第2話

依頼人を事務所のソファに通す。事務所のソファはマリンブルーで、探偵たちがよく集まる場所だ。依頼人が座ると、依頼人の正面に水樹が座り、左側に理人が座る。もう一人の探偵はというと、未だ到着すらしていない。待っていてもキリがない。彼は、非常に気まぐれで、髪の色も相まってシャムネコのようなのだ。

依頼人は女性である。依頼人は水樹と理人に名刺を渡して来た。その名刺には、依頼人の名前がある――黒谷柚子。年齢は二十代後半くらいだろうか。長い茶髪を後ろで束ねている。水樹は、彼女のことを少しばかり観察する。目の下に隈が出来ており、疲労しているように思えた。理人が先に口を開く。

「初めまして。私は橘理人と申します。こちらは海老原水樹です。以後お見知りおきを」

理人は水樹の方を向いて微笑んだ。水樹は首を縦に振ってから、なるべく上品な声を出す。

「宜しくお願いします」

理人はまた前を向く。そして理人は、自分のスマートフォンをポケットから取り出して、何かの操作をして、柚子の前に出した。

「黒谷さん、先ほど、少しお伺いした通り――最近起きた、この密室殺人事件、毒ガスで死亡した被害者の謎を解いて欲しいということでよろしいでしょうか」

「はい」

頷く柚子の声は沈んでいた。

「被害者は、私の知人の男性で、私は今日、彼に会って話を聞こうと思っていました」

「それは何時頃の話ですか?」

「一週間前の正午過ぎに電話をかけて、その日の夕方に会う約束をしていました」

彼女はずっと俯いているが、水樹は内心テンションが上がっていた。何せ、巷を騒がす殺人事件の解決を依頼されたとなれば、鼻が高い。もしかすると、事務所の評判も上がるかもしれない。さて、と前置いて水樹は柚子に声をかける。

「黒谷さんは、被害者に、どのような話を聞くつもりで約束を取り付けたのです?」

柚子は顔を上げて、小さく答えた。

「……私は、彼が、私のせいで殺害されたという可能性を考えています」

柚子の目は悲しげに揺れていた。

「貴女のせい? いったいどういうことですか。僕に教えてください」

「死の真相というより……それも、勿論そうなのですが。彼は、何かを隠していました。私はそれを、確かめたいんです」

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