10:何度でも言ってあげる

「空? どうしてこんなとこに……」

「どうしてって? 決まってんでしょ。あんたを探してたの」


「へ?」


 なんて間抜けな顔してんのよ。

 人が一生懸命捜してたってのに。


 ……でも、こいつも一生懸命だったんだ。


 何にっていうと……上手く言えないけど。

 こいつなりに必死だったんだと思う。


「あのさ、空、もう日も暮れるし家に帰った方がいいんじゃないか?」


 どうしてだろう。

 早く帰ってくれって顔してる。


「ど、どうした?」


 ……うん。言っちゃえ。


「あんた、死んでるんだって?」


 って、いきなりこれは不味かったかな。

 でも、時間がない。そんな気がする。


「馬鹿だなぁ、死んでるわけないだろ?」


 何よ、最初の頃と言ってることが違うじゃない。


「初めて会ったときに言ってたじゃない? "俺は死んでるぞ~"って」


「あれは、ほら、なんとなく?」

「二週間くらい前に事故ったんだって?」

「っ、なんでそれ……」


「それで、あんたってどう見てもバカだから自分が死んだって思ってるんでしょ?」

「死んだって思ってるんじゃなくて俺は死んでるんだって」


 すごく悲しそうにあいつが言う。

 あたしまで辛くなって、


「それは違うのよ!! あんた、まだ死んでないの!!」


 それは違うんだって伝えた。


「違うのは空だ。俺は、死んだんだよ」


「違う違う違う違う! あんた、思い込み激しすぎ! まだ死んでないの!!」


 あいつの言葉を打ち消すように、

 そう、何度も、何度も伝えた。


 それなのに。


 少しずつ、少しずつ、

 あいつの身体が消えていく。


「違う違う違う違う! 空、思い込み激しすぎ! 俺はもう死んでるの!」


 そんな私の言葉をあいつは何度も否定する。


「あんた、茶化してるでしょ?」

「そっちこそ茶化してるだろ」


 そう言って、あいつは笑った。

 見たくないのよ、そんな顔。

 そんな悲しい笑顔、見たくない。

 そんな諦めたような笑顔、見たくない。


 やっぱり、こいつにはへらへらしてるのが一番似合ってる。


「空、ごめんな」


「なんで謝ってんのよ。さっきから言ってるでしょ? あんたはまだ死んでないの! まだ、間に合うんだって」


 謝らないでよ。諦めないでよ。


「間に合うって何が間に合うんだよ」


「平坂大は死んでない。ただ、ちょっと病院で眠ってるだけなの」

「はい?」


 大が耳を傾けてくれてる。

 少しだけ見えた希望の光。


「こんな台詞、あたしらしくないけどあんたの身体はさ、病院であんたのこと待ってるんだよ。あんたが帰って来るのを頑張って待ってるんだよ」


 必死だった。

 本当に、何でこいつの為にこんなに必死になってるんだろう。

 とにかく必死にこいつを説得しようとしている。


「疑うなら病院に行ってみて。この辺で一番、大きいとこ」


「…………」


「とりあえず行ってみなさいよ。それからでも遅くないでしょ」


 大丈夫だよ。消えたりなんかしないよ。


 自分に言い聞かせる。


 大は、消えたりなんかしない。

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