文化祭、模擬店
文化祭当日。
各クラスの生徒は気合が入っており、蒼馬のクラスメイトたちも例外ではなかった。
コンセプトカフェは某馬ゲームにあやかり、馬男というコンセプトになった。
「なぜ、馬娘じゃないんだ」
影雄が抗議したところ、
「昨今の世の中の流れを考えたら、文化祭でそんなコンセプトでしたら、ネットが荒れるじゃない!」
と副委員長の
「でもさぁ」
「考えなさいよ。文化祭なのにミスコンもないのよ! 世の流れを鑑みているのよ。普通、漫画や小説の学園ものでミスコンって王道なのに!」
「なんだよそれ」
影雄は苦笑した。
「たしかに、ミスコンって実際にやっている学校って少ないよね」
美波が言った。
「減ったみたいだね。うちのお父さんの時代は、まだあったみたいだけど」
翔子が言った。
「僕は、馬男がコンセプトで、嬉しいよ」
馬男ならぬケンタウロスの蒼馬はやる気満々である。尻尾をぶんぶんと揺らしていた。
「いらっしゃいませ」
蒼馬が客を案内する。クラスメイトは慣れてしまっているが、彼は端正な顔をしているので、初見さんの受けはよかった。
「ノスタルジーだな~」
若い男が謎の発言をしながら着座した。
「いやー。ノスタルジーだな~」
「あの、ご注文よろしいですか?」
マ〇バオーのコスプレをした勇作が聞いた。
「注文かい。もう少し、アンニョイな僕にノスタルジーを満喫して、レトリックを産みださせる猶予をくれたまえ。まだ、オーダーはクリンチしないよ」
勇作は呆れ顔になった。中二病をもったまま成長した大人の見本のようだ。
「じゃあ、後でまた聞きにきます」
このように変わった客がくることはあったが、大盛況で時間は過ぎていった。
模擬店の制限時間である16時手前で、見覚えのある客がきた。
「いよぉ」
K市内にあるコンセプトカフェの老婆たちだ。よぼよぼと四人組で入店してきた。
影雄が奥のテーブル席に案内した。
「盛況そうで、よかったのぉ」
婆さん一号が喋った。
「生協の宅配がくるのじゃった。忘れておった」
婆さん二号が慌てた。
「まあ、ええじゃないのー。今からじゃ、間に合わん。ゆっくりしていけ」
婆さん三号が言った。
「腰が痛いのぉ」
婆さん四号はしきりに腰を擦っていた。
「婆さんたち、注文は?」
影雄が聞いた。
「ハァ? なんじゃと?」
婆さん一号が聞き返した。
「ちゅ・う・も・ん」
影雄はさきほどよりボリュームを上げた。
「なんじゃと、ちゅう? 接吻サービスもあるのか」
婆さん二号がはしゃいだ。
「ええのぉ。わしゃ、あの馬がええわ」
婆さん三号は蒼馬を指差した。
「舌はオーケーなのかえ?」
婆さん一号が下卑た笑いをした。
「腰が痛いのぉ」
婆さん四号は腰を擦っていた。
影雄は肩を竦め、
「おい! 健太! 代わりに注文聞いといてくれ」
と呼びかけた。
健太はミノタウロスのコスプレをしていた。翔子に「牛じゃねーか!」と突っ込まれていた。
「ご注文はいかがなさいますか?」
健太が聞いた。
「おや、この格好は」
婆さん三号が反応した。
「なんじゃったか。ミノ、ミノ……」
婆さん一号は首を捻った。
「みのもんたじゃ!」
婆さん二号が言った。
「おお。それじゃ」
一号は手を叩いた。
「腰が痛いのぉ」
婆さん四号は腰を気にしていた。
「馬刺しはないのかえ?」
婆さん二号が聞いた。
「ありません」
健太はうんざりした顔で答えた。
「馬カフェなのに、ないのかえ?」
「おかしいのぉ」
「馬刺しがないなら、普通カフェじゃの」
婆さん一から三号は言いたい放題だ。
「腰が痛いのぉ」
婆さん四号は相変わらず腰が痛いようだ。
健太に代わり、蒼馬が彼女らの対応をする。
「ご注文は何になさいますか?」
老婆たちはじぃっと蒼馬の顔を見つめた。
「あんた、いい男じゃのぉ」
婆さん三号が褒めた。
「昔の爺さんにそっくりじゃ。ジェームズ・ディーンみたいじゃ」
婆さん二号が感慨深げに言った。
「あんたの爺さんは、ジェームズ・ディーンというより、銭ないでくのぼうじゃろ」
婆さん一号の発言に、三人の老婆はガハハと笑った。
「腰が痛いのぉ」
婆さん四号は腰痛だ。
美波がトレーで湯のみ茶碗を運んできた。
「どうぞ」
老婆たちに差し出した。
「これは?」
蒼馬が尋ねた。
「ほうじ茶だよ。お婆ちゃんといえば、ほうじ茶よね」
美波は笑顔で応えた。
「おお。ありがたい」
「いいの。ほっこりする」
「コーヒーなんてハイカラなもの、ワシは飲めないからのぉ」
老婆三人は納得したようだ。
「茶柱が立っておる」
婆さん四号が感動していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます