第11話

 ひと汗流した後に、サラの店を訪ねる。


「時間があれば、胃薬の作り方を教えてくれないか?」

「ちょうど、材料があるから構わないよ。」


 店の奥に入る。

「胃薬は、ウムドの胃を乾燥させた物を粉末にした物か、シヨチ苔を乾燥させたものを使うよ。」

「どちらも効果は同じか?」

「あぁ、ウムドの胃の方が良く効くから、少し高級になるね。」

「なるほど。高級なのは材料が手に入りにくいからか?」

「そうなるね。」


「で、効きすぎる場合は、タスの実から作った粉末を使って調整するよ。」

「分かった。」

「タスの実をすり下ろして、布に包む。それを水に付けながら揉むと水が白くなる。その水を安置しておけば、白いものが沈殿してくるから、ゆっくり器を傾けて水を抜いて乾燥させれば完成さ。」

「結構手間だな。」

「あぁ、でもこの粉は他の薬でも調整用に使うから、作っておいて損は無いよ。」

「分かった。」

「薬1に粉3ぐらいまでが限度かね。胃薬は処方箋無しで出せる薬になるからね。」

「分かったよ。これで初級調薬師試験の試験範囲は終わりかな?」

「そうなるね。いつ試験を受けても合格できると思うよ。」

「もう少し勉強して、受験する事にするよ。」

「合格したら教えてくれよ。」

「あぁ」


 サラに別れを告げ、クロウの店を訪ねる。

「手紙届いたよ。追加で幾つか作ったから持っていくと良い。」

「助かるよ。」

 ライターを受け取り長屋に戻る。


「さて、いつ初級調薬師試験を受験しようか。」

 聞くところによると、2週に1回試験が行われているらしい。最も近い日付だと3日後になる。

「自信がない訳では無いが、そんな簡単に受験して良い物か。まぁ、受けるだけ受けてみるか。」

 予定表を見ながら、予定を調整していく。

「1回森に入るのをパスすれば良いだけか。よし、3日後に受験しよう。」

 受験のための願書を取りに調薬師組合に向かう。


「初級調薬師試験の願書はありますか?」

「こちらになります。直近だと3日後に試験がありますが、受験されますか?」

「はい、そのつもりです。」

「では、願書に記入の上、受験料をお持ちください。」


 渡された願書を手に、空きスペースに向かう。

「氏名と年齢、師匠の名前? 師匠はサラでいいのかな?」

 記入した願書を持ち、再度受付へ。


「確認させていただきます。師匠はサラさんですか。記入に問題ありません。受験料の支払いはあちらの窓口でお願いします。」

「分かったよ。」


「初級調薬師試験の受験ですね。願書を確認させていただきます。記入に問題ありません。受験料は100リンになります。」

「100リンだな。」

「はい。ありがとうございます。では、3日後の午前10時迄にこちらの窓口までお越しください。遅れると受験できませんのでご注意ください。」

「あぁ、分かったよ。ご丁寧にありがとう。」

「いえ。」


 サラの店により、3日後に初級調薬師試験を受ける事を告げる。

「思ったより、早かったね。」

「忘れないうちに受験してしまった方が良いと思ってね。ところで、願書に師匠を書く欄があったんだけど、あれはなぜだ?」

「あぁ、あれね。あれは系譜を作るためだよ。」

「系譜?」

「そう、系譜。薬の調合のやり方や管理の仕方を師匠が仕込むわけだから、何か問題が起こった時に、どこの系統の調合師かを調べて、師匠のやり方が間違っているのか、本人が間違っているのかを調べたり、特殊な薬を作れる調合師の系統が途切れないように管理したりするのさ。」

「なるほど。」

「ちなみに私の弟子は多すぎて、系統図が巨大になってしまってるらしいよ。最近は直弟子を取る事が減ってたんだけどね。」

「良いのか、俺を弟子にして?」

「構わないよ、むしろ私の直弟子って事で迷惑かけるかもしれないね。」

「あぁ、それは構わないよ。」


「そうそう、機巧師に新しい機構のライターを作ってもらったんだけど、良かったら使ってみてくれないか?改良点があったら俺に教えてくれ。」

「ほう、そうかい。わざわざ新しいのを作らせたのかい?」

「あぁ、今ある奴が使いにくくてさ。」

「分かったよ。何か気になる所があれば、連絡するよ。」

 サラの店を出て、狩猟小屋を目指す。


「こんにちは。ロバートかリーグはいますか?」

「ロバートが奥にいるよ。」


「ロバート、良かったらこのライターを使ってくれないか?」

「どうした、急に。」

「新しい機構のライターを機巧師に作ってもらったから、使って改良点があれば教えて欲しい。」

「分かった。」

「今までの奴より、火を付けやすくなってるはずだし、オイルの補充も簡単になっているんだ。」


 ライターの扱い方を説明し、ロバートに渡す。


「そうそう、3日後は森に入る予定だったけど、所用で見送る事になったよ。」

「分かった。」

「この冬の予定は?」

「特に決まってないな。狩りに行くならいつでも誘ってくれ。」

「あぁ、人手が多い方がたすかるからな。気軽に声をかけさせてもらうよ。」


 狩猟小屋を出て、自宅に戻る。


 いつものようにコーヒーを淹れながら、パイプに煙草を詰める。

「さて、3日後の試験のために勉強を進めないとな。」


 コーヒーを手に試験勉強を進める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る