09:あいつは死なない

 どうしてこんなに必死になってあいつを捜してるのか分かんない。

 でも、今、ここで捜さなかったら駄目だって思った。

 捜して、あいつを見つけないと駄目だって。


 でないともう二度と会えなくなっちゃうかもしれない。

 さっきりこから聞いた話と去り際のあいつの顔のせいでそんな予感が消えてくれない。


 きっと、あいつはいる。

 きっと、すぐ近くに。


 そうやって走り続けてどれくらいたったんだろう。

 さすがにずっと走ってると疲れてきて、歩いて、そして走ってを繰り返した。


 こんなに走ってるんだからそろそろ会っても良いんじゃない?

 いつもいつも……って言っても数えるくらいだけど、会いたくない時に会っちゃって、会いたい時に会えないのはどうしてなの?


 ふと立ち止まって最初に会った時のあの瞳を思い出した。


 あの空を見つめてるあいつの瞳を。


 切なそうな顔してた。


 あんな顔を見ちゃったから、あたしはおかしくなっちゃったんだ。


「本当に、どこにいるのよ……」


 泣きそうになる。


 今まで泣いたことなんて殆どなかったのに。

 大、あんたのせいだよ。

 だから、いつもみたいに出てきてよ。


 …………。


 あれ……。


 あそこにいるのは、


「空、っ……さよ、なら」


 やめてよ、何、言ってんのよ。

 何で、何でそんな顔してんのよ……。


 大の身体は半透明だった。


 怖かった。


 あいつが幽霊だったからじゃない。


 そんな理由じゃない。


 あいつが「さよなら」なんて言うから、だから、あいつがこのまま消えそうな気がして、怖かった。


「空の、バカヤロォッ!」


 なッ!?


 いきなり叫んだあいつ。

 少しだけ、ほんの少しだけ、

 安心した。


 そんなに叫べるんなら、大丈夫。

 きっと大丈夫。


 そう。見つけたんだ。

 見つけることができたんだから、

 だからあいつは死なない。

 このまま消えたりなんかしない。


「バカで……、悪かったわね……、あぁッ! もう疲れたッ!」


 絶対に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る