人数合わせ
中休み。東勇作、中健太、下田影雄の男子3人は集まって相談していた。
「あと一人、どうする?」
影雄が聞いた。
「うーん。誰か適当に声かける? でも、みんな尻込みするんだよな」
勇作が唸った。
「それは、お前の人望の問題だろ」
影雄が茶化すと、
「それなら合コン中止にしてもいいんだぞ」
と勇作はむくれた。
「まあまあ。影雄も冗談でいっただけだから」
健太が仲裁する。
「あとひとり、ねえ……。白鳥はどうだ?」
勇作は苦渋の顔で言った。
「いやいや、ダメでしょ」
影雄は却下した。
「でも、白鳥くん、上半身は美形で金髪だし」
健太が言った。
「うーん」
三人は同時に唸った。
放課後、勇作は白鳥蒼馬に声をかけた。結局、欠員補充ができなかったからだ。
「あのさ。白鳥君。これから、忙しかったりする?」
「なんだい? 男とはデートしたくないよ」
蒼馬は肩を竦めた。
「いや、実は、合コンしたいのだが、人が足りなくて」
「なるほど。人数合わせか」
「そうなんだ。だから、頼む」
勇作は手を合わせ拝んだ。
「断る」
「そう言わずに」
勇作は蒼馬の毛並みを触り、懇願した。
「だいいち、僕が現れたら、女の子たちがびっくりするだろ」
「自分が変なのは自覚あったのか」
勇作は苦笑した。
「そういうわけだから、じゃあ」
立ち去ろうとする蒼馬を勇作はなおも引き留める。
「そういわずに。俺に良いアイデアがあるんだ」
「良いアイデア?」
蒼馬は訝しげに彼を見た。
駅前のカラオケ店が集合場所だった。
「いえーい。みんな、元気―?」
勇作が個室に入るなり、言った。女性陣は既に揃っていた。
「ちょっと遅れているよ」
主催の一人である
「すまん。今から順番に男を紹介するから、待ってて。おーい」
まずは影雄が入室した。
「こんにちは。下田影雄です。得意なスポーツは野球、時世句は『なんじゃこりゃー』です」
「おいおい。お前はまだ死んでないのに時世句いって、どうするんじゃーい」
勇作が寒々しいツッコミを入れた。
「はい。次」
おどおどと健太が挨拶した。
「こんにちは。中健太です。健やかなるふとましさの健太です」
「たしかにいいお腹してますなー」
勇作が健太のお腹を軽くチョップした。
「では、最後に……。驚くなよ。おーい、白鳥くん」
蒼馬が入室すると、女性陣はざわついた。彼の端正な顔立ちを見て、瞳を輝かせていた。
「どうも。白鳥蒼馬です」
簡単に自己紹介すると、
「あれ、それどうしたの?」
奈緒が指を差して聞いた。蒼馬の下半身が包帯でぐるぐる巻きだったからだ。
「ああ、これね」
代わりに勇作が答える。
「この白鳥蒼馬くんは、めったにかからない難病でね。腰や足がバッキバキになるんだ。だから、こうやってずっと包帯やギブスが必要なんだ」
「へ、へえ」
奈緒は納得していないようだが、他の女子たちは蒼馬の美貌に見惚れていて、そんなことはどうでもよかった。
カラオケはそれなりに盛り上がり、合コンを始めてから30分が経った。
「おい、勇作。ちょっとこい。健太もな」
影雄が二人に声をかけ、「すまん。連れション」といって個室を出た。
「どういうことだよ」
カラオケ店のラウンジで、影雄は声高に言った。
「なにが?」
勇作は白々しく聞き返した。
「女子メンバーだよ。なんだよあれ。やべえのばっかじゃん」
影雄は面食いだ。
「見た時、ビビったぞ。まず、奥に座っていた女」
「
「ゲゲゲの鬼太郎にでてくるネズミ男じゃねえか」
「真面目そうで可愛らしいじゃないか」
勇作が優しく言った。
「あと、なんだ、あのムチムチな女。手前にいた子」
影雄は口角泡を飛ばす。
「
「ゴリラじゃねえか」
興奮している影雄に、
「そんなにも悪くないよ。後藤さん」
健太が助け船をだした。
「え、おまえ、あんなのがいいの?」
「うん。まあ……」
健太は恥ずかしそうに俯いた。
「あと、真ん中の子」
影雄は舌鋒を止めない。
「
「どこが家入レオ似だよ! あれじゃあ、森本レオじゃねえか!」
影雄の発言に、勇作は「やれやれ」と首を竦めた。
「いまの時代、外見で判断するのはよくないぞ。ルッキズムだ」
「きゃあ」
個室のほうから悲鳴が聞こえた。
「もしかして」
三人は慌てて戻った。
「ひいいいい」
ねずみ男(女)、ゴリラ女、森本レオの三人が腰を抜かして床に尻をつけていた。
「僕はもう失礼するよ」
蒼馬が不機嫌そうに言った。包帯は取り外していた。そのままカラオケ店を出て行った。
「なにがあった?」
勇作が奈緒に聞いた。
「実はさっき、彼女たちが――」
奈緒は苦虫を噛み潰したような表情をした。
*
数分前のこと、蒼馬はひとり残され、仕方なく女子たちと会話していた。
「しかし、白鳥くん、カッコイイね。モテるでしょ?」
後藤梨花が媚びるような目で聞いた。
「まあ、それなりに」
蒼馬は言葉を濁した。
「凄いよね。芸能人かと思っちゃった」
木村優子が褒めた。
「そういえば、白鳥くんって、もしかして、あの白鳥グループの?」
根津美香が探りをいれた。蒼馬は首肯し、
「そうだよ」
と答えた。
「え、やっぱり」
「すごい」
「金持ちで美形なんて」
三人は代わる代わる称えた。
「それに比べ」
ゴリラ女が言う。
「あの三人のしょぼいこと」
*
「なるほど。それで白鳥は怒ったのか」
勇作は腕を組んで憮然とした。
「まあ、でも」
勇作は影雄を見た。
「こちらも似たようなもんだしな。とりあえず、解散かな」
「はーい」
奈緒が返事した。
勇作が会計を済ませようとレジに向かう時、
「あ、これ、白鳥君から渡された」
健太が一万円を差し出した。一時間もいなかったので多いくらいの金額だ。
「じゃあ、またね」
会計を済ませ、全員がカラオケ店を出た。
「奈緒ちゃん、いいよね」
男子三人での帰路途中、影雄が言った。
「そうか」
勇作は興味なさそうだ。
「俺が狙ってもいい?」
「いいけど、あれがお前の趣味なんだな」
「だって、可愛いじゃん」
影雄は鼻息荒くなった。
「たしかに可愛いよ。だけど、あいつ、男だぜ」
勇作の言葉を聞き、
「騙された!」
影雄は叫んだ。
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