、刀を所持している者はいない。
ほとんどが剣や銃の類で埋められている。〈神武〉における剣・銃の数が多いのもあるが、扱いやすい、壊れにくい、副作用が少ないといった利点も要因としてあるのだろう。
無論、その中でも例外はあるが。
と、綾乃が暇を持て余していると。
「おい見ろよ、刀を持ってるやつがいるぞ」
「うわほんとだ! え、てかあれ本物?」
「初めて見た……」
「刀ってあの不良品の代名詞って言われてるやつ?」
「しっ、聞こえちゃうって」
辺りの生徒たちが、クスクスと嘲笑を漏らしていた。
「ねぇ誰か言ってあげなよ、別の〈神武〉にしたらって」
「やだよ。てか別にいいじゃん、ああいう奴は真っ先に脱落するんだからさ」
「あぁ、それもそうか」
「というか、今さらあんな〈神武〉使う意味あるの?」
その一言が、綾乃の眉をピクリと揺らした。
何故〈刀〉が不良品の代名詞だと揶揄されているのか。
その答えは、簡単に言ってしまえば〈刀〉の特性が原因だ。
先述した通り〈刀〉は技術面・運用面から見ても特に扱いづらい〈神武〉とされている。周りの〈神武〉と比べて力こそ大きく発揮できるが、その分暴走を起こしやすいため限られた兵士にしか使われなかった。
そういった武器は戦争には向かない。故に〈刀〉は時代が進むにつれて不良品扱いをされてしまったわけである。
さしずめ綾乃は、逆張りか格好つけでおもちゃを持っている子どもといったところか。
だが。
(でも、実は一人いたんだよ)
そう。今や玩具とも呼ばれる〈刀〉を扱える者が、実は一人残っていたのだ。
その人物こそが、綾乃の恩人であり師匠でもある男――斬崎我郎。
不屈の精神と強靭な肉体を以て、彼は綾乃に〈刀〉の在りようを示した。
『皆を救うと言うならば、修羅になるしかない。人間を捨て、魂を捧げる覚悟がお前にはあるか』
この時代に〈刀〉を使うということは、そういうことだと我郎は言った。
『〈刀〉はこの世でもっともヒトに近い武器だ。生半可な気持ちで使えば、すぐさま呑まれる』
「だから、己の戦う意味を忘れるな……か」
誰に言うわけでもなくぽつりと呟く。
皆を救うために戦う。理想論だと一蹴されてしまいそうな考えを、綾乃は本気で持ち続けていた。
もう誰も、あの時の自分のような気持にはさせない。
そのために、綾乃は戦う。
ぎゅっと拳を握りしめ、綾乃は顔を上げた。
『それでは、今から新入生オリエンテーションの説明を行います。入学前説明会に出席していない方は――』
一つの戦いが、始まる。
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