4:同僚たち

「ねえ聞いた? 営業の相葉さんと但馬さん」

「聞いたって言うかさ、観たよ。全国ニュースじゃん」

「そりゃあね、あんな死に様じゃあねえ。ネット記事とか週刊誌なんかはかなりセンセーショナルな見出しつけてるよ」

「見た見た、愛憎の縺れの末の猟奇殺人か、ってね」

「但馬さんの離婚前からあの二人がそういう関係なの、一部では知れ渡ってたけどさあ」

「でも少し前からちょっとおかしかったよ。相葉さんが妊娠公表した頃から但馬さんは避けてる感じだったのに、いつの間にか真逆になってるんだもん。入籍したのに即別居してるし」

「夫婦じゃなかったら、ていうか夫婦なのにストーカーみたいだったもんね、但馬さん」

「相葉さんも相葉さんで、あんなにあからさまな匂わせ女だったのに、なんで急に拒絶反応起こすようになったんだろ? 妊娠中は過敏になるって言うけど、それだって尋常じゃなかったよねえ」

「で、挙句の果てがアレでしょ?」

「ニュースじゃ敢えてぼかした表現してるけどさあ、エグかったんでしょ。現場は相葉さんのアパートだっけ、ひっどい事故物件になっちゃったよねえ」

「私が同じアパートの住人なら住み続けるの嫌だわ、すぐ引っ越す」

「折角、慰謝料一括で払っても余るくらいの宝くじ当たったって言ってたのにね」

「ていうかさ、ニュースじゃあ但馬さんが相葉さんを惨殺したあとに自殺したって言ってるけど……ホントかな?」

「だってほかに、誰が殺すって言うの」

「誰って言うか、そもそも誰があんな殺し方できるの? 人より、むしろ熊とか虎とかに食い殺されたような有り様だったらしいじゃん」

「うわっ、改めて聞くときっついわ、トップクラスに悲惨な死に様よね」

「じゃあその場合、但馬さんはなんで死んだって言うの」

「新妻の無残な姿に発狂して、とか?」

「そう言えば、但馬さんの元奥さん、経理にいたじゃん?」

「営業とはフロア違うから、相葉さんが暴露するまで不倫に気づいてなかったらしいね」

「こないだ辞めちゃったんだっけ? まあ確かに、元旦那とその不倫相手のいる会社には残りづらいかあ」

「結局、元旦那も不倫相手もいなくなっちゃったけどね」

「不謹慎ー。それがさあ、元奥さん、会社辞めると同時にマンションも引き払ったみたいで、目下行方不明らしいんだよね」

「マジ?」

「マジマジ。マンションどころか、スマホや銀行口座すら解約したみたいよ。実家は北陸のほうらしいけど、家族も居場所知らないんだって」

「何、高飛び?」

「あの二人が死ぬ直前っていうのが、なんか意味ありげ?」

「でも絶対、女の人じゃ無理だよあの殺し方は。ていうか男の人だって難しいって」

「別に疑ってるわけじゃないって。警察でも、被疑者死亡ってことで捜査終了でしょ?」

「こういう言い方もアレだけど……バチが当たったんじゃない? 人の旦那さんに手を出して、結婚してるのに不貞を働いたから」

「さすがに割に合わなくない? 確かに不倫は悪だけど、あんな死に方するほどのことじゃないでしょ」

「なんにしても、悪いことはしないほうがいいってことかもね」

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