第3話 確保 収容 保護
【新人研修ビデオ Dクラス職員向け】
「皆さん、SCP財団へようこそ!」
女性の溌溂とした声と同時に、一昔前に作られたであろうノイズ交じりの映像がスクリーンへ映し出される。
「私たちSCP財団は、貴方達の入団を歓迎します。私たちと一緒に働いて、皆さま、さらには人類の未来を明るいものにしましょう。貴方達は当ビデオ視聴後にDクラス職員としてSCP財団に1か月か若しくは3か月雇用されます。希望者はそのまま財団に残ることも可能です。」
有坂はようやく合点がいった。わざわざ受刑者らが集められたのはこのSCP財団とやらに雇用される為だったのだ。労働を忌避する者、あるいは自分がもう一度働くことが出来るということに喜びを感じる者など、皆口には出さないが反応は様々だった。
「Dクラス職員の業務は、どのようになっているのでしょうか。こちらは、D-5645の一日の業務スケジュールを円グラフにしたものです。」
朝7時に起床、9時~15時まで業務、夜の9時に就寝。わかりやすく色分けされた円グラフを見るに、独房に居たころとあまり変わりがない。規則正しい生活リズムのようだ。
「なんとも健康的かつホワイトな職場なのでしょう!勿論、皆さまは職員なのですから賃金も支払われます。各個室にあるPCから財団職員用購買サイトを通じて必要なものを購入していただくことも可能です。…さて、ここからが重要な話になります。Dクラス職員の皆さんの業務内容についてです。Dクラス職員の皆さんには、人類の役に立って頂きます。我々SCP財団は、未知なる異常な存在…《アノマリー》を確保(secure)・収容(contain)・保護(protect)し、人類を守ることを目的とした組織です。Dクラス職員の皆さんには、館内の清掃・雑用といった簡単なものから、現場に出向いてアノマリーを確保するための手伝い等をしていただきます。勿論、危険が伴う場合もあります。万一、死亡した場合はあなたの情報は適切に処理され、ご遺族には死亡したというご連絡をさせていただきます。又、その時点で雇用契約は破棄されます。ですがお約束した通り1か月ないしは3か月雇用が継続されると皆様の減刑が確定いたします。」
皆の不安は的中した。釈放という破格の報酬の裏には相当のリスクが潜在していたのである。当然、そんな旨い話があるわけなかったのだ。
「《アノマリー》って何だよ……?異常な存在……?何だそりゃ、お前ら騙したな!」
有坂の後ろの席に座っていた男が声を荒げる。それに続いて、至る所から怒号が噴出した。有坂たちはようやく自分たちが何故連れてこられたのか理解したのだ。犯罪者という、“社会的価値の低い者”を危険な業務に従事させようというわけで、しかも生きて帰れる保証なんてどこにも無いのだ。
「嘘は一切言っていませんけれど。まぁ辞退される方は結構です、こちらの扉からご退室下さい。勿論刑務所に帰ってもらいますがね。」
黒服がドアを開けて希望者を誘導するそぶりを見せると、何人かが席を立ち、そちらへ足早に移動を始めた。
「皆さん、慌てないで…。帰る手続きを致しますので案内先で待機してください。」
有坂の頭に辞退するべきか否か迷いが生まれる。無論、危ない実験で命を落とすなんて御免だが、刑務所に戻っても自分は一生外には出ることは叶わないのだ。ならば、ここで釈放される機会をリスク承知で手にしたい。
「他に辞退される方は?」
希望する最後の一人が慌てて出ていき、扉が閉ざされる。これで有坂の退路は断たれた。もう後戻りすることは出来ない。
「…締め切ります。それでは皆さん、明日から我々は同僚であり雇用関係にあります。…どうぞよろしくお願いいたします。明日は検疫と精神鑑定、支給品の配布を行います。各自、AM9:00に各自個室のドアの前に整列し待機するように。これから皆さんを班分けしDクラス職員の宿舎にご案内しますが、業務都合等の例外を除き基本的に21時から朝の8時までは外出禁止です。違反者は即刻“解雇“されますのでご注意ください。」
そうして初めてのオリエンテーションは幕を閉じたのだった。
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