第2話 厄介な客

 生命保険の外交員が資料を持って勧誘に来ていた。

 ルナと同じ中学校の子がいると言うので、気を許してリビングに通してしまった。

 ナオはお茶の用意をしにキッチンに立ち上がり、サイフォンでコーヒーを煎れてたので思ったより時間がかかってしまった。

 

 トレイにコーヒーカップを載せ、リビングに戻ったナオはギョッとした。

 何と、そこにルナが座っていた。


「お嬢さんと少しお話をしていましたの」


 と言う外交員を無視して、


「ルナ、また熱が出るとあかんから、部屋に戻って休んどき。お茶ならママが持って行くから」


 すると、玄関のチャイムが鳴った。

 インターフォンに出たら嫌な相手だったが、今は救世主だった。


「申し訳ないけど、来客やからお帰りください」


 ナオが言うと、外交員はコーヒーをゆっくりと飲み干してから立ち上がった。

 背中にウオーターベッドのような脂肪を蓄え、身動きの一つ、一つが緩慢だった。


「それじゃ、また伺います」


 またはないだろう。ナオはそう思いながら、スーツの背中にに浮き出た脂肪の塊を数えていた。

 大きなカバンを抱え、ゆっくりと階段を下りて行く。


 彼女の車が出て行くと、芝生がぺしゃんこになっていた。


 門が開いたので当然、中に通されると思った次の来客は門の中にまで入って来ていた。


「お待たせしてしまって申し訳ないです」

「いえいえ、こちらこそ突然におじゃましまして」


 大石留奈の母親は、いつもと違い低姿勢だった。

 大谷るな、うちのルナと一字違い。同じ名前なので憶えていた。


「ごめんなさい。ご覧のようにバタバタしていまして、上がっていただけたらよろしいんですけど」

「あの、これ、つまらないものですけど」

「やめてください。それはいただけません」


 ナオは慌てて門の外に出た。大石夫人もノロノロとそれに従った。


「で、ご用件は何でしょう?」

「うちの娘がお宅のお嬢さんに失礼なことを申しまして」

「やめましょう。子ども同士で解決させましょう。親は首を突っ込まない方がいいと思います」




 もう、何て日なの。次から次へと、厄介ごとが舞い込んできて。

 遼平も18歳になって車の免許を取得したから、生命保険を見直した方がええかと思って、ちょっと話を訊きたかっただけやのにリビングを通りかかったルナを捕まえてソファーに座らせるやなんてどういうこと。

 

 大石留奈の母親は、以前、学校行事で一緒になって、


「うちの主人は警察官をしておりますの。父も警察官で代々警察官の家系ですのよ」


 と自慢していた。

 ナオはそれがどうしたと言ってやりたかった。



 

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