第10話

 翌日、森に入るために準備を進める。


「今日は日帰りで森に入るよ。」

 狩猟小屋に一声かけ、森を目指す。


 奥まで行かずに薬草を集める。

「これは、ヘクー鹿の糞だな。」

 今日は、ヘクー鹿と遭遇するかもしれない。

ヘクー鹿なら一人でも狩れると思う。」

 基本的に、ヘクー鹿は臆病なため遭遇すると逃げてしまう事が多い。

「上手く行けば、角と肉が手に入るかな。」


 薬草を集めつつ、ヘクー鹿の痕跡を探す。

「探しているときに限って遭遇しないんだよなぁ。」

 ヘクー鹿の痕跡は見つかるが、ヘクー鹿の気配はない。

「まぁ、薬草を集めれば良いか。」


 薬草の他に依頼されている木の根や樹皮なども集める。

「これも薬になるのか。」

【鑑定】スキルに刻み込まれていく感覚があるので、スキルが少し伸びているようだ。最近伸びている感覚がなかったので、少し嬉しくなる。


「木の実も頼まれてたな。」

 木の実や果実も見つけ次第、採集を行う。

「思ったより集まったなぁ。そろそろ帰るか。」


 森を出ようとすると、ヘクー鹿を見つける。ちょうど風下にいてるので、息を殺して弓を構える。

「落ち着け。深呼吸して狙いを定めて。」


 狙いすました矢は真っ直ぐヘクー鹿へ向かう。

「よし!!」

 矢はヘクー鹿の頭に刺さる。

「ここからは一気に決める。」

 鉄棒で頭を殴り、鉈で首を切る。ヘクー鹿の血が掛かりそうになるが、何とか躱す。

「何とか角付きのヘクー鹿を狩れたな。血抜きした後に、狩猟小屋に持って行って解体するか。」


 ヘクー鹿を血抜きした後に担ぎ、狩猟小屋に向かう。

「戻りました。解体場借りますね。」

「おう、今日は何を狩ってきた?」

ヘクー鹿です。ちょうど風下で狩れる位置にいたので、頑張ってみました。」

「矢で頭を狙った後に、鉄の棒で殴って、首を掻っ切ったか。」

「はい。」

「数を熟してない割には、手馴れてきたな。」

「えぇ。襲ってこないので大胆に行けました。ウムドと違って爪に気を付ける必要が無いので、落ち着いて行けば、大丈夫そうです。」


 リーグと話しながら、ヘクー鹿を解体する。

「心臓と肝臓は薬になるから、調薬師に持っていけば良い。」

「心臓と肝臓もですか?角は薬になるから持ってきて欲しいと言われてたんですが。」

「あぁ、心臓と肝臓も薬になるらしい。」

「そうだ、冬の終わりのヘクー鹿パーリオイノシシの間引きの時に、薬になる部分を分けてもらって良いですか? サラさんに頼まれてて。」

「サラの頼みか。それは断れんな。まぁ、元々サラの所に持ち込む予定だったし、渡される代金を打ち上げ代にしてくれるなら、構わんぞ。」

「分かりました。派手に打ち上げましょう。」


 ヘクー鹿の角・心臓・肝臓と肉を持ち、サラの店に行く。

「今日の分の薬草を納めにきたよ。」

「ありがとうね。」

「あと、運よくヘクー鹿を狩れたから角・心臓・肝臓を持ってきたよ。」

「助かるよ。」

「間引きの時にも分けてもらえることになったよ。」

「それは助かるよ。ロバート達にいつも渡す額を渡すからね。」

「ありがとう。打ち上げを派手にやれるように頑張って狩って来るよ。」

「あんまり飲みすぎないようにね。」

「分かってるよ。」


 サラの店を出て、長屋に帰る。

 パイプに煙草を付けて火を付ける。

「今回は、ヘクー鹿だったから上手くいったけど、パーリオイノシシだったら難しかっただろうなぁ。」

 パーリオイノシシに突撃されたら、今回のように立ち回れる自信がない。あの大きさであのスピードは恐怖を感じるんだよなぁ。

「あと、まだ棒に振り回されている感が強いんだよなぁ。体幹を鍛えないと。」

 自己鍛錬を再開して日が浅い。

「筋トレはそのうち効果が出てくるだろうし、続けるしかないんだよなぁ。」


 翌日、クロウの店を訪ねる。

「よく来たな、ちょうど昨日、試作品が出来上がった所だ。こっちに入ってこないか。」

「あぁ、分かった。」

「これが試作品になる。試作にかかった費用は50リンになる。」

「思ったより安く上がったな。」

「一番費用と時間が掛かったのが内部機構だからな。外装等はそこまでお金がかかっていない。」

「では、50リンを納めよう。」

「ありがとう。試作品を使ってみて、改善点が合ったら教えて欲しい。油はカンテラに使う油で行けるはずだ。」

「分かった。暫く使ってみて、なんかあったらまた来るよ。」

「こっちはレポートを纏めておくよ。売り上げの取り分に関しては次回で良いか?」

「あぁ、そうしよう。」


 クロウから受け取ったライターを手に、カンテラ油を購入し長屋に戻る。


 いつものようにパイプに煙草を詰め、ライターで火を付ける。

「おぉ、圧倒的に使いやすいな。あとは知り合いにも使ってもらうのも有りか。ロバート達やサラに使ってもらうのも良いかもしれない。もう少し数を作ってもらうか。」


 クロウの店に手紙を送り、ライターを3つばかり作ってほしいと連絡する。

「一週間後に取りに行くと書いておけば、作っておいてくれるだろう。」


 翌日、ここ最近の習慣となっている帝都の外周を走り、訓練用に開放されている広場に行き、鉄棒を振り回す。

「折れないから良いけど、結構重いんだよなぁ~、これ。」

 自身が振り回されないように気を付けながら鉄棒を振り回すには筋肉の他にコツがいる。

「足場が良いと問題が無いんだけど、いつも足場が良いと限らないしなぁ。あと、鉄棒を鉈に持ち帰るのにも手間取ってたから、そこも練習しておくか。」

 腰に付けた鉈サイズの棒と鉄棒を持ち変える練習を行いスムーズに持ち変える事ができるようになった。

「あとは、弓との連携かな。まぁ、弓は矢を撃つ前に棒を持ちやすい所に置いておけば問題ないか。」

 ここ最近の狩りでの問題点を洗い出し、狩りへの準備を進める。

「冬の間は採集では無く、狩りを中心に生活したいしな。」

 採集での収入は魅力的だが、狩りの腕前をあげて、猟師としても生計が立てられるようになりたい所だ。


 一通り練習した後に、広場を後にする。

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