第12話

「時間になりました。試験を終了します。」

 初級調薬師試験当日、実技を問題なく通過した俺は、筆記試験に進んだ。試験結果は即日発表されるらしい。


「思ったより、難しくなかったな。」

 サラの教えが良かったのか、そもそも試験の難易度が高くないのか、想定していたより難しさを感じることなく試験を終えた。他の受験者を見渡してみると、同じような感触を持ったのか、首をかしげている人が結構いる。


「合格発表は1時間後に掲示板に貼り出す形になります。掲示期間は1週間になります。合格者は、ライセンスの発行手続きに進んでください。」


「合格発表まで時間があるから、食事でもしてくるか。」

 頭を使ったためか、少し甘いものが欲しい。近くに喫茶店があったはずだから、コーヒーでも飲みに行こう。結果の確認は早い方が良いだろう。


「ケーキセットを飲み物はコーヒーでお願いします。」

 近くの喫茶店に入る。この店は煙草が吸えるので、手持ちの紙巻煙草を取り出す。


「さて、結果はどうなるか。」

 不合格という事は無いと思うが、万が一の事もある。ケーキを楽しみながら時間を潰す。


「良かった。無事に合格だ。」

 掲示板に貼りだされる時間を過ぎたので、結果を確認する。不合格な訳は無いと思っていたが、合格を確認し、ほっとする。


 受付に向かい、ライセンスの発行を行う。

「初級調薬師試験に合格したので、ライセンスの発行をお街したいのですが。」

「こちらの書類に記入の上、あちらの窓口にお持ちください。」


 受験番号等を記載し、窓口に向かう。

「おめでとうございます。ライセンスの発行をいたしますので、こちらの冊子をお読みになってお待ちください。」


 冊子を受け取り、発行を待つ。

「初級調薬師から、店を構える事ができるのか。中級の受験は実務経験が1年以上必要と。」

 中級調薬師試験を受けるためには、1年は調薬師として活動をしないといけないらしい。

「調薬師としての活動は、サラに相談するか。」


 呼ばれたので、窓口に向かう。

「こちらが証書とライセンスタグになります。タグは紛失した場合、再発行する際に再発行料をいただきますので、ご注意ください。証書は額装の上、お店に掲示してください。」

「分かった。」

「当組合に口座を作る事が出来ますが、どうしますか?口座を開設されると、仕入れ等の支払い時に口座引き落としが可能になります。」

「別の組合から、振り込んでもらう事も可能か?」

「可能ですよ。帝国内の他組合であれば、振り込み・引き落とし、出入金可能です。」

「分かった。口座を作ってくれ。」

「了解しました。ライセンスタグに必要な情報を記載しますので、タグをお借りします。手続きが終わりましたら、お呼びしますので、暫くお待ちください。」


 口座開設の手続きが終わり、組合を出てサラの店に寄る。

「無事に初級調薬師試験に合格したよ。」

「おめでとう。まぁ合格するとは思ってはいたけれどね。」

「ありがとう。早速で悪いんだが、中級調薬師試験を受験したいと考えているんだが、1年の実務経験が必要らしいんだ、どこかの店で雇ってもらいたいと思うんだが、伝手が無くて困っているんだよ。」

「中級調薬師試験を受けるのかい? なら、ちょうど空き店舗があるからそこで店をやってみないかい?中級調薬師試験の試験範囲の薬の調薬に関しては、私が教えるし、初級以外の薬も私が調薬したものを卸してあげるよ。」

「良いのかい? その前に空き店舗って?」

「前の店主が、中級調薬師試験に合格して、中級調薬師になったので、里に帰ったのさ。」

「里に帰った?」

「あぁ、帝都だと薬の使用量が多いだろ、そうなると当然、調薬の機会が増える。そこで帝都に修行に出てきて、資格を取ったら里に帰って、里で店を構えるか、里の店を引き継ぐ人が多いのさ。小さな村でも調薬師がいないと困るからね。」

「なるほど。ただ、帳簿を付けたり店の経営は全くやった事がないぞ。」

「それなら心配はいらないよ、前の店主を手伝ってた人がちょうど空いてるから、彼女に任せればいいよ。」

「なら、やってみようかな。」

「そうかい、助かるよ。場所は西街区の城壁寄りにあるよ。地図と鍵を渡すからこの後行ってみればいい。裏庭には畑があるから薬草の栽培もできるよ。」

「あぁ、この後行ってみるよ。裏庭があって、畑があるのは良いな。」


 サラの店を出て、地図を頼りに店を目指す。

「ここか。」

 店は3階建てのようだ。受け取っていた鍵を使い中に入る。


「1階は店舗か。」

 当然と言えば当然だが、1階部分は店舗になる。店舗の奥には工房がある。

「使い方が分からない設備があるな。」

 蒸留器は別にしても、これまで使ったことがない器具がある。使い方は追々サラが教えてくれるだろう。

「2階と3階は生活スペースか。」

 2階には台所と居間、小部屋が1つある。3階は空き部屋が2つ、物置が1つある。

「空き部屋の1つは寝室に使うか。」

 物置には狩り道具も置けそうだし、武器防具を置けそうだ。


「さて、長屋を引き払ってこちらに引っ越すか。手伝いさんは明日来てくれるらいし。」


 長屋に戻り、退去の手続きを済ませ、引っ越しのために荷物を纏め、鍵を返した後にカレンの部屋を訪ねる。


「急だが、引っ越すことになったんで、挨拶に来たよ。」

「本当に急ですね?どちらに引っ越すのですか?」

「西街区の外壁当たりだよ。」

 地図を見せながら説明する。

「遊びに行っていいですか?」

「あぁ、構わないよ。いつでも遊びにきてくれ。」


 カレンへの挨拶を済ませ、引っ越し先に向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る