第2話

 調薬師に水筒を渡して数日、意外な事に「俺にも作ってくれ」と頼まれる事が多くなった。木工組合にレシピの登録を調薬師に勧められたので、レシピの登録を済ませて、不労所得が入って来るようになった。


「これでローブが買えるな」

 ちょっとした小銭が入ったので、ローブを購入。水筒・円匙・鉈を腰に下げるためにベルトを改良してもらったり、カラビナを作ってもらったりと、装備を整える事ができた。


「森の奥に行きたいが、自衛手段を考えないとなぁ。」

 森に行く際は鉈を持ってはいるが、動物に襲われると考えると少し怖い。


「少しは武器の扱いを覚えた方が良いか。リーチが長い棒術か遠隔武器の扱いを覚えよう。弓は買ったとして、矢は消耗品だから自作したい所。鏃と矢羽根だけうってくれるか確認しておかないと。」


 拠点に置いてある木人に森歩きをする時に使っている棒で棒術の真似事をしてみる。

「これも基本的な足捌きや棒の使い方を道場で教えてもらった方が良いな。素人の生兵法は大怪我の基と言うしなぁ。一度覚えたら色々と使い道があるだろうし。」


 この日から、午前中は森に入り採集、午後は道場で棒術の手ほどきと弓の扱いの教えを受けると言う生活が始まった。


 そんな生活が3か月ぐらい続いたある日、いつものように薬草を調薬師に持って行った際に声をかけられる。

「お前さんに頼みがあるんだが、半年間程、うちの専属で薬草を森から集めてきてくれないか。可能な限り薬草を集めて持ってきて欲しいんだ。」

 専属の契約をしたいと思い詰めた顔をした調薬師が言う。

「専属を頼んでおいて、申し訳ないが、うちを介して他の調薬師に流すことも許して欲しい。」


 どういう事だろうと事情を聴くと、どうやら今、帝都では慢性的な薬草不足に陥っているらしい。調薬師は薬の調薬に掛かりきりで採集に行く余裕がなく、調薬師に薬草を持ち込む人間も減っているらしい。


「お前さんは、ここ数か月、毎日森に入って薬草をとってきてくれるだろう。おかげでうちは助かっているのだが、あちこちの調薬師では、薬草が足りず、薬を作るのに苦労しているようなんだ。取ってきて欲しい薬草の一覧と最低量を書いた紙を渡すから、その薬草を集めてきて欲しい。月に1000リン渡そう。最低量を越えた分は出来高払いにするから」


 こちらとしては、助かる申し出ではある。安定した収入があれば、より良い装備を揃えられるし、将来の生活のための貯えを作る事ができる。


「俺としては構いませんが、1つ条件があります。」

「条件とは何だい?」

「薬の調薬を教えて欲しいのです。もちろん、調薬を覚えても薬草を集めるのをやめません。こちらとしては、それが問題ないのであれば、大歓迎です。」

「調薬ができる人間が増えるのは、我々調薬師としても大歓迎さ。ただ、調薬に関しては、国の決まりで試験に合格する必要があるよ。効果の無い薬を世に出す訳にはいかないし、毒物を使う薬もあるからね。まぁ、まじめにやれば初級調薬師にはすぐなれるさ」

「試験ですか。まぁ、人の生命にかかわる問題ですしね。わかりました。期間中に初級調薬師試験に合格できるように頑張りますよ。」


「では、専属契約を引き受けてくれるのかい?」

「ええ、もちろんです。半年間よろしくお願いします。」

 こうして、行きつけの調薬師と半年間の専属契約を結ぶこととなった。


「いくつかの薬草は森の奥に入らないと採集できないものもあるから、無理はしなくて大丈夫だよ。」

「わかりました。可能な限り努力します。」



「棒術と弓の扱いを覚える理由が増えたな。」

 今の習熟度では、「森の奥では厳しい」と道場の師範から言われている。今の生活サイクルを見直して、道場に通う頻度を上げなければ。

 これまでは、毎日の採集で現金収入を得て生活していたが、月給制に変わるので、2日採集、2日鍛錬、1日フリーの5日間を1サイクルとして、生活しようと思う。


 これまでは、自分が知っている薬草を中心に採集していたが、リストを見ると自分が採集していなかった薬草も採集する必要がある。調薬師に現物を見せてもらい見分け方を教わる事で【鑑定】スキルを成長させた。


 2日森に通い、2日道場に通う生活が2か月続くと、森で野営する方が楽なんじゃないかと思うようになってきた。幸いにしてまだ暖かい日が続くため、テントを立てる必要もなく、焚火しローブに包まる事で朝まで過ごせると思う。


「初めて野営するな。上手く行けば、まとまった量の薬草を探せると思うし。」

 いつもの荷物に夕食分の食材と、フライパンと鍋をリュックに詰め込む。


 日が暮れたあたりで1日目の採集を終え、集めた石を使い焚火を作る。

「火を起こすのに手間取ったな。ファイヤーピストンを用意しておくべきだったか。次への反省だな。」

 苦労した末に火を付け、夜を明かす。


「大きめのリュックを買って木炭を持ってきた方が良いかもなぁ。」

 朝まで火を持たすことができず、少々寒さを感じて目を覚ます。

「よし、次の採集までに大きめのリュックとファイヤーピストンを用意するか。」


 採集から帰り、調薬師に薬草を渡す。今回から泊りがけで森に入った事を調薬師に伝えると

「あまり無理をしないように、継続的に薬草を持ってきてくれれば良いから」

 と言われる。


 装備を整え、森で野営をする生活が1か月過ぎると森に持っていく荷物が大分最適化され、森での野営も快適なものになってきた。


「とりあえず、足場にさえ注意すれば問題ないレベルになって来たし、森の奥に入っても良いと思うぞ。」

 通っている道場の師範からありがたいお言葉をいただく。

 弓の方も止まっている的であれば、外さないようになってきた。



「そろそろ動物の解体も覚えた方が良いよなぁ。【解体】スキルも欲しいし。」

【解体】スキルを覚えるため、猟師組合に相談する。

「そういう事でしたら、森の入り口にある狩猟小屋にいる猟師に相談してみてはいかがでしょう?こちらとしても食肉を納めてくれる方が増えるのは歓迎ですし。」

 こちらもプレイヤーが参入した事による、人口増大で供給が追い付いていないとの事。


「あの~すいません。誰かいますか?」

 森の入り口の狩猟小屋を覗きながら声をかける。

「おう、何か用か?」

 小屋の奥から猟師が数人出てきた。

「動物の解体を教えてもらえると猟師組合で聞いたんですけど。」

「おう、構わんよ。ちょうどヘクーを捕まえてきた所だ。これから解体するから見て行くか?」

「お願いします。」


 ヘクーはどうやら鹿らしい。

「解体用の道具は持っているか?持っていないなら組合で売っているので手に入れておけよ。あと、マメに手入れをする事。切れ味が悪いと解体に手間取るからな。砥石は鍛冶組合で手に入るはずだ。」

 慣れた手つきで解体をしながら、猟師が言う。


「わかりました。揃えておきます。」

 猟師の解体を見ながら、「持ち歩く道具が増えていくな」と一人呟く。


「よし、解体終わり。折角だし、飯を食っていけ。」

 猟師に誘われ、狩猟小屋へ入る。


「森に入るなら一言かけてくれよ。帰りにも顔を出してくれれば助かる。あんまり顔を見せないと森で動物にやられたと思われるからな。」


 森の中での罠猟は禁止されている事などを聞きながら数日前に解体されたヘクー鹿肉を使った料理をいただく。

「わかりました。次から顔を出しますね。」

「おう、待ってるぜ。」

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