第3話 断り続けることと虚無

太郎「虚無は実在した」

ボブ「虚無僧のこと?」

太郎「字は似てるけど無関係」

ボブ「どういうこと?」

太郎「騙されたと主張する人に主体性も、状況から抜け出す意欲も、何もなかった」

ボブ「複雑だね」


太郎「まず前提として、騙される方が悪いとは考えていない。刑法で考えても、騙すことは悪いことだろ? また、被害者を泣き寝入りさせるつもりもない、ぜひ、きちんと手続きをして、警察・国民生活センター・弁護士などの専門家に相談してほしい」

ボブ「そうだね、我々の会話は、不快なトラブルが解決してからお楽しみいただきたい」


太郎「次に、何らかの病や困難が想定できるが、これは具体的な事柄を題材に創作されたフィクションなんだ。だからこそ、倫理的にフェアな状態を意識したい」

ボブ「そこは、登場人物の僕らも意識しよう」


太郎「話を戻すと、クマのぬいぐるみを買えば病気が治ることを信じて購入したけど、クマのぬいぐるみが届かないらしい」

ボブ「よくあるパターンと違うね。それは病気が治らなくて怒る話なのでは」

太郎「たしかに発送したけど、超自然的な力で配達が行えないから、さらに追加料金を要求されて、気がついたらしい」

ボブ「気がついたなら良かったじゃないか」

太郎「自分の金利が安いことに」

ボブ「念のため確認するけど、クマのぬいぐるみが届けば治ることは信じているんだよね」

太郎「そこは私も不思議で、確認したら、『言われてみれば、因果関係を考えていませんでした』と言ってた」

ボブ「その人は、何か事情があるのかい」



太郎「山ほどある。なかでも、何かを信じ込む傾向が、いろいろやばい」

ボブ「原因が分かったなら、対処出来るだろう」

太郎「指摘も無批判に信じるんだ」

ボブ「?!」

太郎「しかも、複数人に相談しているから、私と話すと私のような意見になり、Bさんと話すとBさんに染まる」

ボブ「それじゃ、その人自身の意見はどこにいくんだい?」

太郎「問題に直面した時に、『こうなったのはBさんのせいだ、私は騙された』という形で、出てくる」

ボブ「問題が2つある。主体性と責任転嫁の問題。自分の意見が無くて、問題が起きた時に責任転嫁をするのだとしたら、その方はいつ成長するんだい?」


太郎「観察すると、困っているように見えるけど、本人が改めたり成長する姿勢がないから、『何もしたくない』という意志を貫いている可能性がある。それで、僕みたいにおめでたいやつが、相談に乗ってしまったりする。でも、違和感を覚えて手を引くだろ? 本人は、また別の人を探しに行く」

ボブ「そこまでして、騙された自分にこだわるのは、なぜだろう?」

太郎「分析して推測をすることは出来るけど、本人が絶対に認めないと思う。なぜなら、『そこ(何もせずに済む状態)』から出てくる必要があるし、本人を見ていると、出てきたく無いとしか思えないんだ」

ボブ「そう見えるだけで、確認はしてないね」

太郎「そのように見えるということは、親切な助言にしろ、警戒して距離を置くにしても、周囲の行動につながるよ」

ボブ「認知バイアスで、何らかの偏りがある?」


太郎「おそらく」

ボブ「マイナスをゼロに戻す努力をするくらいなら、マイナスの状態にいるということかな?」

太郎「分からない。気がしれないという意味ではなくて、なぜ、思考を停止できるのだろう。あたかも感覚をオフにしたかのような自分を投げ捨てる行動に見える」

ボブ「そこが、虚無と関係あるのか」

太郎「人生に意味はないと考える方は存在する。時間は貴重だと言う方もいるし、死ぬまでの暇つぶしと言う方もいる。けれど、そうした意見は考えて検討して納得して選んだ、その方の信念だろ?」

ボブ「主体性があるよね」


太郎「今回のクマちゃん未配達の方は、何も選んでいないように見える。例えるなら、回転寿司で、周囲はどんどん皿を選んだりオーダーするのに、ずっと『違う』と言い続けることと似ている。違うと言う点に意思や主体性は感じるけど、NOと言い続けると良いものが与えられると誤解しているかのようだ。実際は、機会損失している」

ボブ「違うと言い続けると、特別な何かが得られるルールじゃないからなぁ」

太郎「椅子取りゲームでもいい。断り続けたら、ゲームに参加できない」

ボブ「得られるものをどんどん失うよね」


太郎「恐ろしいのは、本人の中では騙され続けることは事実で、世の中はひどい人が多いことになっている。検証しないから。自分の感じ方や思い込みも、無批判に受け入れている」

ボブ「考えたくないが、その状態の人がスマホを持つと、危なくないか?」

太郎「メールもチャットツールもSNSも、どういう状態か、想像するの恐ろしいよ。無防備というか捨て身というか、どこに自分を落としてきたのだろうね」



ボブ「専門家の支援が必要かなのではないかな。例えば、生育歴によほどの出来事があったとか」

太郎「専門家に相談に行ったとしても」

ボブ「染まるのか」

太郎「専門家だから見抜いて対処するだろうけど、批判的思考を持たない人を支援するって、足場がないのに家を建てるのと似てないか?」

ボブ「困難だね」

太郎「そう思う。僕らができるのは、理解し難い生き方だけど、拒絶せずに、同じ社会で暮らすから、町で顔を合わせたら挨拶すること、くらいかもしれない」

ボブ「話を聴くことも、本人の混乱を深めるかもしれないもんな」


太郎「結局、クマのぬいぐるみ未配達の方は、磁石のようなもので、他人を利用する傾向の人々を集めてしまうんだ」

ボブ「それを利用して、他人を利用する人々を法的に対処するのはどうだろう?」

太郎「倫理的に許されるなら、社会は助かる。けれど、自分を捨てているかのような状態に留まることを、そのままにしていいのか、難しい」

ボブ「本人の強い意思は感じるけど、『変わりたくない』のであって、問題を解決したいわけではなさそうだからなぁ」

太郎「この方は、いったい何を拒絶しているのだろうね」



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