24:第1章エピローグ【愛しき私の——】

 真っ暗闇な会場に、ふつふつと緑と赤の光が湧いてくる。

 観衆の声は様々だ。

 その始まりを待ちわびる声。初めて使うに困惑する声。そして、舞台に立つ二つの人影に歓声を抑えきれない声。


 そして、魔法で拡大された楽器の音が始まる。


 同時に、スポットライトに照らされたのは――。


《共に在る覚悟を問われれば答えは一つ。【汝、終焉において我が名を呼ぶのなら】 運命ですら捻じ曲げる意志を》


 ――アタシとフィロメニアだった。


 この一ヵ月、必死に練習したステップを踏み、歌声に会場が湧く。


 前に見た舞台のように、厳かな雰囲気などではない。

 観衆は皆立った状態で、アタシとフィロメニアが腕を上げて手を叩いてみせると、同じように前奏に合わせて手拍子が鳴った。


 帝国で流行っているらしいポップな曲調だ。


《決められた未来は訪れるのを今かと待っている。けれど抗うために星へと願う》


 舞台は専用に作った特注のもの。

 中央に円状の舞台があるのは変わらないが、それに至るが舞台袖から続いている。


 アタシとフィロメニアはその橋の真ん中で互いを意識しつつ歌う。


《【それが朝であろうとも、常に星はそこにある】 物語はすでに始まっている》

《【それが昼であるからこそ、常に星は見つけられることを待ちわびている】 流されそうになる運命の放流》

《【それが夜であるならば、常に星は見つめてくださっている】 抗う力を腕に込め》


 星典を引用した古代口語を含んだ歌詞は、この王国でも新鋭の音楽家に作らせたものだ。

 発音が難しい部分があるが、アタシの【模倣Imitate】は完全にそれをトレースすることを可能にしている。


 ちょっとズルかもしれないけれど。

 

《いま突き出す拳を星空へ。明日の世界へ》


 そしてサビへ向かって曲が盛り上がっていく。

 観衆の熱が、ラウィーリア領製のサイリウムの動きとなって伝わってくる。


 アタシたちは中央の舞台へたどり着き、互いの目を見てステップを踏んだ。

 

《砕け! この星の上ですべての剣が君に向けられたとしても僕は立つ。君の前へ》


 振り向き、観衆に目を向けると、試しに作った団扇を振る集団が見えた。

 そこには「ウィナフレッド様 ここにいます!」とか「腹パンメイド様 カッコイイ!」とか書かれている。

 

 アタシは自分の名前が書かれていることに笑みを抑えることができず、踊りながらもその集団に指を刺した。

 すると歓声が上がって、更なる高揚感がアタシの頭に押し寄せる。

 

《【君が名前を呼んだから】 立ち向かう強さは僕たちの絆の証》


 激しいダンスにメイド服を基本にした白と黒の衣装が揺れ、スカートが翻った。

 フィロメニアは青と赤の騎士を思わせるドレスを着ていて、アタシたちのテンポは完全に同期している。


 これが練習の成果だ。

 

《震えるほどに輝いて、風が吹き、君が笑う――それが僕の未来。今、足掻いてく、駆けあがる僕の未来》


 そして、今この会場の雰囲気を作ったのも、夏休み中にサイリウムの開発と製造、マーケティングを手掛けたフィロメニアの手腕と、わざわざ学園の人目につく場所でダンスを練習したアタシの売り込みの成果だ。


《砕け。走れ! 砕け。走れ!》


 それだけじゃない。

 下から照らされる色とりどりのライトや、曲に合わせて吹き上がるキラキラとした魔法は、シャノンやクレイヴの協力があって初めて完成したもの。


 この舞踊ライブの全てが、既存のそれを壊すまったく新しいものだった。


 けれどアタシには逆になじみ深い。

 それは前世でのライブを元にして演出を作ったからだ。


 もしかすればこんな曲調は受け入れてもらえないかもしれない。

 もしかすれば皆は演出に驚いて歌やダンスどころではないかもしれない。


 そんな舞台袖で用意をする間、そんなことを考えていたが杞憂だったみたい。


 曲の終わりにフィロメニアと背を合わせたポーズを決める。


 音楽が止み、光に照らされたアタシたちへ送られたのは、万雷の拍手だった。

 

 皆が笑い、熱中して、目を輝かせながら手を叩く。

 憧れという感情を抱いて、感動という気持ちを抱いて歓声を送ってくれる。

 

 アタシはそんな皆に応えるように、手を振り返すのだった。

 


 ◇   ◇   ◇



 私のは正しかった。

 今、横で手を振る彼女がそこにいることが証明だ。


 私は生まれた時から自分の役割というべきものを知っていた。

 誰かに教えられたわけでもなく、何を思ったわけでもない。


 ただ漠然とした理解だけが私の頭の中にあった。


 だからこそ、私の行き着く先も視えていた。


 それは破滅だ。

 なにを選択しようとも、この身が破滅することを私は知っていた。


 それに抗おうと自棄になった時期もあったが、すべては知っている未来に収束されるだけ。

 逆に周囲から疎まれる結果となってしまう。


 しかし、あの日、私は星に願った。


 この未来を、運命を壊せる存在が、【例外】が欲しいと強く願った。

 でなければ、この身を今すぐ壊し、冗長な人生など終わらせやると。


 そして、その願いは受け入れられた。

 最愛の友人という形で流星ほうき星のように彼女は送られてきた。


 彼女は私にとっても先の見えない闇をもたらすものだったが、同時に私を愉しませる光でもあった。

 それから長い間、彼女の使はわからず仕舞いの日々が続く。


 それを心得たのは学園に来てからのこの数か月の出来事で確定した。


 私には出来ることは少ない。そのほとんどは彼女の行動によって決まる。


 私に出来うる最大の選択は、「どこで賽を投げるか」だ。

 事実、全てを巻き込んだ状態で投げた賽は全ての運命を変え、私は見ているだけだった。

 

 それでいい。

 

 これからも私は私自身の頃合いを見て賽を投げる。

 彼女にもその覚悟があることを知った今、戸惑うことはない。


 私はこの世界の「悪」として、賽を投げ続ける。


 その先にどんな結末があろうと関係はない。

 決まった未来をなぞる退屈な生を生きるくらいならば、投げた賽の目によって決まる不確定な未来を私は選ぶ。


 それが、私の願いに答えた私の運命ならば。


 付き合ってもらうぞ。


 愛しき私の流星ほうき星よ。


 願わくば、我が運命に波乱のあらんことを。


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●作者からのお願い●

これにて一章は完結となります!

ここまでお読み頂きありがとうございます!


ぴったり10万字くらいになってホッとしております。

もし面白いと思って頂けましたら、概要ページより『☆☆☆で称える』を押してください!


ぜひともよろしくお願いします。

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