第2話 私を信じてと言わないゲーム
太郎「聞いて欲しい」
ボブ「長くなるなら火止めるけど」
太郎「同じ時間でも密度で感じ方は異なると思うんだ」
ボブ「消してきた」
太郎「僕らの前回の会話なんだが、難しいと言われた」
ボブ「メタフィクションだね。作中人物の僕らから見て、作品外の時の流れは分からないし『前回』って、連載されているみたいじゃないか」
太郎「信じ難いだろ」
太郎「それでだ」
ボブ「続けるのか」
太郎「難解な言葉は使っていないが、扱っていることはマニアックだと反省している」
ボブ「書き直せばいいじゃないか」
太郎「いや、前だけ見て進むべきだろ」
ボブ「読者に対して読みやすくすることは、前を見ても横を見ても、行えるのでは?」
太郎「ちがくて」
ボブ「ふむ」
太郎「あれ以上平易に話すことは難しいから、先に進めることで、読者の判断材料を増やしたい」
ボブ「最善の努力をした上で、信じて委ねると」
太郎「そう言いたい」
ボブ「それで、今日は何を話しにきたんだい?」
太郎「情報リテラシーと判断材料のことを考えている」
ボブ「ふむ」
太郎「君は、自分が信用できる人物であることを、どう証明する?」
ボブ「それは他者が決めることだから、自称すると逆効果だ」
太郎「いいね。じゃあ、どうする?」
ボブ「この作品の著者も無名だしな」
太郎「メタな自虐は、ややこしいから自重しろ。簡単なことだよボブ、判断材料を与えればいい」
ボブ「どうやって?」
太郎「嘘を付いてはいけない。言いたくないことを言わないのは構わない。一貫性が無いといけないから、矛盾や論理的な破綻はいけない。事実を確認できるのが良い」
ボブ「複雑だな。期間は?」
太郎「相手の物差しによる。一瞬の方もいれば、数年かけても無理な方もいる」
ボブ「それだけ時間をかけるのか」
太郎「そう。そもそも、他者に評価して貰うのだから、急かしてはいけない。急かして、即断させる手法があるから、誤解を避けるべきだ」
ボブ「愚直に行くわけだね」
太郎「そう。嘘をつくことは簡単だけど、破綻しない嘘を継続するのは、とても難しい」
ボブ「まあ、そうだろうね」
太郎「例えば、『クマが、空手家に勝った』というフェイクニュースがあったとする」
ボブ「勝たないか?」
太郎「ヒグマを倒す空手家は怖いけど、まずは事実を確認しよう」
ボブ「独自ドメインで、作成されて1年経っていないとか?」
太郎「いや、SNSで拡散されているとしよう。写真は画像生成AIかもしれない。文章は、生成AIが翻訳したかもしれない。プロフィール? 何を見る?」
ボブ「異なる情報源で、同じ話題が扱われているかと、拡散された画像をGoogleで画像検索する」
太郎「いいね。付け足すと、災害や事件だと報道機関のアカウントが、画像の掲載許可を求めて『連絡したいからフォローして下さい』と集まることがあるよね」
ボブ「そうだね」
太郎「なぜ、どのメディアも来ないのかな? 『SNSで話題のクマ』、新聞もTVも雑誌も、話題を集められるはずだ」
ボブ「拡散されるだけで、終わるケースもあるね」
太郎「また、インフルエンサーが事実と間違えて拡散することもある。今回のクマと空手家の話は創作と分かるように意識したけれど、感情に強く訴えかける悲惨な写真やエピソードだと、雑誌が取り上げて主要なニュース配信サービスに載ることもある。少なくとも、外国で複雑な状況にある国の発言を、単に翻訳したか、情報源をそこだけの伝聞で終わっていることもある。これでは、雑誌編集部がどのように裏をとったのかとか、例えば女性週刊誌とは専門性が異なるはずなのに、どのように検証したか、書いていない。判断材料がないんだ」
ボブ「フェイクニュースが掲載されたかではなく、フェイクニュースを載せないための取り組みを行ったか、確認する方法がないことは、読者も確認できるね」
太郎「そう。あとは、君が言ったように、異なる情報源で確認すればいい。海外の情報なら、海外のジャーナリストが検証している可能性がある」
太郎「そもそも、自分の専門外を全て学ぶのは、時間も能力も足りない」
ボブ「それは、そうだ」
太郎「だが、汎用的な『分からないこと』の扱いを覚えると、合理的だ」
ボブ「具体的には?」
太郎「①論理の繋がりを意識する②スラングの扱いに気をつける③発言の場と形式を確認する」
ボブ「やけに具体的だね。何か見たのかい?」
太郎「『なにか見た』のハッシュタグを連想してくれ。まず『①』は、難易度が高いが見つけたら話は終る。『AだからBだ』とその人の専門外なのに断言をしているから、理論を当てはめていいのか、確認する。案の定、科学的な根拠は無く、単なる推論だった」
ボブ「前提が成立しないのか。あと2つは?」
太郎「②は、SNSだと意味なくスラングを使うとか、検索避けや文字数を節約するなど、いくつも背景があるが、『異なる意見の相手を侮辱し下げることで、心理的に優位に立とうとする』可能性を考えている」
ボブ「だが、その手法を使うことは、手法を見抜く相手を軽視していないか」
太郎「そう。自宅の居間などのネットとは関係ないプライベートな空間と異なり、不特定多数が閲覧するパブリックな空間である意識が麻痺している」
ボブ「仲間意識の確認もあるのでは?」
太郎「あると思うよ。大切なのは、僕らの推論が全て外れたとしても、公共の場で侮辱的なスラングを使った事実は残ることだ。釈明するにしても、事実は残るから、苦しいだろ。そこまで考えたら、安易に使わないはずだ」
ボブ「まあ、僕らが使わないのは確かだ。で、③は?」
太郎「例えば、秘密や真実の告発だとしよう。匿名で告発する可能性もあるが、その場合は、SNSで愚痴のような形で、みんな真実に気がつかないと嘆くだろうか? むしろ、証拠を提示したり、内部の者しか知り得ない事柄を話して、告発が真実であることの判断材料を出す。また、間違いなく報道も反応する。報道にとってはスクープだからね」
ボブ「なるほど」
太郎「何より、『なぜ知っているのか』を意識したい。アメコミのX-MENのような陰謀は、フィクションかつ特別な主人公だから、知り得る。僕らは全員、自分の人生の主人公であり、他人・社会の脇役だ。逆ではいけない。例えば僕は『太郎』であり、単なる通行人Aに過ぎない。このお話の、語り手ではあるけど」
ボブ「メタな発言がきたね」
太郎「自己認識だけでは、問題だろ?」
ボブ「比喩より、スッキリしたね」
太郎「ところが、世界の真実を知っていて、周りが理解しない、簡単に言うと周囲は愚かだというスタンスがある」
ボブ「やな感じだね」
太郎「印象はともかく、『最善を尽くしたけど、万一間違いがあったら言って欲しい』という姿勢がないと、真実があるのか『真実』を信じ込んでいるのか、区別しようにも確認が困難だ」
ボブ「それはそうだ」
太郎「証拠などで判断材料を出さない。周囲が愚かだと思っている。発言が真実か区別がつかない。この3点が揃っているのに、『真実』の内容を検証する必要があるのかな?」
ボブ「正直、忙しいからスルーだね」
太郎「にもかかわらず、SNSでの発言に留まる。情報発信として、手を抜きすぎだろ? 理解者を増やしたいのに、見下すことをやめられないのは、客観視で自分が見えていない。一般的に、客観視が出来ない状態は、主観的なはずだ。『あなたにはそう視えるのですね』と思われて、終了だろう」
ボブ「SNS以外で情報発信している可能性は考えた?」
太郎「もちろん。まず、なぜSNSでその発言を紹介しないのだろう? 別人を装うことも出来る。匿名性を守りたくても、できなくはない。次に、他のチャンネルでの発言は、別問題として、改めて向き合う。そして、『SNS以外で発言していない』ことは悪魔の証明だから、答えられない。なら、確認出来る範囲で考えるから、無いのと変わらないだろ」
ボブ「まあ、誰かが信じ込んでいるだけかもしれないのに、SNS以外でその人が発言していないか探す労力は厳しいし、探すのは困難だ」
太郎「真実であるのなら、判断材料を出すことが誠実であり合理的だと思う。それを怠るのなら」
ボブ「うん」
太郎「誠実な姿勢に気がつくまで、取り合わないのも、情報に接する上で、誠実だと思う」
ボブ「それを共有できるかなぁ」
太郎「そのための、メタフィクションだよ。これも、判断材料になるはずさ」
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