第6話
さて、今回の休暇中に西街区の図書館分館に行って、キノコの図鑑を借りてキノコに関する知識を深めてきた。【鑑定】スキルにも影響が出たのか、これまでは目に入らなかったキノコも幾つか見つける事が出来た。
「これはどっちだ…」
キノコの判別は難しく、うっかり口に入れるとそのまま中毒を起こす事がある。プレイヤーは酷い衰弱状態になるだけで死にはしないとは言え、体を張った鑑定を行いたくはない。
「怪しいものはサラに聞いてみるか。」
調薬師は、野草とキノコの判定も請け負っている。薬草から薬を調薬する以上、正確に判定する事が必要だからだ。
「今日はこの辺で野営の準備をするか」
冬が近づくにつれ、陽が落ちる時間が早くなってきている。採集作業を切り上げ、野営の準備を進める。
「そろそろ野営も厳しいかなぁ」
本格的な冬が訪れると帝都周辺でも積雪する日もあるとの事。テントを買って野営を続けることも考えたが、サラやロバートは「冬の野営は勧めないよ」と言ってくる。この二人がそう言うのであれば、強行するのは考えた方が良いと思っている。
「明日は朝から森の奥に行くか。」
今朝狩猟小屋を覗いた時に、「そろそろ
「やはり寒いな。」
朝の冷え込みで目が覚めた。そろそろ野営も厳しいなと実感する。
「さて、慎重に行きますか。」
今日の目標は森の奥にあると言う洞窟を目指す事。この洞窟にだけ生える苔とキノコを採集したいと考えている。
「今の所、足跡や糞は見つからないな。」
これまで以上に慎重に形跡を探す。
「聞いていた方角はこちらであっているはずなんだけれども。」
サラから聞いた洞窟の話を思い返しながら森を進むと、洞窟の入り口を見つける。
「この森には全部で5つ洞窟があると言っていたな。」
洞窟の入り口は5つあり、内部で繋がっているとも言われている。本格的に探索する人がいないため、内部の詳細な地図は無い。
「冬はここで冬眠する動物もいるらしいし、雨が降るとここで雨宿りする動物も多いらしい。」
探索が進まない最大の理由は、この洞窟では鉱石が取れないから。冬眠中の動物と鉢合わせするリスクを取ってまで洞窟を探索しないようだ。
「春になったら、この洞窟の地図を作るのも面白そうだ。」
洞窟に入ってしばらくすると目的の苔とキノコを見つけることができた。必要量を採集し洞窟を出る。
「さて、気を付けて帝都に戻るか。」
森を出て狩猟小屋に声をかけて、帝都に戻る。今回は動物と出会うことなく戻る事ができて、門をくぐるとほっとした気持ちになる。
サラの店に行き、「そろそろ野営しての採集も厳しそうだ」とぼやくと、
「そもそも森に入っても薬草が見つからなくなるからねぇ」と、サラは言う。
「契約が少し残っているが?」と聞くと
「冬の間は、洞窟に生えてる苔やキノコ、薬になる木の根を中心にお願いする予定だよ。流石に見つからない物を探せとは言わないさ」との事。
「まぁ、寒さが厳しい時期には、依頼の期間が終わるから安心しな。」
と、笑顔で言われる。
「今回、初めて洞窟に行ったんだが、思ったより苔やキノコが多かったな。」
「そうだろうさ。森の奥まで採集にいける人間も今は調薬にかかり切りになってるからね。明日は採集した苔とキノコを使って薬の作り方を教えるからね。」
サラから、講義の予定を聞き、長屋に戻る。
「今日は消毒液と止血薬、化膿止めの塗り薬を作るよ。」
翌日、サラの店に講義を受けに行く。
「消毒液は、度数の高い蒸留酒を使う事もあるんだけど、昨日採集してもらったサジク苔を乾燥させて粉末にしたものを溶かすことで、止血効果を持たせる事ができるのさ。」
「なるほど。」
「同じ粉末を蜜蝋に混ぜると塗り薬の止血薬ができる。この2つは処方箋無しで出せる薬になるよ。」
「分かった。」
「次は化膿止めだね。」
「よろしく頼む。」
「化膿止めは、ビーロ茸を使うよ。黒焼きしたビーロ茸を粉末にして蜜蝋に混ぜるだけだよ。この薬も処方箋無しで出せる薬になる。」
「分かった。止血薬と化膿止めは狩り用のカバンに入れておいても損は無いな。」
「あぁ、そうだね。この前のような事があったら役に立つと思うよ。」
「確かに。まぁウムドと鉢合わせするのは可能な限り避けるけどね。」
「それが良いよ。」
「残りは胃薬と頭痛止めの作り方を覚えれば、初級調薬師試験は問題ないはずだよ。」
「そうか。冬の間に試験を受けようと考えているんだけど、間に合うかな。」
「大丈夫さ。材料はそろってるから、今度教えてあげるよ。」
「助かる。」
サラの店を出て、長屋に向かう。
「冬の間に西街区の地図を作って、【地図作成】スキルを伸ばしたいなぁ。」
冬の間にスキルを伸ばしておけば、暖かくなってからの洞窟の地図作りに役に立つだろう。
「街中なら遭難したり、寒さに負けることもないだろうし。」
途中文具店に寄り、地図の下書きに使う紙を買い込む。
「各街区の地図は売っているんだけど、答えを見るのは気が引けるから、満足いく地図を作れた後に、答え合わせ用に買うか。」
「おかえり~」
カレンに声をかけられる。
「今日、止血薬と化膿止めを作ってきたんだけど、多めに作ったから幾つか分けてあげるよ。」
「わぁ、ありがとう。」
「外歩きする時のカバンに入れておけば、いざという時に役に立つと思うよ。」
「助かります~。」
カレンに薬を分け、自室に戻りカバンに薬を入れる。
翌日も森に入らず、街中で活動する日だ。
「距離を測るのに歩測するしかないだろうから、歩数計があれば助かるなぁ。」
未開拓地の地図作成の依頼は傭兵組合に出されることが多い。
「傭兵組合に聞けば、売っている場所が分かるかな。」
傭兵組合に向かい、受付に歩数計がどこで買えるか聞いてみる。
「歩数計でしたら、組合内の売店でも購入できますよ。より使いやすい物をお求めでしたら、機巧師がやっているお店か、機巧師組合ですね。」
「ありがとう。助かったよ。」
「お薦めは機巧師組合ですね。機巧師も大型の機械を作るのが得意な人とか細かい部品を扱うのが得意な人がいますので、機巧師組合に行った方が早いですよ。」
「そうか。色々と親切にありがとう。」
機巧師組合に向かい売店を目指す。
「歩数計以外にもカンテラとか懐中時計も欲しいな。」
値札と財布の中身を見ながら考える。
「春までにはすべて揃えたいから、頑張って働きますか。」
機巧師組合からの帰りに煙草屋に寄り、パイプ、煙草、タンパー、清掃用具を購入する。
「現実世界では吸いにくくなってるし。こちらでは害が無いから気軽に吸えて良いよな。」
これまで、手を出さなかった煙草を購入する。
パイプに煙草を詰め、火種を使い点火。盛り上がった煙草をタンパーで抑えて、再度点火。ゆっくりと紫煙を燻らせる。
「味と香りは現実世界と変わらないのか。これは煙草を色々買いたくなるな…」
のんびりと煙を吐きながら、明日以降の予定を確認する事とした。
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