第18話 言い訳
正直、苦しすぎる言い訳をしたと思っている。
でも、有司の優しさと、先輩思いなところに助けられて、寝坊しただけ、っていうことになった。
でも本当は。
夏休みが始まったくらいから、なんか体調悪いなと思うことが何回かあった。
熱っぽかったり、胃腸の調子が悪かったり。
でも幸いにして、有司との旅行の日は元気だった。
まぁ、そのツケは後日回ってきたけれど。
夏バテかななんて思っていたのだけれど、運命ってのはそんな優しいものじゃなかったんだ。
──急性骨髄性白血病
それが私の病名。
昨日、診断された。
朝起きたら本当にびっくりするほど体調が悪くて、見かねたお母さんが私を病院に連れて行った。
血液検査をして、問診を受けて。
いきなり告げられた病名がこれ。
信じられなかったよ。
治療法云々の説明を受けたけれど、なにも頭に入ってこなかった。
まるで人語以外で説明されていたかのように感じた。
夢じゃないかと思った。
こんなつらい現実、現実と思えないよ。
思いたくないよ。
きっと、私の絵が評価されていたことも、有司との楽しかった日々も、
全部夢だったんじゃないかな
夢で…いいのかな
有司との思い出は、夢でいいの?
目が覚めて、ふっと消えてしまって、いいの?
わかんないや…
家に帰ってきて、夕飯を食べていたら、「あぁ、現実なんだ」って思えてきて、泣いた。
すっごく泣いた。
オムライスの入ったお皿がびしょびしょになってしまうくらい。
お母さんも、泣いた。
二人で泣いてるところにちょうど帰ってきたお父さんだって、一緒に泣いた。
怖かった。
死が怖い、というのももちろんある。
でも、今までの思い出が、一気に崩れてしまうんじゃないかって。
運命という残虐な破壊者の手が、私の積み上げてきた、やっと高くなってきた塔を、
跡形もなく、壊してしまうんだって。
悲しくて、怖くて、悔しい。
泣いてもどうにもならないことは知ってる。
この間にも、病は進行をとどめることを知らない。
私はその恐怖を少しでもマシなものにするために、嘘をつくことに決めたんだ。
病気のことも、嘘をついて、隠して、逃げて、生きていく。
もう長くはないかもしれないけれど、そうやって生きていく。
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