第5話

 ウムドとの遭遇から2日。

「Tera Sim」に参加して、初めて休息を優先とする日々を過ごした。折角なので、これまで分かった事をノートに書きつける。


 今いる帝都は、カルク帝国の首都で、都市名はカークと言う。帝都はほぼ円形の城塞都市となっており、中心部は行政区、周囲を各街区がかこっており、行政区と各街区の行き来は自由にできる。


 参加したばかりの頃に向かった図書館は行政区にある中央図書館になる。各街区には行政機関の出先機関や図書館の分館もあり、余程の事が無い限りは街区から出ることなく生活できるように設計されている。


 各街区にある図書館の分館は、ちょっとした調べ物をするのに向いており、より深く調べようとすると本館に行く必要がある。また、分館の役割として、各種レポートや論文の収集を行っており、採用されたレポートや論文は本館に送られた後に再度審査され、問題が無い場合は半年に一度刊行されるレポート集・論文集に掲載される。


 聞くところによると、文官・武官の昇進の査定の一部になっているらしい。レポート・論文は誰でも読むことができ、調薬師などは、新たな薬効のある薬草や薬草の組み合わせを見つけるとレポート化して報告、一気に周知する方法をとっているらしい。


 また、各街区には、様々な組合や商店が並んでいる。

 組合は、お世話になっている物を例に挙げると、木工組合、猟師組合、鍛冶組合、調薬師組合など。商店は武器屋、防具屋などから宿屋、食堂など多種多様。プレイヤーは空腹などの生理現象の影響を受けるので気に入った食堂を見つけるために、グルメレポートを読む人が多い。現実世界のように星の数で評価されているグルメレポートもある。


 プレイヤーは、各街区に用意されている長屋に拠点を置いている事が多い。長屋は10階建てで水力等の動力を利用したエレベーターが用意されている。長屋街には約1000室程度部屋が用意されており、未だに拡張が進んでいる。ちなみに俺は西街区の長屋街に拠点を置いている。


 長屋にはベッドと机、衣装箪笥が備え付けており、他の家具は置くことができない。庭などはある訳もなく、生活に余裕ができたプレイヤーは、賃貸住宅や持ち家に移っていくらしい。ただし、長屋で暮らせる年限が決まっており、1年で長屋を追い出される。


 帝都で、賃貸を借りようとすると月当たり900リン程度かかるらしい。余談だが、ゲーム内通貨のリンと米ドルは=で結んでもらって構わない。地方都市に行くほど賃貸料は下がるのは、現実世界と変わらない。


 今の俺は薬草収集で月に1000リンとザウムで作った水筒の特許利用料がごく僅かに振り込まれているが、この収入だけで帝都で生活するのはかなり難しい部類に入る。帝都で開始したプレイヤーが物価の高さに帝都での生活を諦め、地方へ移動するケースもあるらしい。


「とりあえず、もう少しは帝都で暮らしたいから収入を増やさないとなぁ。」

 今現在の帝都での目標は、初級調薬師試験と中級調薬師試験の合格、鏃を自作するための技能の習得、棒術以外の武術の習得としている。

 中級調薬師になる事が出来れば収入が安定し、帝都で暮らす上では問題が無い。その上で他に必要な技能を身につけて行って、自活能力を上げようと考えている。


 帝国の他には、南に王国、北に連邦があり、この3国は現在紛争状態ではなく、平和が続いている。プレイヤーの行き来により物流が活性化し、この3か国の交易量が過去最大になっているとの事。


 最後に、プレイヤーの生死についてまとめておこう。プレイヤーはほぼ死なない。頭と胴体がお別れした場合や心臓を一刺しされると死亡判定を受けるが、それ以外は「なんとか一命をとりとめた」と言う形になる。

 

 死亡判定後は、二通りの流れがあるらしい。紛争等で襲撃を受けて死亡判定に至った場合は、キャラクターデータは凍結され、プレイヤーは新しいキャラクターを作る必要がある。この場合、スタート位置は前回と別の場所や国を指定する必要がある。


 何らかの罪を犯し、その処罰を受けて死亡判定を受けた場合は、キャラクターデータは凍結されず、一定期間のアクセス禁止ペナルティーを受けた後に首元に縫い傷がついたキャラクターでゲームを再開する事になる。再開後に襲撃を受けて死亡判定に進んだ場合でも、首元の傷は引き継がれるため、一度犯罪を犯すとそれこそ「一生残る傷」になる訳だ。


「アランさん、いるんでしょう?」

 ノートにあれこれと書きつけていると隣の部屋に住むカレンが声をかけてくる。


「おう、何か用か?」

「この前貰った、パーリオイノシシの肉のお返しにビツーの卵を持ってきたの。」


 この前狩ったパーリオイノシシの肉をお裾分けしたお返しに、ビツーの卵を持ってきてくれたらしい。


「ありがとう。助かるよ」

「そういえば、怪我したって聞いたけど、大丈夫?」

「あぁ、傷も塞がっているし、明日まで休んで、明後日から活動を再開するよ。」

「そうなんだ。よかった~。」


「そういえば、お願いがあるの。また「Tera語」を教えてくれない? 語学学校の授業に付いて行くのに苦労してて。」

「構わないよ。明日は一日部屋にいる予定だし、活動を再開しても以前と同じで2日間森に入って、3日は街で活動するつもりだしね。」

「やった~。たすかる!!」


 比較的覚えやすいと言われる「Tera語」だが、習得のしやすさは個人差がある。俺はすんなり頭に入っていったが、周囲を見ると苦労している人間も少なくなかった。

 カレンは最近、Tera Simに参加したらしい。第一関門である「Tera語」の習得に必死になっている姿を見て、「自分もそうだったなぁ」と懐かしい気持ちになる。


「前回の反省から、手甲と脚絆、革鎧も買ったし、棒も鉄に買い替えた。まぁウムドは勘弁だけど、遭遇しても前回よりはマシだろう。」


 狩猟小屋に一声かけて、久しぶりの森へ入る。

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