第3話 お見舞い

「ご心配していただくのはありがたいですけど、うちのことはうちで解決しますので、もうどうかお電話もなさらないでください」


 相手からかかってきた電話だったが、ナオは早々に受話器を置いた。


「ナオさんを標準語にさせるなんて、よっぽど怒らせる相手なのね」

「そう、レイちゃんの言う通り怒れるマーズよ。ウオーターベッドさんが、どうですか、お宅のお嬢ちゃん学校に行くようになったでしょ。ちょっとアドバイスして差し上げたんですって。あの自信はどこから湧いてくるんやろ」


 ふう。

 ナオはため息をつき珈琲を啜った。


「ウォーターベッドさんとこのお子さんも不登校で、よくわかるんやて。おなじ中学と言うてたけど卒業生らしいねん」

「あらま、ちょっとでも接点見つけて入り込んでくるのね」


 レイはカップにミルクをたっぷりと注いだ。


「ルナちゃん、やっぱり学校に行きたくないって?」

「うん、理由も言いたがらへんし、しばらくそっとしとこうかなと思て。一番苦しんでるのはあの子やし」

「2年になって、よっぽどのことがあったんだよ。レイも中学のとき、よく休んだ」


 ナオはカップから唇を離した。


「何でまた? 虐められたん?」

「うん、レイが美しすぎるから」


 レイはさららのストレートヘアを掻き上げた。


「笑い声がするから誰かと思ったらレイちゃん」

「マカロンもらったから女子だけで食べようと思って」

「レイちゃんも女子に入るの?」


 ルナは真顔で訊いた。


「もちろん」


 キャハハッ

 レイの弾ける笑い声がダイニングを駆け巡った。





「師匠が入院したっていうから焦ったよ。検査入院だから大丈夫だよな」

「うん、元気そうだったし、浬先生も心配いらないって」


 ルナはそば処土岐三郎頼芸のお品書きを握り締めていた。


「ルナはとろろ蕎麦だろ。イチにメニューを回してやってくれ」


「ぼく、刻み蕎麦に親子丼にしようかな」

「俺は、天ぷら蕎麦にカツ丼」


 熱いお茶を啜っていると天ぷらのいい香りが漂ってきた。


「兄ちゃん、カツを一切れ頂戴」


 遼平はカツ丼の蓋にカツを一切れ載せた。


「ご飯はいいのか?」

「ご飯はいらない」

「鶏肉はいらないか?」

「イチ兄ちゃんのも少し頂戴」


 カツ丼の蓋をとろろ蕎麦の横に置いて満足そうなルナだった。


「テレビで言ってたけど、シェアする女は嫌われるんだって」

「どうして?」

「今日はこれだけ食べると決めてるのに、ちょっと頂戴はそれを崩してしまうからだって」

「それだったら一緒にご飯食べなきゃいいじゃん」

「ぼくはちょっとずつシェアするの好きだよ」


 一之介は優しく言った。

 ルナは啜っていたとろろ蕎麦の器から顔を上げた。


「お兄ちゃんたち、何も訊かないんだね」

「言いたくなったら、ルナは自分から言うだろ」

「うん、ありがと」






🏠土岐三郎頼芸さんお名前を拝借しました。ありがとうございます。


作品『読んではいけない!バナナ・パインテール姫の不都合な真実』


https://kakuyomu.jp/works/16817330667150337803








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