第14話 Enjoy!Osaka!

ホテルに荷物を預けて、ついにやってきました海遊館。

流石に夏休み、そこは多くの人でにぎわっていた。


俺たちは当日の混雑を予測していたため、二人とも事前にネットでチケットを購入していた。

(我ながらファインプレー)


「いや~、事前に買っておいてよかったよ、ナイスだね後輩君」

「あ、ありがとうございます」

莉佳にも褒められて、俺は照れてしまった。


中に入れば圧巻の展示たちが俺たちを迎えた。

様々な種類の魚たちが、それぞれ特徴を持った水槽で展示されている。

館内を歩いているだけで楽しかった。


色とりどりの魚たちが大きな水槽を通り過ぎるときには、二人そろってスマホのカメラを向けた。

やはり色彩鮮やかなものを見ると、写真を撮ってしまう。

自分の絵に活かせるかもしれないし。


と、充実した時間を過ごせた海遊館を後にし、俺たちは次なる目的地、あべのハルカスへ向かった。

電車を乗り継ぎ、1時間もかからずについてしまったそこは、一言でいえばもうびっくりするくらい大きいビルだった。

広島には絶対にないくらいの大きさだった。

(別に広島をけなしてるわけじゃないけど…)


そのデカさに圧倒されつつも、俺たちは4階にある、莉佳チョイスのいい感じのカフェを訪れ、昼食をとっていた。

ちょうどおなかも空いていたので、おいしくいただくことができ、大満足だった。


腹ごなしに、地上300メートルに位置する、展望台に上ってみた。

チケット代はかかったが、普段は見ない大都会の景色をこれまた普段体験できない高さから見ることができ、鳥にでもなったような気分だった。


そして今度は通天閣へ。

大阪関連のニュースが報道されれば、テレビで結構な確率で写るあの特徴的なタワー。

もちろん生で実物を見るのは初めてのこと。

2人で、「おー、テレビで見たことある奴だー」みたいな反応をしつつ、周囲のめぼしい店を巡って、時に購入して食べ歩き。

そんな時間が、とても楽しくて、愛おしくて。


いつまでも続いてほしいと思った。


時刻はちょうど15時過ぎ。

おやつもたらふく食べ、俺たちは満足感を共有していた。


「それじゃあ最後の目的地行ってみますか~」

「ですね!」

適当なベンチで休んでいると、莉佳が切り出した。


そう、今日の最後の目的地として大阪市立美術館があった。

最終入場は16時半、閉館時間は17時となっており、今から行けばちょうど1時間半くらい館内を巡れることになる。


ここからほど近いその美術館は、この旅の大きな目的の一つであった。


通天閣から数分歩いてついてしまったそこは、外観が戦前の雰囲気をまとった、由緒ある建物であった。

昭和初期に建てられたというこの美術館。

当時のオーラをそのまままとって、敷地ごと100年近い過去から持ってきたようにさえ思った。


「きれいな建物だね、中入ってみよっか」

「はい」

2人して入り口の前で感動に浸っていたが、一応最終入場の1時間前が迫ってきたということで、俺たちは中へ入る。


中には、絵画だけでなく、彫刻や陶器も展示されており、かなり展示品のレパートリーが多いなと感じさせられた。

俺は特に、日本古来の水墨画に興味をそそられ、数点の作品に見入ってしまった。

たった1色の墨で、世界の奥ゆかしさ、美しさを体現してみせる。

そんなことが可能であるという事実を、今この眼前に突き付けられているような気がして、ハッとしたし、感動した。


普段の俺は、「どんな色を使おうか」とか、「この色を混ぜたら何か変わるかな」とか考えている。

だが、水墨画を描く日本の画家は違ったのだ。

墨の濃淡、これしか色を持たない彼らは、今の俺よりはるかに純粋に絵に向き合っていたのだろう。

そのようなことを考えた俺は、これからの絵に向き合う姿勢や、絵を描くときの考え方を改めようとさえ思った。


対して莉佳は、陶器や外国製の木箱など、3次元の芸術品に心を惹かれたようであった。

それらの作品を手に持つことはできないが、彼女の心の中では、それら一つ一つを、丁寧に触り、隅々まで見る、ということをしているようであった。


「いや~、すごかったですね、いろいろ気付きがありました」

「ほんと?それはよかった!私も自分の製作の幅が広がりそうに思ったよ」

「そっか、先輩絵を描くだけじゃなくて、3次元の作品も製作するんでしたよね」

「そうそう、だからほんといい機会だったよ~」


互いの感想を、出口のそばで語り合う。

結局俺たちは、閉館時間のぎりぎりまで館内にいた。

係員に退館を促されるレベルではなかったが、今日の来場者の中ではおそらく俺たちが最後に退館したことだろう。

時間を忘れるほどには、魅力的な作品たちだった。

そんな素敵な出会いをくれた場所に、俺は感謝を告げて、その場を後にした。


美術館の敷地を出てすぐのところにあるホテルを予約していた俺たち。

「1部屋しか予約してないだって!?!?」

「なんですって!?!?」

「どうなっちまうんだあああああ」


なんていう展開には、もちろんなりません。

しっかり1人一部屋予約しています。


ということで、各々の部屋に荷物を置いて、夕飯を近くのたこ焼き屋さんで食べ、その後はそれぞれが部屋で時間を過ごす、ということになった。


今日一日すごい楽しかったし、夕飯のたこ焼きだって、本場の味という感じですごくおいしかった。


でも──

何かが、足りない気がした。


一日の終わりを、それぞれの部屋で過ごすということに違和感を抱いている自分がいた。


莉佳と、もっと一緒に居たいと思っている自分がいた。

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