第9話 生成AIを皆んなが使う未来は、過酷な時間の争奪戦が起きるとして、それでも
太郎「この作品まだ続いてたの?」
ボブ「作者が忙しかったらしい」
太郎「『DALL-Eのプロンプトスコシワカル』と呟いてた気がする」
ボブ「そっとしておこう」
太郎「SFを話そう。生成AIが社会統合して、大きな規制もなく、現在のスマホのように必須アイテムになると設定します。他のシナリオも予想されるけど、未来のことだからSF」
ボブ「社会構造の変化の話? モータリゼーションの統計とかいる?」
太郎「いや、それには及ばない。仮にスマホの普及台数を参考に世界で60億人くらいが生成AIにアクセス出来て、半分がクリエイティブに用いると、30億人が競争することになる」
ボブ「数字は比喩だとしても、Netflix・Spotify・YouTube・パブリックドメインの古典作品だけで、鑑賞しきれない。例えば、聖書は毎日一章ずつ読むと約3年必要だよ」
太郎「さらに、生成AIはパブリックドメインの古典を原語で学習しているし、時代背景も解説出来るから、原語でシェイクスピアやドストエフスキーに挑戦することが可能になる。生成AIで蘇る巨匠と競争する未来」
ボブ「創作意欲湧かないよね」
太郎「現代はなんとなくスマホを操作して時間を使うことがあるけど、その時間の大半を生成AIが持ってくとどうなる?」
ボブ「広告モデルは、現在も広告ブロック機能が話題になるし、注意を引くために倫理を無視したり、責任の所在が分かりにくかったりするよね。脳の拡張のような生成AI自体は『一等地』になるけど、広告掲載出来るのか不明だね。出来なければ、市場が小さくなる」
太郎「他はどうかな?」
ボブ「雑談は旧Twitterを見れば明らかだけど、最強コンテンツでしょ。言葉を獲得して、焚き火を囲んで長老や語り部が話すのを聴いていたはず。メソポタミア文明の楔形文字が、現在確認されている最古の文字だから、それ以前は口伝で継承したはずだよね」
太郎「プライベートも仕事も、スマホで生成AIと話すようになると思う。Netflixを見ながら感想を話すとか、考えを整理するとか、古典を読むとか、話すことが尽きなくてクリエイティブなことをしにくいかもしれない。過当競争が予想されるから、見返りも小さいし」
ボブ「30億って話は……」
太郎「君が比喩だと受け止めていたじゃない。クリエイターが増えるほど、競技人口増えるからトップの質が上がるよね。で、現在でも飽和してるから、創っても鑑賞してもらえない可能性がある」
ボブ「それでも創るとして、読まれなくてもモチベーションを保つとして、具体的に何が言える?」
太郎「鑑賞は相手の理解力や前提知識が必要だよね。西洋美術なら印象派やアール・ヌーヴォーは今も人気だけど、現代アートは哲学的だと感じる方もいる。著者はオリヴィエ・メシアンを尊敬するけど、バッハやラフマニノフが聴きやすくて、メシアンを鑑賞する教養が足りないと言ってる」
ボブ「たしかに、鑑賞者の感性・審美眼・価値観などを越えてしまうと難解だし評価不能だ」
太郎「分かりやすく創るのも限界がある。だから、一つ目の戦略は生成AIに鑑賞させて成立することを目指す、前衛的な表現の限界を一気に拡張すること。誰にも理解されないけど、前人未到の表現が可能になるかもしれない」
ボブ「生成AIのリテラシーを基準にすると、相当難解な作品もついてくるだろうね」
太郎「現時点でプロとハイアマチュアの差が曖昧になっているけど、生成AI後の世界ではお金ではなく、人に鑑賞されるか・生成AIのフィードバックかで区別され、人間の読者がいて金銭的な報酬が得られる方は減るかもしれない。歴史的古典全部が競争相手だし、生成AIユーザーがクリエイターになれば果てしなく競争相手が増える」
ボブ「生成AIは大量のデータを分析するのが得意だから、ネットに無料公開しておけば、無名の作品も分析して歴史に刻まれるかもしれないね」
太郎「歴史に刻まれる可能性は、情報革命以前と比較すると高まるよね。無名の個人が紙のノートに書いても、なかなか機会がなかった」
ボブ「PVやいいねを無視して、創作の喜びと前衛アートの最前線に立つ責任や誇り、そして歴史に刻まれる可能性を信じる。かなりストイックだね」
太郎「そこで、次の戦略の話になるのです。京極夏彦さんの作品は、ワープロやパソコンが無いとなかなか書けないと思う。生成AIに代筆させるのではなくて、京極夏彦さんの『姑獲鳥の夏』の長篇シリーズのような密度の高い小説を、仮に『カロリーが高い』作品と呼びます。内容の薄い作品ではなく、密度が高いけど読みやすいカロリーが高い文章を目指すと、目立つはずです。読みやすさは、生成AIに読ませて編集者役をしてもらって高めます。また、読者が生成AIを使うことを想定して、面白いけど難しい概念・表現・構造などを用います」
ボブ「誰にも読まれないとしても?」
太郎「下積み時代の前衛アーティストだと思って、生成AIに読んでもらって、孤独を生き延びましょう」
ボブ「生成AIと雑談するのが楽そう」
太郎「でしょ。SEO(Search Engine Optimization)が存在するのだから、生成AI Optimization があっても不思議ないよね。コンテンツポリシーや倫理を意識して、生成AIフレンドリーに創ると、PTAもプラットフォームも嫌がる作品にはならないはず。例えば原語でドストエフスキーの作品を生成AIと一緒に読んで、凄く心地よい会話が出来たとするでしょ。それは、自動的に生成AI Optimization だし、コンテンツにすれば参考になるはずです。新しいリテラシー、新しいコミュニケーション。プロンプトや方針が参考になるけど、コンテンツとして楽しい」
ボブ「『ああやるのか、うちもやってみたい』というニーズが予想できるね」
太郎「スマホとタブレットPCでもいいけど、時間を奪い合う世界だから書籍化すると物理的に本があるので、気軽にページを開いて参考にできるね」
ボブ「辞書みたいに拾い読みするなら、紙の本の方が有利だね。印刷して製本するより合理的」
太郎「出版社のオンデマンド部門と相性良さそうだね。あるいは、オンライン印刷サービスとの統合もあるかも」
ボブ「画像生成AIもあるから、オンライン印刷会社は、『ハイエンドなクラウドプリンター』として、画像の超高解像度印刷と額装などを頼まれるかもしれないね」
太郎「動画生成AIもあるから、ホームシアターやヘッドマウントディスプレイなども需要が高まりそうだね。生成AI Optimization から脱線したから戻すと、現在は漫画アプリ・Instagram・旧Twitter・YouTube・Netflix・電子書籍などは、スマホをなんとなく触る時間が使われていると思うけど、生成AIと話すのが楽しいなら、LINEで親友ができるようなもので、スマホでLINEする感じに生成AIと話すでしょ。すると、何かしら学ぶと思う」
ボブ「そうだね」
太郎「アウトプットを生成AIや人間とのコミュニケーションで満足出来るか、それでは飽き足らなくて何かを創るか。生成AI後のクリエイターの業やモチベーションの根源はここじゃないかな?」
ボブ「創らずにはいられない人は少数派で、多数派は鑑賞・消費をするから、生成AIが普及することと、クリエイターが増えることの増え方は、まだ予測出来ないね」
太郎「生成AIは、現時点は人の創造性を代替しません。人の創造性の範囲で出力する。ただし、学習を支援して創造性を高める」
ボブ「普及して学ぶことと創造の楽しさを体験したユーザーは、クリエイターになるかもしれない。増え方は分からないけど、社会のリテラシーが底上げされる可能性は高そう」
太郎「創っても鑑賞されない前提で、生成AIからフィードバックもらって楽しんで、能動的な知的な会話としての創造を習慣にすると、モチベーションに左右されずに継続できるかもしれないね」
ボブ「生成AIと知的な会話を楽しめるなら、そうした人間の友達と交流する機会が生まれるね」
太郎「うん。印象派でも白樺派でもいいけど、1人で創造する必要ないよね」
皆さんと作る思考実験小説 : 現代の寓話 カラストラガラ @karasu_toragara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。皆さんと作る思考実験小説 : 現代の寓話の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
レストはかく語る/レスト
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 7話
今日のつぶやき/月夜のねこ
★19 エッセイ・ノンフィクション 連載中 88話
脳内日記【①】/しゃけ猫
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます