第6話

「よく、此方へ来られましたね」

 理人は水樹に声をかけた。何だかんだ言いながら、陽希が親切に介助したのだろう。

「雪が少し融けましたし。一度は自分の目で現場を見ておきたかったですから」

「嬉しかったですよ。心細かったので。私のことが気がかりで来てくださったのでしょう?」

 理人が素直に言うと、水樹は目を逸らす。全く、照れ屋さんだなぁ、と思わず笑みを零してしまった。

「へえ、ここが事件現場かぁ」

 陽希はピーコートのポケットに手を突っ込んだ状態で首を伸ばし、室内を観察した。水樹が、換気扇に目をやる。

「このマンションは変わった作りですよね。換気扇が、隣の部屋のベランダを向いているんですよ。隣室の住人が蛍族なら、たまったものじゃない」

 水樹は煙草を嫌う。そのため何となく、理人も陽希も吸わない。陽希にいたっては、恐らく、そんな苦いものより、甘いお菓子の方が好きだ。

 水樹は換気扇に近寄って行って、顔を寄せた。背伸びをしたり、下から覗き込んだりを繰り返し、その後、スイッチの部分を指さした。

「何か、取り付けられています」

 理人も近づき、後ろ手を組んだまま其方を見やる。

「これは……タイマー、でしょうか」

 水樹はスイッチとタイマーの間に再び顔を近づけてから、理人と視線を合わせた。

「タイマーで間違いなさそうです。このスイッチと連動して、換気扇が作動するようになっています。毒ガスを供給する機械を、この換気扇に着けて、タイマーを動かせば、換気扇が自動的に、被害者のところへ毒ガスを運んでくれるというわけか。考えましたね」

「と、なると、犯人は、このマンションの住人……でしょうか」

「早速、聞き込みに行ってみよー!」

陽希が元気いっぱいに宣言したのに合わせて、水樹と理人も頷き、三人でひと先ず英嗣の部屋を後にした。

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