仙人のように暮らしたい

@Baze1982

第一章 自活能力を求めて

第1話

「自由度が売りのゲーム」ってのが、世の中に出てきて早数十年。初めの事は「オープンワールド」とか言っていたが、計算機資源の等比級数的進化に伴い、NPCのAIの賢くなり、プレイヤーが存在しない状態では、開発側が設定した初期設定を基に世界を維持し、経済が回り、国同士が対立・共存する、いわゆる「ワールドシミュレーター」のように振る舞うようになってきた。


 そんな世界に異分子としてプレイヤーをばら撒き、プレイヤーによる世界の改変を楽しむゲームが増え、電脳世界で第二の人生を送る人間がたくさんいる世界。

 黎明期にはいくつかのゲームが存在していたが、集約していった結果、第二の地球ともいえる世界中の人間が参加する「Tera Sim」がリリースされ、「Tera Sim」での収益で現実世界でも生活できるようになっていった…


 そんな世の中の状況で「仙人のように暮らしたい」と思い立ち、「Tera Sim」の世界に降り立った。


「まずは何をさておいても【鑑定】スキルを伸ばさないとなぁ。」

 スキルが存在し伸ばし方は様々。スキルには【鑑定】を初めとするユーザー補助。他には戦闘系・魔法系・採取・採掘・各種作成スキルがある。


 仙人暮らしに憧れるものの、ある程度は自活できる基盤を作らないといけない。その為にはまずは、この世界の知識を増やしていかないといけない。文字を覚え、植物の植生を覚える。やる事は沢山ある。「Tera Sim」での新生活に心が躍る。


 帝国首都にはこの世界でも有数の図書館がある。俺がこの都市をスタートに選んだ最大の理由だ。まずは数週間かけて、この世界の言葉を覚えないといけない。現実世界での言葉の壁を乗り越えるため、この世界では、オリジナルの言語が使用されている。

「みんな0から言葉を覚えれば、特定の言語しか使えない人たちに不利にならないはず」とは開発陣の言葉だ。

 そのため、まずは「Tera語」と呼ばれる言葉の習得が推奨されている。言葉の習得は人から教えてもらうか、絵本等から始め独力で言葉を覚えていく等の手段がある。言語学校はそれなりの代金を取られるが、既定の日数通う事で最低限の言葉を覚えることができる。


「まずは言語学校を探すか。」

 言語学校で最低限の言葉を覚えた上で図書館通いを続け、ボキャブラリーを増やしていく。ついでに図鑑を見て、採取・採掘対象の草木・鉱石の知識を増やして【鑑定】スキルを伸ばしていく計画だ。

 多くのプレイヤーは言語学校を卒業するとTeraの世界で冒険を始めるようだが、俺の夢は「仙人のような暮らし」なので、冒険に出ずに採取を中心に野山で食料を調達できるようになるのが最初の目標となる。


 言語学校に通う事、1週間。ようやく最低限の言葉を覚え、NPCとの会話にも支障がない程度になった。


「図書館を利用したいのですが」

 図書館の受付で利用法を教えてもらう。

「登録に100Gかかります。貸し出しは1週間で1度に10冊まで。本を棄損・紛失した場合は、1冊につき1万Gいただきます。」

 受付担当者に利用手続きをお願いし、レファレンスサービスに「植物図鑑」と「周辺の植生図」をお願いし、見つかった数冊の本を借りて帰る事とした。


「さて、どんな植物があるのやら。」拠点としている首都周辺の植生図を眺めながら、「植物図鑑」で対応する植物を探し出す。そうして特徴を覚えていくことで、【鑑定】スキルのレベルが上がっていく。

 この世界の【鑑定】スキルはどちらかというと、備忘録に近く、対象の特徴等を一度覚えてしまえば、物を見た時に対象物が何かを判定できると言うものだ。スキルレベルが上がる事で覚えられる量が増えるらしい。


「今日は天気も良いし、フィールドワークに出かけますか。」図書館から借りた植生図と植物図鑑で首都周辺の植物に関しての知識を増やした所で、活用するための採集に出かけることとする。NPCやユーザーが利用するための薬草、食事に使われる各種野草の採集は現金収入につながるため、駆け出しのユーザーに人気がある。


「しまった、採集をするにしても道具がいるなぁ。」根っこから薬草を採集するために円匙が必要と実感。あと、下草を掃ったりするための道具も必要だ。

「今日は一旦引き返して、必要な道具を揃えよう。」


 首都には当然各種市場が存在する。現実世界から持ち込める金額には制限があるが、手元資金で採集のための装備を整えていく。

「円匙は必要だよなぁ。あと、荷物を入れるリュックが欲しい。両手が使えるのは大きいよな。」今日のダメダメだったフィールドワークの反省から、必要な物を揃えていく。

「手ごろな水筒はないか。みんな革袋に水を入れているのね。金属製の水筒となると一気に価格が跳ね上がるしなぁ。ここは革袋で我慢するか。」

「あとは鉈と長い棒があれば十分かなぁ。」必要な物を揃え、本日の活動を終える。


「今日こそは」

 前回のフィールドワークの反省から各種道具を揃え、城門をくぐる。


「思ったより群生しているなあ。採集する人が少ないのか?」植生図を基に「ここに行こう」と決めていたポイントに到達する。

 傷薬や炎症止めに使われる薬草が目に入る。他には「チェリーに似た実」を幾つかと「恐らくベリー系であろう実」を幾つか採集している。

「お、竹っぽい植物もあるのね。」折角なので「竹っぽい植物」を一本伐採して行くこととする。水筒を作りたいしね。


 拠点に戻る道すがら、竹っぽい植物を加工するためのナイフと紐を購入。市場を覗いて「チェリーに似た実」が「セザ」という事、「恐らくベリー系であろう実」が「パブゴ」、「竹っぽい植物」が「ザウム」という事を知る。

「帰ったら図鑑を確認して、【鑑定】スキルを伸ばした後に、ちょっと工作をしますか。」


 一本切り出してきたザウムの節と節の間を切って、切り口を斜めに加工。ナイフでささくれを処理。穴に合いそうな太さの竹を切り出し、蓋に加工。斜めに切った切り口の横側に穴をあけて、紐を通して1つ目の水筒が完成。


 二つ目の水筒はコップ付きにしようと考え、加工を開始。1回作った物の亜種なので、そんなに時間をかけずに完成。これで、次回の採集の時に持っていける水が増えるので、助かるなぁ。


 で、採集してきた薬草を整理して、調薬師へ売却。「Tera Sim」での初収入を得る。その足で図書館へ寄って、借りた本を返却。薬草を加工して薬にするためのレシピ集をレファレンスサービスに頼み、植物図鑑と併せて借りることに。薬草ばかり覚えていたので、幾つかの果実についても勉強を進めておく。拠点に戻り、残しておいた薬草から傷薬を作って採集用のリュックに入れておく。


「今日は薬草と果実を取りに行こう」

 藪に入っても良いようにローブを追加で買いたいので、当面は薬草と果実を集める生活が続きそう。あと、水筒の在庫を増やしたいので竹をまた切って帰る生活かなぁ。


「今日もありがとうね。また持ってきておくれよ。」

 ここ数日、毎日のように薬草を採集し、調薬師に持っていく生活を続けていたせいか、ついに調薬師に顔を覚えられてしまった。

「その腰に付けている筒は何?」

 調薬師は、腰にぶら下げていた水筒に気が付いたようだ。

ザウムで作った水筒になります。革袋は使いにくくて。」

「なるほど、簡単に作れる割に使っている人をあまり見かけないね。よかったら幾つか分けてくれないかい。お代はだすからさ」

 調薬師からの唐突な頼みに驚きつつ、了承する。

「明日、薬草を持ってくるときに合わせて持ってきますよ。いくつ必要ですか?」

「そうさね、まずは2つ貰っていいかい?使った後に追加をお願いするかもしれないけれど。」

「わかりました。明日、2つ持ってきますね。大きさはこれと同じくらいで良いですか?」

「そのぐらいの大きさが使い勝手が良さそうだね。お願いするよ。」

 ここ最近、ザウムを持ち帰っては水筒を作る生活を送っていたので、在庫は十分にある。

「では、また明日伺いますね」


 翌日、薬草を採取し、水筒を2つ持ち、調薬師を訪ねる。

「ありがとうね。これ水筒代と薬草代。いつもありがとう、助かってるよ。最近、薬の需要が多くて、採集に行く時間が取れない事が多くてねぇ。」


 プレイヤーの参加によって、各種薬の需要が高まっているらしい。殆どのプレイヤーが生産・採取より、気の向くまま冒険を行っているしわ寄せがきているらしい。

「急病人が出た時に対応できない事がまだないけれども、ここまで薬が足りないといつかは対応できないようになるではないかと、冷や冷やしているよ。調薬師もなかなか増えないしねぇ。毎日採集に行って、薬草を持ってきてくれるお前さんには感謝してるよ。」

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