第8話

「ここか。」

 組合で紹介されたクロウの店を見つける。


「いらっしゃいませ~」

「組合から紹介されて来たんですが、クロウさんはいますか?」

「はい、私ですが?」

 店の奥から、クロウが出てくる。


「実は、こういうライターを作ってもらいたくて。組合の受付に聞いたら、クロウさんが得意だと聞いたので。」

 ざっくりと書いた設計図を広げながら、クロウに話をする。


「大きく分けると、外装と内部装置に分けられます。」

「ほう。」

「内部装置は、着火するための機構と燃料タンクを兼ねた部分になります。付属品として芯と燃料を蓄えるためのコットン等が必要になります。」

「うまく作れれば、従来の物より小型にできそうだね。」

「えぇ。あと、火打石と芯は消耗品なので、ライターが売れれば売れるほど息の長い商売ができますよ。」

「それは良い。」


 機構等の詳しい説明と、希望するサイズ感を伝えると

「1週間くれ、試作品を作ってみるよ。それで使用感を教えてくれ。暫く改良を続けていこう。」

「分かった、来週店に寄らせてもらうよ。依頼金は試作品ができてからで良いか?」

「あぁ、試作にかかった金額を請求させてもらうよ。」

「では、また来週。」


 クロウの店を出て、自宅に戻る。


 翌日、サラの店を訪ねる。

「時間があるなら頭痛止めの作り方を教えてくれないか?」

「あぁ、構わないよ。」

 いつものように店の奥に入る。


「今回使用するのは、ケワリ苔になるよ。この苔を乾燥させた後に、粉末にすれば頭痛止めになる。」

「今回は簡単だな。」

「まぁ、ケワリ苔を見つけるのが大変なんだよ。」

「そうなのか?」

「あぁ、暗くて湿度が高い場所を好むから、洞窟でしか取れない。近くに洞窟が無い場合は、入手するのが大変なんだよ。」

「なるほど。」

「帝都は近くに洞窟があるからまだ良い。近くに洞窟が無い街に帝都から運んでたりするので、ケワリ苔は見つけ次第採集してくれれば助かる。」

「次の採集の時に気を付けて見つけてくるよ。」


「この薬は処方箋無しで出せる薬になるよ。」

「なるほど。意外な所では酒場でも置いているところがある。二日酔いの頭痛を止める為に買って帰る客が多いとか。」

「そんなになるまで飲むなよって、気がするんだが。」

「それはごもっとも…」


 サラに別れを告げ、店を出る。


「さて、明後日まで何をして過ごそう。ここ最近、棒術の練習とか弓の練習をしてないよなぁ。」


 翌日久しぶりに道場を訪れる。

「鉄棒に変えてから、動きが悪くなった気がするのは、間違いないよなぁ。筋トレする必要があるな。」

 このゲーム、ステータス等はマスクされ、伸ばすためには相応のトレーニングや練習が必要になる。

「鉄の棒を振り回しても体がブレないようにしないとなぁ。森に入らない時はランニングと筋トレを日課にするか。」

 ウムドに折られて以来、鉄の棒を使っているが、本格的に振り回す機会が減っている。


「動物に襲われないのは良い事だけど、自衛のための手段が錆びつかないようにしないとなぁ。」


 次に弓を構えみる。

「こっちも命中率が下がってるな。冬の終わりの狩りのために練習をしておくか。戦力として期待されているようだし、ダメダメでしたでは、ロバート達に悪いしな。」


 当分の間、棒術と弓の練習をしないといけないと思いながら、練習用の木の棒を買い長屋に帰る。


「おかえりなさい。」

 帰りにカレンに捕まる。

「また、勉強を見てください。」

「構わないけど、明日と明後日は家にいる予定だから。まぁ、朝に少し体を動かすために外出するから昼頃に来てくれればいいよ。」

「分かりました。」


 翌日、朝から帝都の外壁沿いを走る。

「一周走るのがつらい。スタミナって意識して伸ばしてないから仕方がない部分もあるが、ここまでスタミナで苦労してなかったからなぁ。」


 汗を拭き、朝食を食べる。

「コーヒーって手に入るのか?」

 現実世界では、中毒と言えるほどコーヒーを飲む。煙草の味を感じるくらいだから、色々と豆を買うのも悪くないかもしれない。


「サイフォンが欲しいな。これも機巧師組合かな。明日行ってみるか。」


 昼過ぎになるとカレンが部屋に来る。


「今日もよろしくお願いします。」

「あぁ分かったよ。ただ、そろそろ卒業の時期ではないか?」

「そうなんです。あと1回試験に合格すると卒業です。」

「試験準備は?」

「まぁ、合格できるラインには到達してると思います。」

「じゃあ、少し勉強すれば良さそうだな。」

「はい。」


 カレンの勉強を見つつ、サラに教えてもらった初級調薬師試験のためのメモを整理する。

「それは?」

「初級調薬師試験の準備だよ。」

「初級調薬師?」

「そう、薬を自分で作れればと思ってね。」

「凄いですね。」

「そうか?」

「えぇ、私の周りにいませんよ。」


 冬になる前に初級の試験を受けようと考えている。こちらも合格ラインには届いていると思っているんだが。


「ありがとうございました。合格出来たらお祝いに行きましょう。」

「楽しみにしているよ。」


 翌日も帝都の外周を走り、朝食を取り、機巧師組合に向かう。


「お、あったぞ。コーヒーサイフォン。」

 お目当ての物を見つけ、受付にコーヒー豆がどこで買えるか聞いた後に、豆を数種類買って帰宅する。

「おぉ、美味い。」

 煙草をふかしながら、コーヒーを楽しむ。

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