第4話

「――以上です」

理人は、三人目の探偵に報告を終える。二〇二四年一月二十六日、雪は止んだ。つまり二十五日は事務所に来ることすらなかった怠惰な三人目の探偵は、今、ソファにだらしなく横になり、マーマレードジャムの色の髪に寝癖を携えてスマートフォンを操作しながら、その報告を受けたのだった。彼の名前は、光岡陽希。右耳に三つのピアスを着けた、シャムネコのような青年。ここにいる三人とも同じ二十五歳の探偵である。

「理人ちゃん、お疲れぇ。報告サンキュー」

理人は、はい、と小さく返事をして苦笑した。すると理人の向かいに座っている水樹が口を開いた。

「それで、どうする? これから」

テーブルに手を着き、両方の手の指を組んで、其処に顎を乗せる水樹を見もせず、陽希が答える。

「ああ……そうだねぇ、まあ、一応、現場に行ってみる? あー、でも雪積もってるし、面倒くせぇからやめとくか」

「そう言う訳にもいかない。あんまりふざけるなよ、陽希。折角の依頼なんだ、これを逃したらまた閑古鳥だ」

「だって水樹ちゃん行けねぇじゃん」

水樹は、少々足が悪く、杖がないと歩くことは難しい。雪道は危険だ。そこで、理人は溜息をついて二人の間に割って入った。

「私が行きます」

「えっ」

理人は、グレーのジャケットを着て立ち上がり、戸棚からチェスターフィールドコートを出して羽織った。

「ちょっと行ってきますね」

「待てって、俺も行く」

「ふふ。夜には戻りますから、陽希さんは残っていてください。私は大丈夫です。そんなに心配なさらなくても」

「だって……」

「陽希は、やたらと理人には甘いんですね」

水樹の尖った声が飛ぶ。

「理人ちゃんはいい子だから。理人ちゃんの方が優秀だし。水樹ちゃん、僻み?」

「そういうことを言ってるんじゃない!」

理人は二人のやり取りを眺めて微笑んでいたが、いよいよ背を向けて外に出ようとした。

「ちょい待ち」

「はい?」

理人は振り向いた。陽希はソファから立ち上がり、自分のバッグの中から財布を取り出して、中から札束を一つ出した。

「これでタクシー呼んで、行っておいで。気を付けてね、理人ちゃん」

陽希はいつものようにへらりと笑った。

「本当、優しいんですね」

「じゃ、よろしく。行ってらっしゃーい」

陽希がひらひらと手を振るのを横目に見て、理人は事務所を出た。

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