第6話
室内は、綺麗に整頓されていた。床にもテーブルの上にも埃すらない。キッチンは、きちんと整理されていて、冷蔵庫の中まで空っぽだ。警察の捜査は終わっていると見える。
水樹は、リビングを見回してみた。大きなテレビ、それが収納されている棚の上にルイ・ナカムラと思しき人と、彼の友人らしき人を写した写真がある。水樹はそれに顔を寄せた。
写っているのが全員男性なので、どれがルイ・ナカムラかは分からないが、ケーキの上に、二十五という形の蝋燭が乗っていて、そのケーキを持っている人物の周りにいる人たちも皆同年代に見えることから、誰がルイ・ナカムラであっても、年齢は二十五歳程度だろう。また、その写真の右下の日付が昨年のものだ。或いは、この写真にルイ・ナカムラがおらず、親しい友達のものだとしても、そんなに年の離れた友人とは考えにくいから、やはりルイ・ナカムラは二十五、六と考えられる。黒いソファ、本棚、パソコンデスク。そして、ベッド。死体があった場所。マンションの外観から想像するより、高級そうな家具だ。
「何か、手がかりになるようなものはありますかね」
理人は、早速ルイ・ナカムラのパソコンの電源を入れる。コンピューターが一番得意なのは彼だ。陽希は、ソファに座ってスマホを弄っている。
「陽希。貴方は何をしているのです」
「ん? ルイ・ナカムラが死んだってニュース、改めて見てた」
「……そうですか」
「悲しいなー。ほんと。水樹ちゃんは、何してるの」
「……この部屋について調べています。現場には情報がたくさんありますから」
「へぇ」
陽希は、それ以上何も言わずに、スマホをいじっている。
「……理人。これは」
「はい」
水樹は、あることに気づいた。
「ルイ・ナカムラの書きかけの小説が、残っています」
「次回の更新用でしょうか。ええと、確か、今回の小説は……どんなあらすじだったのでしたっけ?」
「『僕の幼馴染が、僕に恋をした』」
陽希の声が飛ぶ。彼はスマホからようやく顔を上げ、
「小学生の子が親に殺されるって話……ルイ・ナカムラにしては珍しく、過激な筆致でさ。で、小学生の子は、主人公の男の子に、ずっと片思いしていて。でも主人公は鈍感だから、気づかないんだよ。その間に、小学生の子は、親に殺害され……あ、いや、殺害されるところまでは、アップされなかったんだけど。いかにもそれっぽいストーリー展開ではあった」
「殺害するところまでは、書いていたのでしょうか」
「データを探してみてくれる?」
陽希は、目を伏せて呟く。理人は、眉を寄せて水樹を見た。水樹は、その視線を受け止める。理人は、もう一度、ルイ・ナカムラのパソコンを見詰めた。スクロールは、とても速い。
「ええ、そのような展開になっています。此処にデータがあるということは、そうなるはずのお話だったのでしょうね。でも、どうして、殺されてしまったのでしょう、ルイ・ナカムラは」
「分かりません。今はまだ」
「……陽希。貴方は、どう思っていますか」
陽希は、顔を上げた。
「俺は……考えたくないけど、これが実際の事件、ルイ・ナカムラの身に関わる事件だったんじゃねぇかって、思ってるんだ……うん……だから、ルイ・ナカムラは、その小説をアップして、殺された」
陽希の表情が曇っていく。水樹は、理人の横顔を見る。理人もまた、難しい顔で画面を見ていた。
「殺されたのなら、犯人がいるわけですが、そう考えると、小説の中のこの小学生を殺した関係者……かもしれません」
陽希は、黙り込んでしまう。なんだか泣きそうになっている。
「どちらにせよ、私達が今、すべきことは、ルイ・ナカムラの身の回りを調べることです。陽希も、手伝ってくれますよね」
「……もちろん」
理人は、陽希を見て微笑む。それから、水樹の方を向いて言った。
「水樹。貴方は引き続き、ルイ・ナカムラのパソコンのデータを調べてください。私は、他の場所を探します」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます