04:空って変な奴

『……ッ!? あぁッ!』


 二人の声が重なった。

 二人ってのは俺と空だ。

 何があったかって?


 今そこの角を曲がろうとしたら偶然会ったんだよ。

 互いにぶつかる寸前で立ち止まったから良かった。


 って。


 幽霊でもぶつかる事ってあるのか?


 いや、幽霊同士ならぶつかることができるのかもしれない。


「あはははは、また会ったなぁ、空」

「なななな、なんであんた、ここにいるのよ?」


 すっごい顔して空が俺を睨み付ける。

 そんなに俺と会うの嫌なのかよ。


「空こそどーしたんだよ。いきなり走っていったかと思えばまた戻ってきて」


 空を追いかけようって思った俺。


 けど数分もしない内に空の方から戻ってきたんだよ。

 あんなに思い切り全力疾走してたクセにさ。


 空ってさぁ、変な奴だよなぁ。


「別にちょっと用事を思い出しただけ! あんたには関係ないでしょ!?」

「うわぁ、ひでぇ言い方するなぁ」

「……? あっ、あ! あーッ!」


 空が急に俺を指差してきた。


「何だよ、急に叫んで」

「ちょっと待って、あんた今、あたしのこと名前で呼んだでしょ!?」


 うわ……。


 そんな嫌そうな顔するなよ。

 そんな世界の終わりの様な顔をさぁ。


「呼んだけど、別に良いだろ?」

「良くない! 絶対、良くない!」


 そんなに叫ばなくても良いじゃん……。


「なんでだよ」

「なんででも! 駄目なものは駄目! 誰かに誤解されたらどうすんのよ?」

「は? 誤解? あ、俺達が付き合ってるとか? そーいう? 大丈夫だって」

「なんでそんなことが言えるのよ」

「だって生きてる奴らには俺達の姿は見えないからさ」


 言うと空は目を細めてじとっと俺を見てきた。


「だから、あたしもあんたも生きてる人間なの! 死んでないの!」


 怒られる。


「お前、分かってないなぁ。俺達は死んでるんだって」


「…………」


 何なんだよ、この沈黙は。


「あぁッ!? こんな事してる場合じゃないんだって! あんたの相手してる暇ないの!」


「おい、どこ行くんだよ!」


 あいつ、めちゃくちゃ足早いな。


 なんとか追いつけるか?


 って、俺、幽霊なんだから飛んでいけば良いじゃん。

 くそぉ、今まで何度となく宙に浮いて来たのにどうして気付かなかったんだ、俺。


 話し掛けたらどこかに逃げられそうだったから、俺はこっそりと空の後を追いかけた。


 とりあえず、その用事ってのが終わるのを待つか。

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