第5話 理屈では賛成だけどの「だけど」を考える

太郎「『言ってることは正しいか否か。その主張に賛成するか否か。その方を応援するか否か』は、区別出来るよね」

ボブ「政治や思想の話は避けよう」

太郎「少数派が不利益を受けることに絞ればよい?」

ボブ「抽象的にね」

太郎「抽象は僕の担当だが、今回君は機能しないのかい?」

ボブ「炎上はゴメンだ」


太郎「Aという属性の少数派が、Bという属性の多数派を攻撃したとしたら?」

ボブ「具体的な状況は分らないけれど、例えば国際政治や歴史を踏まえると、とても難解な問題だ。責任の所在を確認する前に、まずは、いかなる攻撃もやめさせる。そして事情を聞く。事実確認大切」

太郎「B側も少数派だったら?」

ボブ「変わらない」


太郎「Aという属性の人が、Bという属性の人の不利益を黙認したら?」

ボブ「気が付かなかったとか、反対して介入するリスクが高いなど、黙認以外の理由は無いの? 黙認と考えた根拠は?」

太郎「なるほど一理あるね。根拠は大切だ。けど、属性Bの側からすれば、沈黙は黙認と変わらないだろ?」

ボブ「不利益を受ける側の心情はそうだね」


太郎「今、細かな話を確認しただろ」

ボブ「細かいというより、試された感じだ。踏み絵と似ている」

太郎「不利益を与えていい場合があるか、確認する途中だけど、君は例外を認めなさそうだから、切り口を変えた」

ボブ「何らかの属性を理由に、不利益を与えたらだめだろ」


太郎「属性Aが嫌な人だったら?」

ボブ「私にも感情があるから、その人を食事に招いてもてなすことはしないと思う。自分の友達にすることと対応は変える。けれど、それは私個人の生き方の裁量に許された範囲のこと。私の主観的な感情で、他人に不利益を与える選択はしたくない」


太郎「なら、死刑囚なら?」

ボブ「それは具体的な属性だから、どう答えても揉める」


太郎「おとぎの国で、イタチを泣かせると、サトウキビになる刑罰があるとしよう」

ボブ「そこはイタチランドなの?」

太郎「いや、人が様々な生き物と暮らしている」

ボブ「サトウキビになる刑罰は、どうなるの?」

太郎「美味しい砂糖になる」

ボブ「死刑の言い換えにもほどがある。刑罰があるとしても、駄目なものは駄目」


太郎「OK。つまり、属性Aを持つ個人が誰であれ、属性自体を攻撃しないわけだね」

ボブ「君が抽象化してるの、差別だろ? 『その事情なら仕方ない』と思ってしまうことは、判断ミスを起こしかねない。倫理的に明らかに駄目なことや、不公正なことは、『ルール違反だから駄目』でいいと思う」


太郎「なら、属性Aの人がダブルスタンダードを用いる場合は?」

ボブ「それは、属性関係なく、ダブルスタンダードは駄目」

太郎「属性Aの当事者から、『属性Aだから攻撃した』と言われたら?」

ボブ「やり取りを記録して、第三者も事実を確認出来るようにする」


太郎「差別や公正さを考えると、対等に扱うことは何かを意識させられるね」

ボブ「ダブルスタンダードでも、集合住宅で夜中に騒ぐでもいいけど、『誰が』とか『属性Aの誰かが』の話ではなく、言動のみを指摘するようにしている」

太郎「難しいのは、属性Aが不利益を受ける状況であれば、その方は指摘を受けたのか攻撃されたのか、区別がつかない可能性があるということ」

ボブ「『差別する意図はない』という話ではなく、『事実確認をしてもらって、第三者が見ても問題点を指摘したことが明らか』な場合は、相手の主観の問題だと思う、冷たいけど」

太郎「相手は攻撃されたと認識しているとしても?」

ボブ「とても難しいけど、嫌な気持ち・不快な気持ちにさせたことまでは、謝って歩み寄れるかもしれない。けれど、第三者が見て攻撃や差別の事実がないのに、相手の受け取り方を認めろと言われても事実と異なる」


太郎「抽象化すると、多数派は言いがかりをつけられると警戒する。少数派の多くは、特別扱いではなく、同じように扱って欲しいのだと思う」

ボブ「言いがかりに関しては、ECサイトお客様窓口業界出身の著者によると『金品の要求や、それに類することが無いか、感情的なお客様と接する時に意識した』とのこと」

太郎「——中の人が業界の話を持ち出した!」

ボブ「『お金に換算できる実害の有無も、気をつけた』と言ってる」

太郎「言いがかりか区別するのに、『金品の要求』と『実害』を意識するのか。抽象化すると、『何かを訴えている人に実害があり、その人を特別扱いしないこと』を意識するのかな?」

ボブ「うん。それと完全な多数派っていないだろ?」

太郎「人は複数の属性を持つよね」

ボブ「例えば、属性Aでは少数派だけど、お勤めは順調で経歴も華やかで、資産家かもしれない。けれど、過労で病気をして障害を負ったかもしれない。さらに、ご両親が移民で、海外の親族の支援も期待されて重圧があるかもしれない」

太郎「やけに詳しいな」

ボブ「済まない。特定の人物と関係ない状態にしようと複雑にし過ぎた。ようは、人は『属性A』だけでなく、いくつもの側面があるし、その人の歴史や家族史も含んだ多層的な存在だから、一つの属性で決めつけるのがナンセンス」

太郎「『人を見る目を養い、手を抜かずに接する』と言えるね」

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