第3話
一週間前に黒谷柚子が被害者に会う約束をしていたと聞いたとき、理人は何か引っかかった。なので、其処から柚子に詳細を問いただした。彼女が言うのは、被害者の名前は、宮藤英嗣。柚子とは、彼が勤める会社の社長の紹介で知り合ったという。そして柚子は、彼に会いに行く直前、彼の会社を訪ねていた。そのとき、社長から、彼は柚子には隠し事をしているようだったと聞かされた。
柚子によると、柚子の仕事は、アパレル関係である。だから、柚子自身もファッションが好きで、よくファッション雑誌を読むし、服も買うそうだ。柚子は、最近までとあるブランドの専属モデルを務めていた。柚子は元々、モデルではなく、ファッションデザイナーになりたかった。けれど親は猛反対していて、それならばいっそ他の道を選ぶことにしたのだという。しかし、ファッデザイナーの夢は、まだ諦めきれていないのだそうだ。彼女は、自分の作った服を着ている人をもっと見たいと社長に熱弁。その後、柚子は、英嗣に会う時間だと気づき、社長と別れて待ち合わせ場所に向かったが、英嗣が来なかったため、彼の家へ向かった。
「そして、其処は全て施錠されており、窓が閉まっているにもかかわらず、英嗣さんは亡くなっていた――と」
「ええ、私が大家さんに頼んでドアを開けるまで、其処は密室でした。英嗣さんは毒ガスで亡くなったそうですが、窓も閉まっていたし、どこから発生したのか分かりません」
「失礼ですが、黒谷さんと被害者の関係は、どのようなものでしたか?」
「英嗣さんは、私の上司です」
「職場恋愛ということですか?」
「まさか! 違います」
理人は、柚子が激しく首を左右に振る理由を頭の中で整理するため、わずかな沈黙を置いた。この反応は、職場恋愛だったと見ていいだろう。
「黒谷さん、貴女は、この密室殺人のトリックを解き、真犯人を検挙することを望んでいますか?」
「はい」
「では、私たちは、私たちなりにこの事件の解決に全力を尽くします」
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