第22話 「付き合いたいんじゃないの?」

 あの日俺たちに寝返ると言い始めた橘は『じゃあちょっと私侑志君たちと縁切ってくるね』と言って突然その場を離れてどこかへ行ってしまった。

 何やらハイになってしまっている様子だったので、流石にこれは止めなければまずいと声をかけたのだが、俺の声は橘の耳に届かなかったようで止まることなくそのまま走り去っていってしまった。


 後々話を聞くと、橘は『スマホを見つけてくれた人を怪しむなんて絶対おかしいよ』と言って侑志たちと縁を切ってきたようだ。

 入学して侑志たちと過ごしてきた一ヶ月間、勇気が出ずに侑志たちとの縁を切れなかった橘だが、一度昂ってしまった感情の勢いそのままに侑志たちとの縁を切りに行ったらしい。


 侑志たちも去るもの追わずと言った感じだったようで、意外とすんなり侑志たちのグループから抜けることができたようだ。

 侑志たちからしてみれば自分のグループの輪を乱す橘のような存在は早めに排除したいだろうからな。


 あの事件から一週間が経過したものの真犯人が橘だと気付かれることはなく、クラス内の意見も俺と一井が犯人であるという意見と、それ以外に犯人がいるという意見に二分されており、意外と影響無く学校生活を送ることができていた。


「いやー、まさかウチがあんな大胆な行動するなんて思ってなかったなぁ」


「なんとか上手く行ったからいいけどな……。もっと考えて行動するべきだぞ」


 あれから俺たちは校舎裏のベンチに俺と博司、そして新那と一井、そこに橘を加えた五人で集まるようになっていた。


 新那と二人きりで使用していた空間に他の人間が立ち入ってきてしまったのは悲しさもあるが、そんな贅沢は言っていられない。


「我慢の限界だったんだろうね。一ヶ月も我慢してたわけだからさ」


「むしろよく一ヶ月も我慢したな」


「でしょ? じゃあ付き合ってくれる?」


「いやなんでそうなるんだよ⁉︎」


 橘はしばしば俺に付き合うよう迫ってくるが、心臓に悪いのでできればやめてほしい。その度に断るのも申し訳ないしな。


「えー、だって好きだし」


「一回振ってるんだから、もう少し時間経ってから告白してくれよ……」


「そうだよ。そんなことしてたら逆に嫌われちゃうよ?」


 新那は俺がスマホの事件で疑われたときも真っ先にかばってくれたが、橘からの告白攻撃に困った様子を見せていると一番に助けに入ってくれた。


 ごめん橘、俺新那と付き合うわ。


「えー、そんなこと言って、実は新那ちゃんが付き合いたいんじゃないの?」


「なっ--⁉︎」


 おいやめろ橘! 俺を庇ってくれた新那を困らしたら、今後新那が俺に対する態度を一変させてしまうかもしれないじゃないか!


  それに新那がそんなことを思っているわけ……。


 そう思って新那の表情を確認すると、新那の顔は信じられない程赤らんでいた。

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