第7話 コンプレックスは押し売りと似ているから、帰って
太郎「言いにくいのだけど」
ボブ「なら、言わなくていいよ」
太郎「クッション言葉的には、『強い球を投げる』とお伝えしている」
ボブ「僕に選択肢はないの?」
太郎「コンプレックスは、一般的に誰でもあるはずだよね」
ボブ「『肉体に限っても、何かしらあるものだ』と、著者は18歳の時に臨床心理士から教わったらしいよ」
太郎「Spotifyで朗読しだしたよね」
ボブ「作中人物が知っていてはメタ過ぎるのでは?」
太郎「ダイエットや、筋肉を増やすことは可能だけど、背を伸ばすとか顔つきや骨格を変えるのは無理だよね。つまり、DNAの贈り物は選べないし断れない」
ボブ「うん。例えば洋服みたいに、選ぶことは出来ないね」
太郎「選択の余地がないことは、コンプレックスの要因の一つだと思う」
ボブ「理由は」
太郎「『ああ、これさえ無ければ』という悲しみは、選べないから起きることがあるし、『これさえ無ければ』という気持ちは、コンプレックス自体の一面でもあるよね」
ボブ「他の面は?」
太郎「『何かが気になることをやめられない』ことも、コンプレックスの一面だろう」
ボブ「ということは、自意識、自己による評価、他者からの評価などが関係するね」
太郎「僕に言わせると——」
ボブ「うん」
太郎「『悩み抜いて、どこに落としどころをつけるか』だと思う。コンプレックスが気になるかどうかって、『完全に本人の内面で問題ではなくなったから、外に出さない』ことではないよね」
ボブ「推論だけど、事実確認をするのは難しいね」
太郎「考えてほしいのだけど、国内名門大学を卒業していても、海外の大学院や、同じく海外の名門大学などと、比較してしまう気持ちは起きると思う。けれど、その比較をしない人と同じルールで競争したら不利ではないかな?」
ボブ「自社の仲間であれ、他社に属するのであれ、疲れそうだね」
太郎「少なくとも100m走をするアスリートが、どこで呼吸を止めるかなど試行錯誤する時に、同じくらい速いライバルの出身校や実績を考えるのは、不利に思えないか? そうした背景を含めて勝つために研究するのは、タイムを測っている『今』じゃないだろ」
ボブ「それ、マインドフルネスの応用で、気になることから『今ここ』に注意を向けさせるテクニックじゃないか?」
太郎「いや、その意図はない。するなら、マインドフルネスの話を最初からしている。マインドフルネスはエビデンスがある。マインドフルネス状態を保てば、心の静けさを保てる。けれど、その状態を習慣化出来る方は、おそらく一部の、資質のある努力家だと思う」
ボブ「理由は?」
太郎「認知行動療法は、自動思考と呼ばれる考え方の出どころ、スキーマ自体を探し出して、より良い考え方や感じ方に『上書き』するから、実践はとても忍耐と継続が必要だ。けれど、『上書き』してしまえば、もう自分の一部だから、継続するコストが0になる。考えなくてオートで行える。つまり、マインドフルネスの『今ここ』で断ち切る力と、根本的な解決を目指す認知行動療法は、併用するとお得なんだ」
ボブ「毎回蛇口をしめることと、蛇口自体を撤去することは、確かに異なるね」
太郎「あくまでも比喩だよ? 現実は、その方の個性や認知特性などを考慮する必要があるのだから。それに、苦しみが大きすぎる時だってある」
ボブ「コンプレックスなぁ」
太郎「100年先を考えるとか、自分を他人として見て気にするなと言ってやりたいかとか、マインドフルネスで止まり、認知行動療法で練習すると『上書き』出来るのだとしたら、それは誰が考えているのだろう?」
ボブ「本人では?」
太郎「気にしたくないのに断ち切れないことは、『自意識の誤作動』と呼べないかな。つまり、その方の信念から出たことではないかもしれない。真意ではないというか。僕らは、己の望まないことをすることもある」
ボブ「こう対話してみると、コンプレックスは、不公正だね」
太郎「何かを選べなかったとか、手に入らないなどの不公正のことかな?」
ボブ「それに加えて、自分でどのコンプレックスを選ぶか決めていないだろ」
太郎「自分で選んでないかもしれないのに、心を締め付けられるのは理不尽だよね」
ボブ「なら、どう対処する? カウンセラーや精神科医に相談出来ない状況もあるよね。葛藤はあっても、仕事や生活に支障がないし、時間が取れないとかさ。地元に相談できる専門家が少ないとか、仕事帰りでは予約取れないなど」
太郎「メタに考えよう」
ボブ「OK」
太郎「『自分の事情を知らない視点』で、『現在の自分から相談された場合』の両方を、外側から見てみよう」
ボブ「自意識から、注意を逸らしつつ、自分と向き合うわけだね」
太郎「あくまでもサンプルだから、小説を三人称スタイルで書くのが得意な方とか、認知行動療法に詳しいから対処が向いているとか、マインドフルネスではなく座禅と瞑想に詳しいなど、その方が得意な方法があると思う」
ボブ「なるほど」
太郎「煎じ詰めると、目指すゴールは、
『残念なことも悔しいこともあるけど、悪くない人生だし、私は良くやってる』と、
いかに思えるようになるかから逆算することだと思うんだ」
ボブ「いいね」
太郎「いかに速く自分のすべきことに着手して、黙々と積み重ねるかが勝負だから、『コンプレックスとの共存方法の獲得』そのものは、負担が小さい方が習得も継続もしやすいよね」
ボブ「他人の評価はコントロールできない他人の行動だと理解したとしても、それでもなお、自分の内面の『統治』が必要なのか。ゴールが見えないよ」
太郎「そこを乗り越えるから、味が出ると思うよ。無駄な努力なんて、あってたまるものか」
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【作者からのお願い】
この作品はフィクションで、何かを見つける際のヒントの提供や、叩き台の提案を意図しています。だから、専門書を読んだり、専門家であるカウンセラーや精神科医にご相談下さい。
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