07:この声が届いたら

「よぉ、空、ひっさしぶり!」

「あ……」


 あいつと初めて会った時と同じ場所。

 ヘラヘラ笑いながらあいつはまた私の前に現れた。


 すっごくムカつく。


 あいつにじゃない。

 あいつに会えて嬉しいって思った自分に。

 あいつに会えて安心しちゃった自分に。


「……ひっさしぶり! じゃないでしょ。あんた、何してたのよ?」

「あれ? もしかして俺に会いたかったとか?」

「バカ。そんなんじゃないわよ!」

「またまたぁ~。モテる男ってのは辛いなぁ……」


 し、心配してたなんて絶対に気付かれたくないかも。

 こいつめちゃくちゃ調子乗ってるしさ。


 たった一度会っただけの奴の心配するとか変だし……。


「いやさぁ。こないだのテストですっげー悪い点とってさ。それで親にずっと勉強させられてたんだよな。ははは」

 今、こいつテストって言った? まぁ、どう見ても同年代なんだけどこいつって何歳なんだろ? 私と同じだったりして。

「ははは、って……そういやあんた何歳なの?」

「ん? 俺? 十六の高一」

「げッ、タメ!?」

 的中!? う、嬉しくなんかないし。

 親近感とかないし。

「へぇ~、空も同じか。これって運命かもな」

「何が運命よ。別に不思議なことでもないでしょ?」

「そうか?」

「うん、そうよ」

「そっかー」


 とか言って素直に頷いてる。

 かと思ったら急に真面目な顔になって、


「で、本題だけど、本当のとこはどうなんだよ?」

「ん? 本当のとこ?」

「だからァ、俺に会えて嬉しかっただろ、って言ってんの」


 なんて言ってくるから。

 そんなわけないでしょ! って言いたくなった。

 嬉しいと思ったこと。安心したこと。

 それに気づかれるのは恥ずかしかったから。


 ――と。その時だった。


 あいつがふいに手を伸ばしてきた。

 あ、頭でも撫でてきそうな感じなんだけど……?


 ………………。


 って、どうしてドキドキしてんのよッ!?


 ……あ、手、引っ込めた。


 ……が、ガッカリとかしてないから!!!


「……? あんた、何がしたかったの?」

「いや、別に、何も。……あ、俺、帰るわ」


「え? ちょっ……」


 見間違いかと思った。


 去り際に見たあいつの表情がすごく辛そうだったから。

 どうやったらこんな顔出来るのかってくらい見てられない顔をしてたから。


 だから、思わず、


「あ、大! また会ってやっても良いわよ!」


 そんな風に声をかけていた。


 その声はあいつの耳までは届かなかったかもしれないけど。

 それでも届いていたらいいなって、そう思った。

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