第2話 生首コレクター

メイジー「あぁん!?何で果物がこんな高いんだ!?てんめー……私が女だからって足元見てやがんな?お??」


店主「い、いやいや!そんなことはないですよ!!」


メイジー「はぁ!?じゃあ何でこんな高いんだ!?」


店主「じ、実は、このあたりに殺人鬼がおりまして……山に入ったものがよく変死体となって発見されんで、誰も怖がって果物や肉を取りにいけず……」


メイジー「変死体……?」


店主「はい……首から下のみが発見されるのです。切り口はきれいで……刃物か何かですっぱりやられてるようで……」


メイジー「はーん、なら仕方ないな。すまんな、怒鳴り散らして。じゃあ、肉3切れとりんごを3つもらっていくよ。あ、後コロッケ一つ」


店主「へ、へい!まいど!」


食料の入った袋を片手に、コロッケを貪りながらメイジーは歩く。

先程の店主との会話を思い返すに、これが殺人鬼なのか魔女なのかはこれだけの情報だと判断が難しい。


メイジー「これはかぐやに相談だなー……しかし……」


しゃくっとコロッケをかじる


メイジー「このコロッケ、絶品だな。外はシャクシャク、中はふわっとしていて、ホクホクの芋と牛肉かな?口の中で弾ける肉の甘味がなんとも……」


あの二人に隠れてこっそり買食いするのは通例化している。

まあ、結局料理を作るのも自分なので別にこれくらいいいでしょ。


………………………

………………

………


かぐや「なるほど、首のない死体……調査しましょうか」


夕飯を食べながら今日の出来事を報告する。


かぐや「……ところで、何で肉なの?」


メイジー「は?いいじゃねーか、ローストビーフ!うめえだろ!(ドヤッって感じで)りんごを使ったタレで甘みが肉の旨味を引き立てるだろ?」


かぐや「ええ、美味しいわ。でもね、キャンプしてたときも基本肉じゃない。そろそろサラダが食べたいわ」


メイジー「サラダぁ?」


かぐや「アボカドとかパクチーとかあるでしょ?」


メイジー「己は女子か!」


かぐや「あら忘れちゃった?確かめさせてあげたことがあるじゃない。女子よ」


メイジー「ぐっ……」


かぐやとは長い付き合いだ。

なんだかんだそういう関係にもなっている。

しかし、思い出させられると恥ずかしいものは恥ずかしい。


メイジー「と、とりあえず飯を作ってくる」


私は逃げるように、その場をあとにした。


………


かぐや「…………」


マウリー「……かぐや様?どうかされましたか?」


かぐや「そうねー……何人も何十人も害悪な魔女を葬ってきたじゃない。確かに数は減ったと思う。でも未だに魔女が生まれているのかがわからないのよね」


マウリー「……御冗談を。かぐや様が知らないことなどないですよ」


かぐや「こらこら、私のハードルをあげないで」


そう言ってかぐやはマウリーの頭を撫でる。

マウリーは気持ちよさそうに目を閉じ、かぐやに体を預ける。


かぐや「でもま、なんとなく予想はついていますけどね」


マウリーを撫でながら、かぐやは空を見つめながらつぶやいた。


………………………

………………

………


日が山に沈み、山の付近に薄っすらとオレンジがラズワルドに飲まれ切る前に、かぐや達は件の山に進み始めた。

明かりは月明かりのみを頼りに、ゆっくりと山を登る。

先頭をメイジーが進み、その後ろをかぐやとマウリーがついていく形だ。


メイジー「おっと……ここ、岩の段差があるから転ばないようにな」


ランタンを頼りに進むが、明かりが限られているため足元が見えづらい。


かぐや「はー……いやね。もっとわかりやすい場所に住んでくれればいいのに。そしたらこんな山道を歩かなくてすむと思わない?」


メイジー「アホか。襲撃されないようにわざわざこんなところに住んでるんだろうがよ」


マウリー「……あら、ちゃんとそのへんは理解できてるんだ。成長したのね。すっごーい(感情のこもっていない"すっごーい")」


メイジー「あぁん!?お前は私のことをバカにし過ぎだ!!」


そんな会話をしながら山道を進んでいると、開けた草原に出た。

草原の真ん中に家が1軒ぽつんと建っている。


メイジー「これか。わかりやすいな」


マウリー「……メイジー、物事を見かけで判断しちゃだめ」


メイジー「お前、そんな事言いつつ、その手に持っているマッチはなんだ?おお?」


かぐや「そうね、とりあえず突撃お宅の晩ごはんとでも行きましょうか」


メイジー「そういうギリギリな発言はやめろ」


緊張感のない会話をしながら、3人はその家に進んでいく。


かぐや「ごめんください。少しお尋ねしたいのですがー」


家の戸をかぐやがノックする。


老婆「……おやおや、こんな時間にどなたかね?」


しばらくして、扉が少しだけ開き老婆が顔を出す。


かぐや「夜分にすいません。このあたりに人の首を刈り取る魔物がいると噂を聞き、調査しているのです。なにかご存知ではないでしょうか?」


老婆「おぉ……知っております、知っておりますとも」


そう頷きながら老婆は扉を全開にする。


老婆「それは、これのことじゃろう?」


そこには、家の入り口から廊下にかけてずらりと生首が等間隔に並べられていた。


かぐや「あら、ご存知でしたか~。聞き込み一人目から大当たりですね~」


かぐやの目が、すっと細くなり笑顔が笑みに変わる。


老婆「ほう、これを見ても驚かないか……気に入ったぞ!お主らもここに並べてやろう!!」


マウリー「……なんでこういう人たちって、コレクションに加えたがるの?」


メイジー「さあな……っていうか、生首ここにおいてて腐っていないのがすげーな。防腐剤とか何使ってんだ?」


かぐや「……あなた達、私の緊張感を返しなさい。なんか腹たったからメイジーは後でお仕置きね」


メイジー「なんでや!?話振ったのはマウリーじゃねーか」


マウリー「……かぐや様、ぜひお仕置きしてください!」


メイジー「私が言うのも何だけど、ホントお前ら緊張感ないな……」


老婆「話も落ち着いたかの?では、お首をちょうだいしますかね」


完全に無視していた老婆はいつの間にか斧を振り上げており――


メイジー「いっ!?」


振り下ろされた斧の軌道を展開前のナイフの柄で無理やりずらして攻撃を避ける。


老婆「ほぉ、いい反射神経ですな」


老婆がニヤニヤとメイジーの慌てっぷりを楽しむ。


メイジー「――やろー……」


メイジーはチャキチャキとバタフライナイフを展開する。


老婆「お主だけなら楽しめそうじゃが……多勢に無勢。1対3は流石に不利ですな」


老婆は3人をぐるりと見る。

そしてかぐやを見つめた。


老婆「お主はなかなか危なさそうじゃのぉ……ちぃーっとばかし本気を出させてもらうかね」


老婆が杖を取り出し、天に向かって杖を掲げる。

一筋の光が天に向かって走ったかと思うと


マウリー「……え?」


巨大な魔法陣が上空に現れた。


メイジー「……おいおい、これはさすがにやばくねーか?」


呆然とするマウリー、焦りを見せるメイジー。

こんな大きな魔法陣を使う魔女はこれまでの旅で見たことはなかったのだ。

そんな中、かぐやは魔法陣の浮かぶ空を見つめて笑む。


かぐや「ふふっ。今宵は月が綺麗ですね」


老婆「さあ、八つ裂きになりな!!」


魔法陣から斧の刃の部分が降り注ぐ。

それと同時にかぐやが、地面を足でトントンと踏む。


老婆「なっ!?」


すると草がメキメキと伸び、かぐやたちの上に屋根を作り、降り注ぐ斧の刃を絡みとっていく。


かぐや「さーて、狩りの時間ですね」


どす黒い笑みを浮かべ、かぐやは老婆に手を向ける。

すると草の一部が老婆めがけて勢いよく伸びる。


老婆「ふんっ!」


老婆は杖を一振り。

すると斧が勢いよく飛び出し、草と絡まり軌道を変えた。


老婆「……お主、面白い魔法を使いますな……」


かぐや「そちらこそ。斧を生産できるなんて、初めて見ましたわ」


老婆「私が唯一体得できたものがこれだったのだ。素質がないのでね。お主の魔法は……なんじゃ?」


かぐや「私は命を操る魔法を使います」


老婆「命……なるほどなるほど、ここの生首の連中を生き返らせに来たのかい?」


かぐや「いいえ。それは無理ですわ。彼らはもう死んでいる。つまり彼らにはもう命がない。命がないのであれば私には何もすることができませんからね」


言いながらゆっくりとかぐやは老婆に近づいていく。


かぐや「でもね、命があれば奪うこともできるのよ?」


勢いをつけ、かぐやは魔女に掴みかかる。

が、既のところで手を引く。

もう少し手を引くのが遅ければ、かぐやの手は落ちてきた斧に切断されていただろう。


老婆「惜しかったのぉ」


かぐや「……ちっ(舌打ち)……めんどくせぇ……(小声の独り言のように)」


かぐや「マウリー、やっちゃって」


マウリー「……合点……承知っ!!」


マウリーが手元で火をおこす。

その火種は何倍、何十倍に膨らんでいく。


マウリー「おぅらぁああああ!!」


膨らんだ炎は渦となり、老婆に突っ込んでいった。

しかし――


メイジー「マウリー、伏せろっ!!!」


メイジーがマウリーを地面に押さえつけてふせさせる。

刹那、炎の中から斧の刃が飛び出し、マウリーの顔があった部分を切断していった。


マウリー「ひっ……」


マウリーは自分の顔が切断されたことを想像したのか、怯えを見せる。

炎はマウリーの操作を失い、老婆に届くことなく霧散して消えた。


老婆「おー、赤いフードの娘は周りがよく見えているようだ」


老婆は楽しそうに笑っている。

メイジーは大型のバタフライナイフを組み立てて、老婆に向かって走りだす。

老婆はメイジーに向かって斧を生成して飛ばす。


メイジー「はっ、このっ、ふっ!!おりゃああああああ!!」


飛んでくる斧の刃をすべて弾き飛ばし、老婆を斬りつける

ぎぃいん!!

メイジーのナイフは老婆の斧で受け止められた。


老婆「お主の首をもらうのはなかなか難しそうじゃの。あの命の魔女は、能力は面倒じゃが触れないと命を操れないみたいだし…のっ!!」


老婆がメイジーを押し飛ばす。

そのまま斧の刃を大量に生成し、一斉にメイジーに飛ばしつける。


メイジー「はー……はー……」


メイジーはそれらをすべて弾き返した。

そしてちらりと手元を見る。


老婆「……斧とナイフ……刃こぼれは大丈夫かい?ナイフの柄は折れてないかい?」


ある程度は飛んでくる斧を横から小突く形で弾いていたが、数が数。

途中で正面から受けてしまったものもあり、腕への衝撃とナイフへのダメージはそれなりにある。


メイジー「…………(かぐやの指示を仰ぐように無言でかぐやを見る」


メイジーはちらりとかぐやを見る。

かぐやは空を見上げる。


かぐや「……メイジー、少しだけ開放しましょうか」


メイジー「……オーケー」


メイジーはかぐやのもとに老婆に背を向けずに小走りで戻る。


老婆「おや?降参ですかね?」


かぐや「いえいえ、一つ謝罪をさせてください。私どもは貴方様を侮っておりました。」


ぽんっと、かぐやがメイジーの頭に手を乗せる。

ふぅ……と、メイジーは目を閉じて一つ息を吐く。


かぐや「ですので、少し本気でお相手させていただきますわ」


メイジーの頭巾の中が蠢き少し盛り上がる。

次にメイジーが目を開けた瞬間


老婆「早っ!?」


メイジーは老婆に突進していた。

斧とバタフライナイフの火花が散る。


メイジー「よぉ……ばっちゃん、よく防いだな」


刃物を挟んだメイジーの顔は笑んでいた。


老婆「ぐ……ぬ……」


逆に老婆の顔からは余裕が消える。

杖を振ろうにも、今両手を斧から離すとメイジーの力に負けてしまうのだ。


老婆「こ……の!!小癪な!!」


メイジー「おーおー……今までの丁寧な喋り方はどこに行っちまったんだ?」


老婆「お主こそ、急に強くなったの……!なんのからくりじゃ?(力比べに耐えながら」


メイジー「さあ、なんだろうな?」


老婆「……ぬああああ!!」


老婆が無理やりメイジーを押し返す。

が、メイジーはすぐにナイフで切りつける。

老婆はそれを受け続ける。

戦況は老婆が劣勢になっていた。


老婆「いい加減に…しろっっ!!」


老婆がちまちまと攻撃するメイジーに耐えきれなくなり、大ぶりの攻撃をする。

メイジーは軽やかにそれを避けた。

そのとき、フードがずれてメイジーの頭が現れる。


老婆「なっ!?」


メイジーの頭には、イヌ科の耳が生えていた。


メイジー「あ~らら、バレちゃったか」


老婆「お主……獣人じゃったか!?」


メイジー「ははは……今は、だけどな」


メイジーはゆっくりとナイフを握り直す。


メイジー「赤ずきんちゃん。そんなお話があるんだわ。おばあさんの家に向かった女の子は、おばあさんの家で狼に食べられてしまう。それを猟師が助けてくれるって話なんだが……」


メイジー「狼に食われて生きてる、なんてありえないだろ?」


瀕死状態のところを猟師が助けてくれた。

しかし、喉元に噛みつかれており、死んではいなかったが助かることもない、死を待つだけの状態。

そこをかぐやが通りかかり、命をつないでくれた。

猟師に撃たれて瀕死の狼の命と私の命を混ぜ、一つの命として復活させたのだ。

身体の傷は生命力を活性化させて治すことができた。

命は身体に宿り、身体を作る。

ベースは私の身体なので、意識は私のまま狼の能力を使うことができる。

しかし、狼の能力を使うと、狼の身体の部品が頭の上の耳の様に外に出てしまう。

なので、普段はかぐやの力で狼の能力を抑えているのだ。


メイジー「ま、あとはあれだな。狼の能力ってもほぼほぼ身体能力だけ。味覚や嗅覚は人間のまんまってね」


老婆「ふっ……ふはははははは!!」


メイジー「ん?どうした?」


老婆「お主はそのかぐやとやらに人体実験で生み出された可哀想な人間じゃったのじゃな!!」


メイジー「んー……あー……まあ、私はだいぶ可哀想だと思う。日頃の扱いとか。」


老婆「どうじゃ?ワシと手を組みその女を殺さぬか?」


メイジー「それはお断りかな?お前と手を組んでも面白いことはなさそうだし」


老婆「そうか……それは残念じゃ――いっ!?(最後ナイフが肩に刺さる」


メイジー「魂胆はバレバレだぞ」


老婆が杖を落とす。

会話に紛れて杖を振ろうとしていたのをメイジーが見抜き、小型のナイフを投げ、老婆の肩に刺したのだ。


マウリー「っ!!」


マウリーがマッチをこすり、老婆の落とした杖を起こした火で灰にした。


老婆「くそっ!!」


老婆が家に向かって走る。


老婆「がっ!?」


しかし、メイジーが背中から老婆を蹴り飛ばし、老婆が転倒する。

そしてメイジーは老婆にまたがり、抑え込んだ。


メイジー「さて、聞かせてもらおうか。お前らを 生み出している(スクリプト:ルビで・を入れる) のは誰だ?どこにいる?」


老婆「言えば見逃してくれるのかの?」


メイジー「それはお前の回答内容とかぐや次第だなぁ」


老婆「ふん、ではお主らに語ることはないの!!」


そう言って老婆はメイジーの腕を掴む。


老婆「死なば諸共じゃ!!」


老婆とメイジーの頭上に斧が構築されていく。


かぐや「まあ、言うはずもない、か。」


いつの間にか老婆の横にかぐやが立っており、


老婆「な――――!?(驚く)……がはっ………(死ぬ)」


一瞬で老婆の命を奪った。

老婆の魔力が途切れ、頭上の斧は構築されずに霧散した。

メイジーは動かなくなった老婆の上から立ち上がる。


かぐや「これで防腐の魔法は消えるわね。悪臭が漂う前に焼いてしまいましょうか」


ちらりと老婆の小屋を見ながらかぐやがいうと、マウリーは頷き、マッチに火を付けた。



………………………

…………………

………

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花の咲かない竹の姫 水波形 @suihakei

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