第16話 昔話

小学校に上がるか上がらないかの頃から、俺はサッカーをしてきた。


近所の公園でサッカーをしている同年代の子供たちを見て、楽しそうだなって思ったから。


中学生になって、俺はサッカー部に入った。

ポジションは右サイドバック。

フィジカルも中学生にしては強かったと思うし、足の速さだって、チームのディフェンダーの中では上位だった。


だが、それがまさか負の方向にはたらくなんて。


中2の初夏だった。

始まろうとしていた夏の大会に向けて最終調整をしている時期で、日ごろの部活動でも、緊張感が走っていた。


ある日、俺は部活後に先輩に、トレーニング室へ来るよう伝えられた。

田舎の公立中学の、ボロボロなトレーニング室に入った俺は、中にいた3人の先輩に囲まれた。


「大会近いしさ、ちょっと鍛えてやるよ」

「お前サイドバックだし、フィジカル鍛えておいて損はないからな」

「そんじゃ、腕立て伏せの姿勢とれ」

「はい…」


「鍛えてやる」という言葉とは裏腹に、3人の顔、声色には優しさが全くなかった。


先輩に言われるがまま、俺はトレーニング室のマットに両手と両足をついて、腕立て伏せの姿勢になった。


「うぐっ…」


直後、俺の背中に尋常でない重さがのしかかった。


「ほら筋トレだよ、ちゃんと鍛えろよ~」

「はははは」

「山本ぉ、お前弱いんじゃねぇの?」

「ふぐっ…がはっ…」


あまりの重みに耐えきれなくなった俺は、ばたりとマットに崩れてしまった。

そして肩越しに後ろを見やれば、俺の太ももから背中辺りに座り、俺の顔を覗き込んでくる先輩たちあいつらの姿。


あいつらは、3人で俺の背中に乗ってきたのだ。


筋トレと称した、いじめであった。


その後も何度かそういうことはあった。


そのせいで、俺は腰を痛め、当時の3年よりも早く引退し、サッカー部との関わりは断ち切った。

だが、校内でサッカー部の先輩、特にいじめてきた奴らとすれ違えば、いい気分はしないし、向こうもこちらを見てニヤニヤするなんてこともままあった。


それが、俺の過去。


忘れたい、なかったことにしたい過去。

それゆえ、莉佳には正直に話すことができなかった。


けれど、いつかは話したい。

莉佳に話すことで、楽になりたい自分がいた。


莉佳からすれば、全く関係のない話だし、興味もわかないだろう。

「誰かに打ち明けて楽になりたい」という俺の独りよがりな欲求に付き合わせることになる。


そのことを理解していてもなお俺は、莉佳なら受け入れてくれるのではないか、と期待していた。


けれど、今はその時じゃない。

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