第21話 「付き合えない」

「結論から言わせてもらうと……ごめん。橘とは付き合えない」


 頭の中で膨大な量の選択肢がぐるぐると回っていたが、まずは結果を伝えることにした。

 ダラダラと喋ってから結局告白に対してお断りを入れるのは、橘に失礼だと思ったからだ。


「……まあそうだよね。ウチらそんなに喋ったこともないし」


「一応お断りする理由を話そうと思ってるんだけど、先になんで俺のことを好きになったのかだけ聞いてもいいか?」


 よく考えてみると、俺はまだ橘がなぜ俺のことを好きになったのかを聞いていなかった。


 それを聞く前に橘からの告白をお断りしてしまうと、お断りする理由との辻褄が合わなくなる可能性があると考えた俺は、先に俺を好きになった理由を聞くことにした。


「入学してから一ヶ月くらい経つけど、侑志君が志道君にしてきた嫌がらせの数って数えきれない程あるわけ。入学してからなんとなく波長が会うのかなと思ってあのグループに入ったけど、完全に私の勘違いだったね」


「なんかほんとすまんウチの兄が」


 自分の兄はみんなから慕われていると思っていたが、侑志の本質を見抜き嫌ってくれる人もいるんだな。


 いやまあ迷惑かけてるのは本当に申し訳ないんだか。


「いやいや、侑志君の志道君に対する嫌がらせを何度も止めたいって思ったけど行動に移せなかった私のほうが謝罪しないとだよ」


「橘が謝ることはないだろ。俺と侑志の、まあただの兄弟喧嘩だからな」


「ほんと大勢で一人の人間をターゲットにして悪口言ったりするあの感じ好きじゃないんだよね」


「わかるぞ。ターゲットにされた人間だからな俺は」


 ターゲットにされた人間以外の人間で、ここまで俺のことを考えてくれていたのは博司以来ではないだろうか。


 きっと橘も、超がつくほど優しい人間なのだろう


「志道君はさ、侑志君から何されても何も言わずに耐えてるじゃん?あ なんでこの人はこんなに強いんだろうって思ったら少しずつ気になってきちゃって。それでいつの間にか好きになってた」


「……なるほどな。ありがとう。本当に嬉しい。俺、告白とかされたことないし上手く言えるかどうかわかんないんだけど、橘が嫌いってことは絶対ないし、ぶっちゃけ断る理由は見つからないんだわ」


 今回は溜まりに溜まった物を吐き出したせいでとんでもない行動にでた橘だが、普段は優しくて、面倒見のいい女の子なのだろう。


 そんな女の子からの告白を断る理由なんてあるはずがない。


「何それ、嬉しいこと言ってくれるね」


「ああ。だから付き合ってもいいんじゃないかなんてことも考えたりしたんだが……。やっぱりちゃんと好きになってから付き合いたいなと思ったから、橘からの告白は断らせてもらった」


 橘には告白を断りたくなるような嫌な部分はないが、俺はまだ橘を好きにはなっていない。


 付き合うなら本当に好きになってから付き合わないと、橘にも失礼だ。


「……てことはまだ可能性はある?」


「ま、まあなんか上から目線になるけど、そういうことだな」


「よし、じゃあ私、今日からこちらのグループに寝返ります」


「……は? 寝返る?」


 事態は収束に向かっていくかと思ったが、まだ一波乱ありそうな予感がした。

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