第13話 大阪へ
あっという間にやってきた、大阪旅行への出発日。
俺は背中に少し大きめなリュック、右肩にはトートバッグを下げ、広島駅での待ち合わせ場所に向かっていた。
俺はこの日までに、入念に行動計画を練り、さらには電車内で会話に困った際に備えて話題をいくつか考えるということまでやってみた。
(さすがに雰囲気めっちゃ暗かったらつまらない旅行になるだろうしな…)
俺にとっても、そして莉佳にとっても最高の思い出になるように最善を尽くすつもりだった。
「お、後輩君じゃないか~」
「あ、先輩。おはようございます」
コンコースをてくてく歩いていると、俺に追い抜きざまに声をかけてきた女性がいた。
振り返れば莉佳だったのだが、今日の彼女はいつもと違ってかなり涼しげな装いだった。
かなり薄めのベージュの、ノースリーブのワンピースを身にまとい、ショルダーバッグを肩からかける。
そしてコンパクトサイズの赤いキャリーケースを左手に持って、左手首には大人の女性らしい腕時計、右手首にはアクセントとしてブレスレットが光っていた。
それぞれのアイテムが主張しすぎず、なおかつすべてが一体となって夏を象徴しているようだったし、何よりとても似合っていた。
「おはよ、今待ち合わせ場所に向かってたところ?」
「はい、でももう合流できたんで、新幹線ホーム行っちゃいますか」
「そうだね~行こう行こう!」
いつにも増してテンション高めな莉佳についていく形で、俺は新幹線ホームへ歩き始めた。
夏休みの、お盆手前ということで、13番線ホームは、キャリーケースやらボストンバッグやらを携えた多くの人であふれていた。
「結構混んでますね~」
「ほんとだね、自由席座れるかな」
そう、俺たちは金銭面の理由で、少しでも値段の安い自由席を選んでいた。
もちろん在来線に乗れば安いのだが、時間がかかりすぎてしまうので仕方なく…
ただその分、ホテル代の安いところを選んだので、親にはなんとか首を縦に振ってもらえたのだった。
しかしふたを開けてみれば、自由席の乗車口には長蛇の列が形成されていた。
幸運なことに、俺たちは比較的列の前の方に並んでいたが、それでも社内の混雑状況次第では座れない可能性だってある。そこが盲点だった。
「最悪先輩だけでも座っちゃってくださいね」
「そんなことできないよ~!座れなかったら並んで立とうよ、1時間ちょっとだし、平気平気」
「ほんとですか?まぁでも、座れることを祈ります…」
2人で並んで座れるに越したことはないので、俺は心の中で手を合わせて神様に祈った。
そして、新幹線がホームに進入してきて、徐々に速度を落としやがて停車する。
1両先の窓から見て、かなり車内は混みあった様子だった。
これは座れないかもな、と内心覚悟したものの…
「あ、ちょうど2つ空いてるよ」
「ほんとですね、ラッキー!」
なんと、車内に入ってすぐの席がちょうど2つ空いていたのだった。
これはありがたいということですぐさま二人で席を確保。場所をとる荷物は上の荷物棚に預け、無事着席。
席に着くと、莉佳に差し出された小さな拳に、俺の拳をこつんとして、かすかに笑い合った。
そこからは新幹線に揺られ、一気に新大阪駅まで向かう。
道中で莉佳から、新幹線は英語で「bullet train」直訳すると、「弾丸のような電車」、と呼ぶことを教えてもらい、本当に弾丸のような速さだなぁと考えてしまった。
俺たちを乗せた弾丸は、1時間半足らずで新大阪まで乗客を運び、そのまま東京の方へと向かった。
莉佳は去っていく新幹線に向けて、「いつか私も終点まで乗りたいな」とこぼしていた。
改札に切符を通し、そのまま出口から外に出て、いよいよ大阪にやってきたと感じた。
「着いたー!」
「大都会ですね!」
学生にとっては夏休みだが、社会は休まず回り続けている。
ワイシャツの袖を肘のあたりまでまくり上げたサラリーマンたちがせわしなく行きかう駅前は、完全に都会の様相を呈していた。
俺たちはひとまず宿泊先のホテルへ向かい、荷物を預けることにした。
そのあと最初に訪れるのは海遊館。
大阪で一番有名と言っても差し支えない水族館だ。
今日からの2日間、この世界で誰よりも楽しもうと俺は心に決めた。
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