第二章 続・自活能力を求めて

第13話

「サラさんからの紹介で来ました、ダイアと申します。」

 引っ越した翌日、店の経営を助けてくれる人材がやってきた。


「帳簿を付けたり、在庫管理をお願いして良いかな?」

「はい。前もやっていたので大丈夫ですよ。」

「助かる。経営なんてやった事ないから、どうしようと思ってたんだよ。」

「大丈夫です。前の店主も1年間、きっちり仕込んだので。今頃は里で私に感謝しながら、しっかりやってると思いますよ。」

「まぁ、お手柔らかにお願いします。」

「は~い。」


 どうやら、この1年はダイアにきっちりと店の経営について教え込まれる事になるらしい。

 ダイアはサラから渡された薬を棚に並べ開店準備を進めていく。

「工房に薬を保管する棚と箱がありますので、確認しておいてくださいね。」

「分かったよ。俺が作った薬もその棚か箱に入れておけばいいんだな?」

「ええ。そうしてもらえると助かります。また、調薬が必要な薬に関しては、工房の入り口にある掲示板に紙を貼りつけておきますね。」

「その紙をみて、調薬すれば良いのか。」

「はい。サラさんの店から卸す必要がある薬に関しては、私が注文書を書いて取りに行きますので、検収と受領のサインをお願いします。」

「注文書の書き方は教えてくれるのか?」

「ええ、最終的には覚えてもらいます。他にも必要な薬草等の素材を購入するための注文書もありますので、そちらも教えますね。」

「分かった。」


 店の経営に関しての話をしつつ、コーヒーを淹れる。

「素材に関しては、俺が採集や狩猟で採って来るものもあるから、採集できる奴は注文しないで済むように頑張るよ。」

「えぇ、そちらの方が良いですね。」


 翌日、日課になっている城壁外周を走り家に戻る。

「おかえりなさいませ。」

「あぁ、ただいま。」

「言い忘れていたけど、毎朝城壁の周りを走ってるから、今日みたいに店に入って準備をしておいて構わないよ。」

「分かりました。」


 庭に出て、改めて眺めてみる。

「小さな温室と鳥小屋、あとそれなりの畑。何故かある炉と窯。それでも結構空きスペースがあるな。木人を立てて棒術の練習とか弓の練習もできるな。」


「庭にある炉と窯はなぜあるか知ってる?」

 店に戻りダイアに確認する。

「窯は、薬を入れる容器を作るのに使っていたようですよ。炉はこの店が以前、鍛冶屋だった頃の名残だそうです。庭にスペースがあるので、壊さずにそのままにしていたようですよ。」

「そうなんだ、炉は使えるのかな?」

「炉と窯は使われるようでしたら、鍛冶組合に行って、メンテナンスをお願いしてはどうでしょう?」

「あぁ、そうする事にするよ。」


「あと、鳥小屋では何か飼ってたの?」

ビツーを飼っていましたよ。世話も楽ですし、飼われてみてはいかがでしょうか?」

「そうしようかな。畜産組合に行けば、ビツーは飼えるかな?」

「はい、たしかそのはずです。」


 炉についての話を切り上げ、ダイアに出かける事を伝える。

「ちょっと木工組合と鍛冶組合に行ってくる。」

「分かりました。注文書を渡しますので、サラさんの店に寄ってもらえますか?」

「分かったよ。では、行ってくるね。」


 まずは木工組合に向かう。

「庭に木人を置きたいんだが、どこで取扱っているだろうか?」

「武術練習用の木人ですね。それなら当組合の売店で購入できますよ。」

「あと、ライティングビューローと椅子も欲しいんだが。」

「そちらも組合の売店で注文できますよ。」

「分かった、ありがとう。売店に行ってみるよ。」


 売店にて木人を購入し、据え置き依頼を出しす。

「ライティングビューローはどのような物をお求めですか?」

 カタログを見ながら、細部を詰めて注文を纏める。

「これでよろしくお願いします。」

「木人の設置は明日、ライティングビューローと椅子の設置は来週になります。」

「分かった。木人は設置場所に縄張りをしておくよ。」

「ライティングビューローと椅子に関しては、事前に連絡を貰えれば、家にいるから。」

「了承いたしました。木人に関しては設置に行く職人に伝えておきます。また、家具類の設置は前日に連絡をいれますね。」

「よろしく頼む。」


「おはようございます。」

 サラの店を訪ねる。

「おはよう。今日はどうしたね?」

「ダイアから注文書を預かってきました。」

「ああ、分かったよ。品物を持ってくるから少し待ってな。」

「分かった。」


 品物を受け取りながら、サラと話をする。

「ダイアはどうだい?」

「きっちり経営について仕込んでくれるそうです。」

「あぁ、やりすぎない様に私から言っておくよ。前の店主は文字通り泣きながら取り組んでいたからね。中級調薬師試験よりもダイアの合格を貰うのが難しいって良く泣いてたよ。」

「そこまでですか…。お手柔らかに頼むと釘を刺しておいてください。」

「分かったよ。」


 次に鍛冶組合を目指す。

「炉と窯のメンテナンスを頼みたいのだが。」

 受付に問い合わせると、依頼書を差し出される。必要な情報を記載し提出する。メンテナンスを行う職人の都合が付き次第、連絡をくれるそうだ。


「ただいま戻りました。」

「おかえりなさい。」

 自宅に着き、サラの店から仕入れてきた薬を渡す。


「ありがとうございます。」

「そうそう、木工組合の職人が庭に木人を設置しに来るから。」

「分かりました。設置場所はどうします。」

「こっちで縄張りしておくよ。」

「了解しました。」

「あと、家具の搬入を頼んでる。来週には木工組合から連絡が来るので、連絡が来たら教えて欲しい。ついでに炉と窯のメンテナンスをお願いしてきた。こちらも職人の都合が付き次第連絡がくるとの事。連絡が来たら教えて欲しい。」


「木工組合と鍛冶組合ですね。了解しました。」


 庭に出て、木人を置きたい場所に縄張りをする。

「これで良しと。」


「さて、これで武術練習も家でできるようになるし、冬の終わりの狩りに向けての準備もできそうだ。」

 縄張りを終え、家に戻る。


 武器を置いている物置に向かい、武器の手入れを行う。メイン武器の鉄棒はメンテ不要だが、弓と鉈は手入れが必要だ。

「矢はどうするかなぁ。周囲に家が無いから炉を使って鋳造するのも有りか。砂型用の枠とか用意しないとなぁ。ビツーを飼えば矢羽根にも使えるか。飼うのはありだな。」


 新居の環境を整えつつ、本格的な冬を迎えることとした。

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