第4話 複雑になる世界と公私の話

太郎「公共の空間のことなんだけどね」

ボブ「何か考えごとをしているみたいだけど、途中から話されても分からないよ」

太郎「すまない。考え事をしていてね」

ボブ「指摘している」

太郎「パブリックの境界はどこだと思う?」

ボブ「もう慣れたけど、君は本当に。——境界? 状況による」

太郎「ざっくりと正解を言うのは、作品を壊すと思わないか?」

ボブ「メタフィクションだからね。著者の知っていることなら『言う』し、何なら知らないことも『書く』つもりらしいよ」

太郎「なにゆえ?」

ボブ「そのうち、本人出てくるんじゃない?」

太郎「おっと、無茶振りはそこまでだ。境界については了解。なら、プライベートの境界線はどこにする?」

ボブ「プライバシーで保護される、干渉してはいけない領域」


太郎「友達とリビングで家庭用ゲーム機で遊ぶことは?」

ボブ「①友達を招き入れている②厳密には『友人と遊ぶのに必要なこと』を共有するだけで、言いたくないことを言わないでいられる」

太郎「うん。なら、根拠は何だろう?」

ボブ「法律は専門外だから、一般的な社会常識で答える。日本なら憲法と個人情報保護法などだと思う。で、その背景にあるのが、哲学的な概念による根拠。例えば、自己決定権や人格権」


太郎「哲学も専門外だよね?」

ボブ「門外漢も知を楽しむことは出来る」

太郎「いや、イエスかノーの二択の質問だよ」

ボブ「『専門外です。だけど、』に続くと思ってほしい」

太郎「論点のすり替えかと警戒したら、不備だった」

ボブ「結局、専門外で何?」

太郎「いや、確認しただけ。間違う可能性もあるから」

ボブ「そうだね。意図せずに誤字をしたりするよね」


太郎「自己決定権と人格権の定義や、プライバシーとの関係は読者各位に調べていただくのがいいと思うんだ。常に最新の情報に触れられる。この会話は、公開したら時が止まるからね」

ボブ「また、メタなことを」

太郎「自分で決めていいし、自分で責任を負う範囲だと考えると、イメージしやすいと思わない?」

ボブ「それはそうだね。例えば、子どもの家庭に親が訪れて、その家庭の所得や生活水準や孫の教育に口出しすると、揉めるね」

太郎「家族や親族だから許されると認識する範囲が、世代や個人で文化が異なるんだよね」


ボブ「そうだね。君の言いたいことは、アドラーの『課題の分離』や、バウンダリー(境界線・自他の責任の線引き)で、社会問題を確認するってことかい?」

太郎「国や地域や時代、都会と地方など、様々な要素で文化が変わり、その文化にバウンダリーにしろプライベートにしろ、含まれる。時代に縛られることも、そう。世界の動きを人やお金の流れである経済で分析するように、人と人の問題は、パブリックとプライベート、あるいは心理学の『境界線』で考えると、理解しやすい」

ボブ「そうだね。例えば、駅に痴漢や盗撮や暴力を警告するポスターが掲載されていることもあるだろ。仮に成文法が無かったとしても、自然法の考え方で、『パブリックな場で同意無しに何をしているのか?』『プライベートな場で同意無ければ性犯罪や暴力だし、同意があっても倫理的に……」

太郎「そこ。『同意があっても』の部分。同意した側に、そんなことに同意しなくていいことを伝えたくなるけど、口出し出来ないのはなぜ?」

ボブ「2人の問題だから」


太郎「そのプライベートな問題、あるいは『境界線』が、その人ではなく、その人達になっているだろ」

ボブ「なってるね」

太郎「じゃあ、世界人口80億人まで拡大すると、どうなる?」

ボブ「プライベートの中から、大多数の人に不利益のない事柄を抜き出したものにならない? それ以外は、必ず揉める」

太郎「なら、プライベートだけで本来説明つくと思わない?」

ボブ「どういうこと?」

太郎「心理学の『境界線・バウンダリー』で説明がつくのだから、パブリックと言わなくても、プライベートだけで運用出来ると思うんだ」

ボブ「いや、二つの概念があった方が、分かりやすいだろ」

太郎「お互いにお互いのプライベートを尊重することを守れば、パブリックも保たれないかな?」

ボブ「NOだと思う。発想は面白いけれど、それは達成不可能なはず。なぜなら、世界に悪はあるし、防犯のために施錠するだろ」 

太郎「まあ、図書館から借りた本を汚したり傷つけても弁償しないとか、町を汚すとか、公私の区別が曖昧になっていることは認める」

ボブ「世も末だとか、人心が荒廃しているという話ではなく、もしかして『お互いを尊重すること』の境目が分からないのかな」


太郎「おそらく。例えば、単なる感想なんだけどさ、1990年頃に、TVを見ながら独り言を言ったとするだろ」

ボブ「うん」

太郎「現在は、SNSなどに書けば、本人の目に触れる」

ボブ「ネットを使う人がいる場所はプライベートでも、ネットはパブリックな空間だね」

太郎「そして、悪意を持って攻撃する人もいれば、愉快犯でデマを流す人もいるし、それを拡散する人もいる」

ボブ「2000年と比較して、奇妙な事件を時々見るのは気になっていた。共通するのは、考えれば分かることを行うこと。パブリックとプライベートの境目が甘いところに……」

太郎「ネットという複雑なレイヤーを被せたことを含めて考えると、社会常識のアップデートを行えた人と行えなかった人に分かれても不思議はない」

ボブ「『なぜ他者を尊重出来ないのか?』の、前提が壊れるね」

太郎「どこまで壊れているのかが、怖いんだよ」

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