第20話 晩秋へ
文化祭2日目。
この日も多くの来場者が高校を訪れ、わが美術部も、大盛況とはいかないが、展示を見に足を運んでくれる人が一定数いた。
莉佳とともに、1日目と同じように応対していく。
美術館の学芸員になったような気分で、楽しみながら。
部員が二人しかおらず、美術室を無人にするわけにもいかない、となると必然的に俺と莉佳の自由時間は短くなる。(というかほぼないのだが…)
この日は日曜日ということもあって、初日より少し来場者が多いように感じた。
そのため、二人とも1日フルでシフトに入ることとなり、二人して”美術室の番人”のようになっていた。
そうして激動の2日間が終わり──
文化祭の終了を告げるアナウンスが、夕焼けに染まる校舎内に響き渡った。
もう校内には一般客はいない。
祭りの後の雰囲気を味わう生徒と、片付けに追われる生徒だけが、オレンジ色の世界に取り残されていた。
「終わったねー」
「ですね~」
「お疲れ様。後輩君のおかげでだいぶ楽できたよ」
「楽…できたんですか?」
この2日間、莉佳はほぼ休みなく来場者の対応にあたっていたし、時折見せる疲れた表情に、俺は何度か心を痛めた。
「楽できたよ~、まぁぶっちゃけ、もう2,3人くらい部員欲しかったけど」
力なく笑いながら彼女は言った。
確かにそうは思った。
人手が足りないなぁと。
でも今はそんなことはどうでもいいと思えてしまうほど、莉佳のことが心配だった。
今までは踏み込まないようにしていた領域。
踏み越えないようにしていた線を踏み越えて、俺は入っていく。
「先輩…無理してますよね…」
「え?だからしてないって…」
「嘘つかないでくださいよ!」
「えっ…」
二人だけになった美術室に、俺の怒声が響いた。
莉佳は驚いたような表情を見せた。
だがそれ以上に俺が驚いた。
俺ってこんなにデカい声が出るんだな、と。
そして、こんなに他人に熱く怒れるのか、と。
「すみません…デカい声出して…」
「ううん、いいの、ちょっとびっくりしただけだから…」
「俺、先輩に嘘つかれるの嫌です。だから、正直に話してもらえませんか」
「…ごめん、それは…できない」
その返答で確信した。
彼女には何らかの隠し事、それも彼女の健康にかかわる重大な隠し事があるということを。
「いつかは、話してくれますか?」
「それは…わからない。ごめん、約束はできない…」
「そう…ですか…」
「ごめん。本当に」
「いや、いいです。すみません、無理に聞こうとしてしまって」
「ううん、いいよ…それじゃ、片付けよっか」
「はい」
心の中に重いものを抱えながら、俺たちは文化祭の後片付けを始めた。
その日の夜。
重い空気の中完了させた片付け作業には、何の達成感もなかった。
二人の間の会話も最小限で、普段の和気あいあいとした雰囲気とは似ても似つかないものだった。
(雰囲気悪くしたかったわけじゃないのにな…)
俺は過去最大級に反省していたし、どうすれば昨日までのように仲のいい先輩後輩に戻ることができるのかについても熟考していた。
だが、こういうのは考えているだけでは現状打破ができない。
そこで俺は、莉佳にメッセージを送ることにした。
「ほんと、今日はすみませんでした」
端的にそれだけ送ると、10分ほどして返信が来た。
『気にしなくていいよ!私の方こそ、隠し事しちゃっててごめん』
親指を立てたスタンプとともに送られてきたその文面からは、彼女の本当の胸の内はわからない。
しかし、今日の出来事が、俺と彼女の間の壁を作ったのだと悟った。
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