勉強会
「デートしない?」
昼食時、蒼馬が美波に言った。
「ダメです」
美波ではなく翔子が拒否した。
「なんで翔子ちゃんが断る」
蒼馬は不満を口にする。
「僕は美波ちゃんに聞いているんだ。美波ちゃんは立派な大人さ。自分で判断できる」
彼は気障にふっと笑った。みんな高校一年生なので、大人ではない。
「じゃあさ、聞くけど」
「なんだい」
「ランチとかはどこでするわけ?」
翔子の質問に蒼馬は鼻で笑った。
「愚問だね。高級フレンチに決まっている」
「あんたねぇ」
翔子は呆れた。
「高校生がそんなところに行っても萎縮するだけじゃない。もうちょっと肩の力が抜けるとこにしなさいよ」
「じゃあ、牛丼屋」
「極端!」
二人のやりとりに、美波はプフッと噴き出した。
「美波ちゃんはどういうランチが好き?」
蒼馬の問いに、美波はしばし考えた。
「どんなものでも好きだけど……。チャンカレとか、一人で入るのは勇気があるから行ってみたいなとは思う」
チャンカレとはI県の元祖ご当地カレー屋だ。
「カレーは正義」
勇作がくちばしを入れた。
「あれ、あんた人参嫌いなのに、カレー食べられるの?」
翔子が疑問をぶつけた。
「人参抜きのカレーを所望するに決まっているだろ」
当然とばかりに勇作が言った。
「人参のないカレーは邪道」
蒼馬が反論した。
「ぐぬぬ。馬のくせに」
勇作は歯がみした。
「ところで、人参くん」
美波が言った。
「誰が人参や。それで、なに?」
「この前の小テストなんだけど、どうだった?」
美波の問いに、勇作は親指を立てた。
「バッチリ。ありがとう。教えてくれて」
「どういうことだい?」
蒼馬が割って入った。
「どうって、美波にこの前勉強を教えてもらっただけだよ」
「ずるい!」
蒼馬が叫んだ。
「そうだ! 今度は僕の家で勉強会をしよう! そうしよう!」
放課後。
美波、翔子、勇作の三人は蒼馬の家を訪れた。健太は「ハニーとデート」なので不在だった。影雄は「勉強したくない」という理由でいない。
案内された蒼馬の部屋は12畳もあり広い。本棚には様々な種類の本が整然と並んでいた。ベッドは彼の下半身を考慮してお尻のあたりに凹みがある。
「その袋はなんだい?」
蒼馬は勇作の手にある袋を指差した。
「これは……」
勇作は袋の中から取り出し、部屋のテーブルに並べた。
「スナック菓子や駄菓子でーす。勉強会といえば、これっしょ」
楽しそうな勇作に、
「なんのために来たのよ」
翔子が指摘した。
「いいじゃん。楽しくやろうぜ」
「そうだな」
蒼馬は尻尾を振っていた。
30分ほど勉強したところで、翔子は本棚にあるアルバムを見つける。
「これ、見ていい?」
「どうぞ」
ぺらぺらとアルバムを捲っていく。
「本当に小さい時は人間だったんだねぇ」
感慨深げに翔子は言った。
「今も一応人間なのだが」
蒼馬は訂正した。
「あれ、これって」
翔子が写真を全員に見えるように示した。
そこには、幼き日の蒼馬、母、父親が並んで笑顔で写っていた。背景は豪邸だった。
「ああ。この家だよ」
「へえ。昔住んでいて、戻ってきた感じかあ」
翔子の反応に、勇作は不思議な顔をして言う。
「あのさ、昔住んでいたのなら、なんで美波は彼のこと覚えてないの?翔子はちょっと離れているからまだわかるけど、美波は隣家だから会ったことはあるよな」
「ああ」
翔子と美波は顔を合わせた。
「私、小さい時は、幼稚園の年長さんまで、喘息でよく家にいなかったから……。入院とかしていて」
美波の回答に勇作は「なるほど」と頷くと、
「じゃあ、翔子は蒼馬の存在を知っていた?」
翔子に矛先を向けた。
「わたしも病弱だったから……」
翔子はわざと鼻にかかる声を出し、潤んだ瞳で言った。
「あ、はいはい」
「なにそれ、信じてないでしょ」
翔子は勇作の肩に軽くパンチをした。
「勉強に飽きてきたし、そろそろ、ポテチ食べようぜ」
勇作は自ら持ってきたスナック菓子の袋を取った。
「なにこれ、うまく開かない」
両手に力をこめ、真ん中から開けようとしているが、袋はびくともしていなかった。
「貸してみたまえ」
蒼馬が袋を奪った。両手で左右から引っ張るが、同様に開く気配はなかった。
「みんなでやってみるか」
勇作が指示した。袋の右側を蒼馬がもって引っ張り、さらに彼の体を美波が引っ張る。袋の左側を勇作がもって引っ張り、さらに彼の体を翔子が引っ張る。
やはり、ピクリとも開く気配がなかった。
「ここまでくると悔しいな。絶対、ギザギザから開けたりしないぞ」
勇作が悔しがると、蒼馬は執事と給仕を呼び、合計10人でポテチの袋を開ける作業をする。
「うんとこしょ」
袋の右側を蒼馬、美波、執事、給仕A、給仕Bが担当して引っ張る。
「どっこいしょ」
袋の左側を勇作、翔子、給仕C、給仕D、給仕Eが担当して引っ張る。
それでも袋は開きません。
「なんか、馬鹿馬鹿しいな。もう、ハサミで開けようぜ」
執事が持ってきたハサミを受け取り、
「よいしょ」
勇作はポテチの袋の真ん中に突き刺した。
パンッという音がし、彼は驚いて袋を投げてしまった。中に入っていたポテチは舞い落ちる。
「わあ。綺麗。冬景色みたい」
美波の感想に、
「どこがだよ!」
翔子は突っ込んだ。
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