第5話

「天皇陛下、バンザーイ」

どこかから、そんな断末魔の

悲鳴のような声が聴こえてきた。


時は1945年、日本。日本政府は

ポツダム宣言受諾を連合国に

通告し、無条件降伏した。

天皇の戦争終結の詔が一部の

地域でよく聴き取れなかさったことは

後にわかった事実だった。


「櫻木君」

著名な国文学者、実葉竜也が

助手で生徒の櫻木言葉に大学の

図書室で声を掛けたのは

その日の夕方だった。

「何ですか、先生」

「この後、少しつき合ってくれないか」

「お食事ですか」

「ウム」

実葉は多弁な方ではない。

どちらかというと、物静かな感じだ。

百八十センチあり、当時としては

際立つほどの長身、そして

イケメンだといえるだろう。

「近頃、よからぬ噂が立って困っています」

「キミとボクの仲のことだね」

「先生には、奥さんも子供さんも

いらっしゃいますし」

「櫻木君、ボクは本気なんんだよ」

実葉が言葉を抱き寄せて、強く

口づけた。

「ダメですわ、こんなこと」

「なぜだね」

「世間の目があります」

「世間の目が何だい。ボクたちは

強烈に惹かれ合っているじゃないか」

「先生」


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